帰る訳
《まだ……止まるには早いぞ………和馬》
その声が聞こえた、何回も、何万回聞いた、あの声だ。
いつも無愛想の癖に、技を教えてくれる時はいつも真剣で、誠実に教えてくれた、尊敬すべき師匠。
何年も前にいなくなってしまって、もう聞くことがないと思っていたあの声、幻聴でも、本物でも、どうでもいい。
師匠に言われたからには、まだ進み続けなければならない、例え、それがどんなに辛くても。
だが、今の状況は絶望的だ、今の俺の状況を察するに、体はボロボロ、俺は頭が残っていなくても、少しは生き続けることが出来るが、それにも限度がある。
手持ちの理想を現実にする能力の回数も全て使いきった、自動で能力を発動させるには、脳の一部を解放しなければならないが、その脳も粒となって、そこら辺を漂い続けている。
逆にどうやったら俺は生き残れるんだ?考えろ、きっと答えはあるはずだ。
少し考えてみたが、どうにも考えがまとまらない、脳がないからか?
だが、一つ心当たりがあった、最近手に入れた能力、物質を操るだっけか?それを使おう。
操る物質は、俺の体、それをなるべく俺の元の体に戻す、もし体が戻らなくても、脳のさえ、機能すれば、後は理想を現実にする能力でなんとかなる。
手探りで、操作する、コントロールがとても難しい、まぁ、空中の塵にも近い質量の物体を操ろうとしているのだ、当たり前だろう。
後もう少しで、俺の命も消えてしまう、そんな緊張が出てくるが、許してくれ。
一度も試したことのないもので、死にかけの自分を蘇生しようとしているのだ、ぶっつけ本番にも程がある。
俺は体をを少しずつ治していく、もっと、もっと速く!
俺の命のタイムリミットが直ぐ終わる瞬間に、脳の蘇生が完了する!今だ!!
治った瞬間に、理想を現実にする能力を発動し、体を直す、緊張が消え、安堵したその瞬間に意識が消えそうになる。
その後の事は、良く覚えていない、悲鳴や、泣き叫ぶ声が聞こえたような気がするが、もう、意識を保てない。
そういえば、蒼華は助かっただろうか、最後の最後にあいつを復活させたが、失敗はしてないだろうか、俺の能力は制御が難しい、その制御をする脳がほとんど無くなっていたから、どこかしら違う部分はあると思うが、生き残ってくれさえいればいいかな…………。
「…………く…………げん…………なってね………マ」
「…………ん……うん?」
目が覚めたが、体が動かない、まるで金縛りにあっているようだ。
「カズマ?起きたの!?カズマ!」
え?今どんな状況?
体は動かないが、目を開けて、今の状況を確認したら、シノが涙目で俺を見ていた…………へ?
「おいおい、どうしたんだ?そんな顔して、一週間ぐらいとか言ったけど、三日で帰ってきたことを怒ってんのか?」
するとシノは首を横に振った、まぁ、早く帰ってきて、怒る人はいないよな、んじゃあ今何が起きているんだ?
だが、今の状況はダメだ、何が原因で泣かせてしまったかは分からないが、好きな女の子を泣かせるわけにはいかんからな。
「違う……違うの……、カズマが、帰ってきて、凄くボロボロで、頭が無くて、あのっ…あのね?」
あぁ、なるほど、どうやら俺の最後の状態を見て、こうなったようだな、確かにあの時の俺は上半身が殆どなくなっていたし、それに、あの体が再生していくのを近くで見てしまったんだな、要領を得ないのもそれが理由だろう。
俺はシノの頭に手を乗せ、撫でる、その事にシノはビックリしたようだが構わず続ける。
「シノ、俺は例え、体が半分無くなったとしても、必ずもとに戻る、その時に、こんな風気持ち悪い光景を見せるかもしれない、だが、許してくれ、それが俺の戦い方なんだ」
例えどんな存在に言われようとも、俺はこの戦い方を変えるつもりはない、これは俺がずっとしてきたこと、簡単に変えられるわけがない。
すると、シノは首をふるふると振り、この問に答える。
「だったら私は武器を作る!カズマが怪我をするような戦いをさせない、私の武器で、あなたを守る」
そこには強い意志があった、まるで覚悟を決めたような顔立ちをしている、そうか、そう思ってくれるんだな。
俺の予想だと、絶対にそんな戦い方は止めて!と泣いて懇願してくると思っていたんだが、やれやれ、俺もまだまだは見る目が無いようだ。
そうだ、彼女は強い女の子だ、俺の意志が変わらないことに気付いて、それを尊重するような解を返してきた。
それがとても嬉しくて、抱きつきたくなったが、体が動かない、何でこんなに動かないの?
そう思い体を見る、片腕が無かったり、腹が抉れていたりするが、まぁ、許容範囲だろう。
とっとと、体を能力で直し、ベットから出ようとする、シノは動いちゃダメと言いかけるが、俺が普通に出れたことから、何も言わなかったようだ。
「さて、シノさん、実際の所、俺は何日ぐらい寝ていたのかな?」
「四日だよ、最初の三日間と会わせると、丁度一週間だね」
そうか、んじゃあ一応期限通りということだな。
おっと、その前に、言わなくてはいけないことがあるな。
そう思い、シノの方へ向く、シノは不思議そうな顔をしながらこっちへ向く。
「そう言えばシノ、あれだ…………ただいま」
すると、少しの間が空き、シノは…………。
「うん!お帰りなさい!」
と満面の笑みで答えてくれるシノの姿が見えた。




