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002

「アラン! アラン!」

 着替えてきたぼくを、早速ティーマが出迎えた。

 しびれをきらして迎えに来なかっただけ、今日は運がいいほうだと言えるだろう。

 ティーマはトレードマークの大きなリボンを揺らしながら、ぼくの腕を引っ張り、“子供部屋”の中へ迎え入れる。

「遅い、ですよ! ティーマ、待っていた」

「ありがとう。ごめんね、ティーマ」

 ぼくはにこっと微笑み返し、せわしなく飛び回るティーマを軽く押しながら、部屋の中へ入った。

 いつもながら、赤い廊下からこの部屋に入ると、まるで太陽の光をすぐそばで浴びたような気分になる。

 でも、それも一瞬のこと。目が慣れれば、ぼんやりと物たちの輪郭が現れる。白いテーブルに、白い椅子。白いカーテンに、白いソファ。まぶしいのは、すべてが真っ白だからだ。

 ティーマがぱたぱたと靴を鳴らしながら、いつもの丸テーブルに走っていく。

 ぼくはそのあとを追いながら、ふと、テーブルの上に白以外の色を見つけた。

 細長いエメラルド色の花瓶に、一輪だけ黄色い花が差してある。

 これは、いつもと違う……。

 久々の変化をもたらした色を、ぼくはぼんやりと見つめてしまった。

 ずいぶん間の抜けた顔をしていたのだろうか。そんなぼくに、クスクスと笑う声が近づいてきた。

「そんなに驚かないでくださいな。たまにはお花も飾りますわ」

 丁寧に口紅の塗られた唇にきれいな指を当て、彼女はいつもの笑顔を見せる。

 踊り子のような衣装をふわりと身にまとって、お茶道具の乗ったトレイを舞うような手つきでテーブルに置いた。

 キラキラと光るシルクのショールをゆったりとまとい、高く結いあげられたエメラルドグリーンの長い髪には、長さも色も様々な髪飾りが無数に重なっている。さながら、まるでひとつのオブジェのようだ。

 彼女はぼくらの仲間の一人。GX.No,4「風使い」だ。

「テイル、なにも笑わなくたって。だってこの部屋で何か変化が起こるなんて、本当に珍しいことなんだから」

「そうですわね、ごめんなさい。だって、あなたがあんまり可愛いお顔をするんですもの」

 テイルはまだクスクス笑いを止めないで、ぼくのお茶の準備にかかった。

 テイルはいつだってぼくのことを子供扱いする。テイルにとって、きっとぼくはティーマの弟のようなものなんだ。背丈だって、仲間の誰よりぼくが一番大きいのに。

 変わらぬ扱いに、ぼくはため息をつきながら、自分の椅子に腰を下ろした。

 頭でっかちの黄色い花をちょっと指ではね、それ以外は変わらない部屋を見渡す。

 ガラスの壁で囲まれた広い部屋には、ぼくたち3人だけだ。

「ヴォルトは? ティーマ」

 いつもの仲間が居ないことに気づいて、ぼくは隣に座ったティーマに尋ねる。

 ティーマはぼくを迎え入れた後、すぐにそわそわとテイルのお茶の準備を覗き込んでいた。

 ティーマは、甘いものやお菓子が大好物だから。今日のごちそうは何なのか、気になって仕方がないんだろう。

「ヴォルト、は、お仕事!」

 ぼくの問いかけに、ティーマはそう答えると、ぴょんと椅子の上に飛び乗った。

「あ……そうか。じゃあ、今日はお茶の時間には来れないね」

 ぼくはまた黄色い花へ目を落とし、指先で花びらを撫でた。

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