親父へ
親父へ。
俺はあんたが嫌いでした。
家の中でほしいままに振る舞うあんたが嫌いでした。
居丈高で、事あるごとに拳骨を振り上げて。
大きな声で恫喝して。
親父へ。
お袋に姉貴。みんながみんな、あんたの存在に怯えてました。
あんたがいるだけで、家の空気が変わりました。
俺はさ、あんたがいなければいいなと、そんなことすら思ってました。
親父へ。
変化のきっかけは、加齢によるものでした。
高校を経て大学に入って。
社会人になってからは加速度的に強くなった。
自分で自分の面倒見なければならない。
妻が出来れば妻を。子供が出来れば子供を。
しがらみとともに重荷が増えた。
疲れが肩にのしかかった。
反比例するように、あんたへの感謝が増えた。
親父へ。
あんたがどんな気持ちで俺を育てていたのか。
あんたがどんな覚悟で俺たちを支えていたのか。
自分がいなくなればそれでおしまい。
自分が倒れれば、こいつらは路頭に迷う。
プレッシャーを背負いながら過ごした日々。
誰にも頼れない。誰にも泣きつけない毎日。
その重みはいかばかりか。
親父へ。
今、あんたを失って思います。
親父へ。
今、ひしひしと感じてます。
親父へ。
あんたが背負ってくれてたものを、これからは俺が背負います。
親父へ。
俺にはそいつは、荷が重いよ──。
なあ、親父よ。
今だからこそ思います。
今だからこそ、言えるんです。
俺は、あんたのおかげで生きてます、
俺たちは、あんたのおかげで生きてます。
あんたのおかげで、こんなに大きくなって──。
だから、なんちゅうか、恥ずかしいんだけどさ。
本当に、ありがとうございましたって、言わせて下さいよ。
な?




