017
そうだ、何も弱っちいぼくなんかが、無理にヒーローを気取る必要はない。
その素質を持っている人が、もうすでに居るんじゃないか!
テイルとティーマが眉を寄せてヒソヒソ相談する中で、ぼくは胸を躍らせていた。
良くなった世界が目の前に広がる。きっと、あの人ならやってくれる。絶対にやってくれる。
この世界は、きっと変わる。
『ブー』
その時、突然ブザーが鳴った。
ぼくの歓喜に満ちた気持ちは、一瞬にして凍りついた。
無機質な有無を言わせぬ音。“お仕事”の合図だ。
「あら……まぁ」
テイルはその音を聞いて、残念そうに唇を撫でる。
「ティーマさん、ティータイムは後にしましょう。お仕事です。今はヴォルトさんも居ませんし、きっと私たちの誰かが行かなければいけませんわ」
「えぇー……」
ティーマはものすごく残念そうな声を出し、足をばたつかせた。
ぼくは、雑音のするスピーカーを見つめ、今日は誰が指名されるのかを、息を詰めて待った。
もしも……ぼくだったら、ぼくは……ぼくは……。
『今日は、ゼルダ。そして、ティーマ。お前たちに行ってもらおう』
“お父様”の太い声が、部屋中に響いた。
ティーマが嬉しそうに笑い声をあげて、ピョンと椅子から飛び降りる。
「ティーマ、お外に出られるよ!」
これから自分がさせられることも、知らずに。
ぼくは顔を歪ませて、部屋を駆けまわるティーマを見つめた。
ぼくは……どうしたらいいんだろう……。
『どうした? ゼルダ。調子が悪いのか?』
お父様の声に、ぼくははっと天井を見上げる。
「い……いえ」
ぼくは無理やり微笑んだ。たぶん、顔がひきつっている。
『そうか、そうか。無理はするなよ。調子が悪いようなら、早く科学班に見てもらいなさい。大丈夫か?では、早速行ってもらおう』
ぼくが返事もしないうちに、あの猫撫で声がすべてを取り決めた。
ここで、嫌だと言ったら……ぼくは……。
ぼくは勇気を振り絞り、ぎゅっとこぶしを握った。
「ぼ……ぼくは……!」
言うか、言わないかのところで、ぼくとティーマだけが、無理やり飛ばされた。
今日の仕事場所に……――