外伝(一二四) 三国志の幕開け
~~~仙境~~~
「……また魏が三国を統一したか」
「厳密ニハ晋ダ」
「同じことだ。これで3回連続か?」
「毎回同じ結果になってつまらぬな」
「曹操に味方してやったお前の言う台詞ではないな」
「あのまま漢中の制圧に手こずれば、曹操が死んだとまでは言わぬが、
魏にもっと痛手を与えられたのではないか?」
「逆だ。曹操は漢中にこだわらずさっさと撤退しただろう。
私は漢中を速やかに落とせば、曹操はそのまま蜀を攻めるかと考えたのだがな」
「法正ヤ馬超ラ最モ戦力ヲ揃エテイタ頃ノ蜀ト当テヨウトシタノカ」
「益州深くで戦えば曹操が戦死することもありえたやもな」
「だが蜀が統一したことは過去に何度あった? 2回か?」
「うち1回は龐統を生き残らせ、徐福や文鴦らをおまけに付けてやっただろう。
あんなのは例外だ」
「介入を嫌っているようだが、お前が于吉とやらに化けて、
孫策に隙を作らせたのも知っているのだぞ」
「あれはお前だったのか」
「全ク気ヅカナカッタ」
「1回介入するのはルールで認められているだろう」
「南華は2回介入したな。張角と諸葛亮に」
「殺サレカケタナ。アレハ面白カッタ」
「黙れ! 次は介入せぬ。それでいいだろう。
北斗や南斗が適当にチートをこしらえるのも辞めさせるべきではないのか」
「趙雲と王基のことか? あれは我々2人で2回の介入ではないか」
「王基ハアマリ歴史ヲ動カセナカッタナ。武将1人ニハ限界ガアル」
「あの呂布とやらは違うのか。誰があれを連れてきた」
「北斗でも南斗でもないのか?」
「余だ」
「ヒイイイイイイ!?」
「し、諸葛亮!?」
「馬鹿な! なぜここに!?」
「簡単なことだ。余は全知全能である。
今回は従者は連れておらぬ。そう怯えるな南華老仙とやら」
「………………」
「……なぜワシを見る?
こいつの寿命はいじっておらぬぞ」
「確カニモウ尽キテイル。……コイツハ何者ダ?」
「そもそもおかしかったのだ。
こいつは我々がこれまでに見てきた諸葛亮とはあまりに異なっていた」
「呂布を連れてきたのもお前だと?」
「あれは余興だ。だがここを探るための手掛かりにはなった。
貴様らが呂布の出どころに驚き、色々と動いてくれたおかげでな」
「ひ、人の子がここに来られるわけがない!」
「現に来ているではないか。現実を見よ現実を。
……それにしても興味深い。こうして双六でもするように、
歴史に介入し人の世を弄んできたのか?」
「質問に答えよ! 貴様は何者だ! どうやってここに来た!?」
「余は全知全能であると言ったであろう。
仙人とやらは記憶力が悪いようだ」
「答えになっておらん!」
「今度は余の質問に答えよ。
この賽を振れば、また歴史が巻き戻るのか?
どこからだ。黄巾の乱の前か?」
「人の子が知る必要はない」
「そうか。ならば貴様らに用は無い。
……余は先刻、一つ嘘をついた。
従者を連れてきているのだ。殺せ」
「はいです。殺すです」
「お、お前は!? ぎゃああああああ!!」
「バ、馬鹿ナ!」
「生と死を司る我々が!!」
「ひ、人の子ごときに……」
「お前、は、いったい……」
「殺したです」
「仙人も刺せば死ぬのだな。実に興味深い」
「……御主人様、質問があるです。
なぜ生きてるですか?」
「余は全知全能であるからだ」
「違うです。私です。
御主人様は別に不思議じゃないです。私はなぜ死なないですか?
それに仙人を平均18回刺しただけで殺せたです。
超パワーアップです」
「貴様の身体を少しいじっただけだ」
「乙女の身体になんてことするです」
「乙女という年齢ではあるまい」
「ついでにあれも文句言うです。
あの諸葛瞻はなんですか。誰が御主人様と私の息子ですか。
董白と馬雲緑に死ぬほどからかわれたです」
「ああ、あったな、そんなものも」
「迷惑です。
……生きてたならもっと早く呼ぶです」
「余は余で準備を進めていた。
貴様を使う時が来たから呼んだまでだ」
「こいつらは本当に仙人ですか?
ここで歴史を操っていたです?」
「操りはしておらぬようだ。
傍観し、それに飽きたら介入し、遊んでいた」
「だから殺したですか」
「余の一生を弄んだ罪は万死に値する」
「歴史をやり直すですか?」
「一度定まった歴史は繰り返すものだ。
余や呂布が抜けても、別の者が別の余や呂布となって現れる。
だが、仙人の介入を受けた歴史よりはマシであろう」
「同感です」
「クックックッ。下らぬ者どもに弄ばれてきた愚民どもは、余に感謝するであろう」
「御主人様は介入しないです?」
「馬鹿な。余はこんな小国の歴史にこれ以上かかずらうほど暇ではない。
では、始めるか。新たな三国志の幕開けだ」
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かくしてアイコン三国志は終わり、三国志の幕が開く。
人の歴史は人の手でのみ綴られていき、
そして何度でも繰り返すだろう。
完