幕間 師匠の願い
《そうか…………あやつは戻ったか》
和馬が、蘇生に成功し、シノとのやり取りをしている頃、一人の老人がその一言をこぼした。
それは、曖昧な存在であった、そこにいるとも言えて、いないとも言える。
《十中八九戻るとは思ったが、戻るにしても早い、また、自分の限界を超えたか》
この、いるとも、いないとも言える存在は、和馬の師匠その人である。
《色恋に耽ていると思えば、中々に興味深い少女だ》
この、ご老人、実はさっきまでのやり取りも見届けている、例え、それで和馬が意識を取り戻さなくても、身体的に死にゆくまで見届けていたのかもしれない。
《あの少女がいれば、あやつは腐らないだろう、それに、あの少女といることによって、あやつの壁を破る速度も速くなり、武具もこれから強くなるだろうし、あやつの心持ちにも関わっている……一石三鳥ということか……》
老人は感心そうに頷いているが、それは和馬の為ではない、その本当の意味はこの老人しか知らないだろう。
《いや、あやつが成長することにより、我の願いも成就する、一石四鳥ということか》
老人は少し、考え事をするように、自分に問う。
《思えば、あやつを拾って、教えて数十年……いや、身体だけなら数年だったか?》
老人は自問自答する、最初から答えは決まっているが、問うこと自体に意味がある。
《我が貸した玩具《晩鐘》使いこなしているようだし、次の試練ももう少し早くなるかもしれんな》
老人は分析する、自分の為という理由もあるが、やはり弟子の成長は嬉しいのかもしれない》
《後は、技術面だが…………うむ、まだまだだな、鍛練を怠っていたのか?いや、確か、あやつは傭兵をしていたはず、そのせいで時間がとれなかったのか……》
《戯け者、と言ってやりたいが、社会にはルールという物があるからな……うむ、抑えてやろう》
《突き抜けた才能は無いが、あやつには限界を超える才能は持っている、精進していけばあの小娘にも勝機はあるというのに》
小娘とは、蒼華の事だろう、老人は基本的には和馬の事しか興味が無いが、その和馬の周辺にいる者にも、多少の関心は持っている。
《あやつは、自分を多少過小評価しているような気がするが、まぁ、それはいつか治るだろう》
老人は評価を見誤らない、それは、鍛え続けた洞察力と、長い間生きている老人の勘というものだろう、その評価は、誰にだって平等に等しく見られている。
《あやつが剣であの小娘を越すのも、そう遅くは無いだろう、しかし、それ以前に……》
老人は少し考え、予測する、老人の鍛えぬかれた思考能力はは、常人より深く、正確に、予測していく、まるで、未来を先取るように。
《まだ大丈夫だろう、あやつが封印を解き終わるまでには、後数年はかかる筈だ、しかし何故封印が解けかかっているのだろうか…………》
老人の言っている封印とは、和馬が体を創りかえている時に出てきた文様の事だろう。
《あれは、我が直々に掛けた封印、そんな簡単に外れかける訳が無い……では、何が要因なのだろうか……》
老人は少し考え、答えを導き出す。
《やはり、和馬のあの能力のせいか……》
能力とは、和馬が生まれながらにして、所持し続けている、理想を現実にする能力の事だろう。
《何故あやつに、あんな能力が備わったのかは知らんが……まぁよい、あやつが強くなるのに必要なのは事実だ》
老人はくっくと笑い、喋り出す。
《あやつは本当に面白い、我が考え付かない方法を色々と思い付き、それを実行していく、それに、あやつは縁にも恵まれている、全く本当に愉快だ》
老人は遠くを見つめる、まるで、何かを見ているように。
《あやつが我の願いを叶えるのも、後少しだろう…………》
老人は待っている、和馬が自分の願いを叶えられる存在に成長していくのを。
《待っているぞ、お前が、我を殺しに来る、その時を……》
その瞬間、老人の姿が消え、その曖昧な存在はは、完全に虚空へと消え去った。




