続々・帰ってきたイケメン妖怪ハンターリックの冒険
リックの嫉妬です。
リックは古今無双のスケベなイケメン妖怪ハンターです。
今日も、食い扶持である賞金首の妖怪を探して、美人幼な妻の遊魔と旅をしています。
「お?」
リックは街角の掲示板に貼り付けられた賞金首の紙に気づきました。
掲示板と言っても、○ちゃんねるではありません。
「金貨千枚? すごい賞金にゃん。きっと手強い妖怪にゃん」
「そうなんですかあ」
遊魔はボオッとした笑顔で応じました。
「早速、依頼主のところに行くにゃん」
リックは紙に書かれている場所に向かいました。
そこは酒場でした。中に入ると、人相の悪い男達が酒の臭いをプンプンさせながら、くだを巻いていました。
「賞金首の妖怪の事でお尋ねしたい事がありますにゃん」
リックがカウンターの向こうにいたバーテンダーらしき男に声をかけました。
すると、店の中にいた全員が一斉にリックを見ました。
「お客さん、妖怪ハンターなのか?」
バーテンダーが目を細めて尋ね返しました。リックは周囲の強烈な視線に苦笑いしながら、
「そうですにゃん。今まで、一万匹の妖怪を退治した凄腕ですにゃん」
その大半は遊魔が仕留めているのは内緒です。
「だから、本当に内緒にして欲しいにゃん!」
口が軽い地の文に涙ぐんで抗議するリックです。
「おお!」
リックの「ホラ」を真に受けた酔っ払い達がどよめきました。
「それなら、是非、お願いしたいです、先生」
酔っ払いの一人が近づいて言いました。先生と呼ばれて上機嫌になったリックはその酔っ払いを見て、
「それにしても、賞金が破格過ぎるにゃん。そんなに強い奴なのかにゃん?」
すると別の酔っ払いが、
「そうでもないと思うんですがね。ここにいる連中の女房や恋人全員がそいつに誑かされて、それっきりなんです。積もり積もった賞金が金貨千枚って事なんですよ」
「そうにゃんですか」
思わずあるお師匠様の口癖で応じてしまうリックです。
(まさか、またガックが絡んでいるんじゃないにゃんよね?)
ガックとは、リックの幼馴染で、リック以上のスケベとも言われています。
古今無双は「看板に偽りあり」だと思う地の文です。
「細かい事は気にしなくていいにゃん!」
鋭い指摘をした地の文に切れるリックです。
「その妖怪はどこにいるにゃん?」
リックは気を取り直してバーテンダーに尋ねました。バーテンダーは磨いていたグラスを置き、
「街外れの廃屋に女達と暮らしています。但し、女達も奴の妖術で操られているので、襲い掛かってきます。気をつけてください」
「そうにゃんですか」
またしても、あるお師匠様の口癖で応じてしまうリックです。
(女達が襲い掛かってくる……。どうしたらいいかわからない程、待ちに待った展開にゃん)
悪い顔でニヤつくリックです。
リックと遊魔は、バーテンダーに書いてもらったかなり適当な地図を頼りに、街外れの廃屋を探しました。
「きっと、あれにゃん」
開けた場所に出ると、遥か前方に大きな邸が見えました。
でも、五反田邸よりは小さいようです。
「意味がわからない比較対象を出さないで欲しいにゃん!」
リックは、適当が信条の某高田さんと同じ属性の地の文に切れました。
「もっとボロボロだと思ったけど、奇麗なお邸にゃん」
リックは訝しそうに眉をひそめて呟きました。そして、更に歩を進めると、
「それより先は我が敷地。入る事、罷りならぬ」
難しい言葉で告げられました。意味がわからないリックと遊魔は、そのまま進みました。
「曲者じゃ! 出会え!」
また声が告げました。すると、邸の大扉が開いて、中からたくさんの女性が鬼の形相で飛び出してきました。
「うおおお! 酒池肉林にゃん!」
目の色を変えるリックですが、つい、
「おねいさーん!」
喜びのあまり、ある合図の言葉を叫んでしまいました。その途端、遊魔の胸当てに潜んでいる子猫千匹が飛び出して、女性達に襲い掛かってしまいました。
「あああ……」
機先を制されたリックは愕然としました。
「いやあ!」
「ああん、そんなところを……」
「ダメよ、ダメなのよー」
これ以上は自主規制する地の文です。
「お前様、女性達は片付きました。後は妖怪だけですよ」
子猫を胸当ての中に戻した遊魔が、笑顔全開で言いました。
「ううう……」
項垂れるリックですが、遊魔は構わずにその首根っこを掴んで、引き摺っていきました。
大扉を入ると、そこは広々としたロビーで、キラキラした大階段がありました。
「おお、麗しの貴女よ」
どこからか声がして、大階段の上に超絶なイケメンが登場しました。
(ガックじゃないにゃん)
リックは身構えました。すると遊魔が、
「会いたかったです!」
そう叫ぶと、大階段を駆け上がりました。
「えええ!?」
仰天するリックです。
(遊魔が誑かされてしまったにゃん!)
これで負けが確定したと思う地の文です。
「うるさいにゃん、正義は必ず勝つにゃん!」
リックは正論を言った地の文に切れました。
ではやはり貴方の負けですね。
「誰が悪にゃん!」
図星を突かれたリックは理不尽に地の文に切れました。
「愛しています」
遊魔は妖怪にメロメロで、抱きついています。
「キーー!」
今まで散々遊魔を泣かせてきたくせに、逆をされると嫉妬剥き出しになる勝手なリックです。
「其方の奥方は我が貰い受けた。早々に立ち去れい!」
妖怪はニヤリとして言い放ちました。
「ううう! それならいいにゃん! 外にいるおんにゃのこを代わりにもらっていくにゃん!」
リックは悔し紛れに叫びました。それでも遊魔は正気に戻る様子がありません。
「遊魔……」
零れそうになる涙を堪えて、リックは駆け去りました。
「おねいさーん!」
もう一度子猫を使って女達を襲わせようと企んだリックでしたが、
「うわわ!」
妖怪の慌てた声に立ち止まって振り返りました。
「どういう事にゃん?」
遊魔の胸当てから飛び出した子猫達が、何故か妖怪に襲いかかっていたのです。
「そういう事にゃんか!」
リックは合点がいき、大階段を駆け上がりました。
「そこから先は、僕が引き受けるにゃん!」
そう、妖怪は男装の麗人だったのです。それがわかったリックは、遊魔が妖怪の術でボンヤリしている隙に、妖怪に襲い掛かろうと思ったのです。
「お前様!」
ところが、条件反射のように遊魔が反応し、リックを真空飛び膝蹴りでふっ飛ばしました。
「ひいい!」
妖怪は子猫に身包みを剥がされ、正体を現しました。それは大ムカデでした。
大ムカデはそのまま逃げて行きました。
「そんにゃあ……」
男装の麗人が実はムカデだったと知り、リックはがっかりしました。
「お前様、助けてくださり、遊魔は嬉しゅうございます」
遊魔に抱きつかれ、ペロペロ舐められるリックです。
(助けたのか、助けられたのか、微妙にゃん……)
でも、遊魔が無事で、ホッとしているのは内緒にしますね。
めでたし、めでたし。
ということでした。