表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/131

015

 ――ヴォルトがなぜ、ぼくに「地下三階へ行け」と言ったのかは、未だにわからない。

 だけど、ぼくの心は、明らかに変化しはじめてきた。

 お父様は、必ずしも正しいわけじゃない。

 それどころが、最もやってはいけないことをしていることや、それのせいで、家族や恋人、友人を亡くした人が居ること、ぼくらを、憎み、恨んでいる人が居ることを、知った。

 ぼくは、いつものように食事を運んだ後、しばらく皆と話をしてから、部屋へ戻った。

 あれからマルシェさんは、ぼくやあいつに憎しみをぶつけてくることはなくなった。

 しかし、だからこそぼくは怖かった。この前、マルシェさんが言った、あの言葉。

「半身半獣の……化け物め……!」

 マルシェさんの友人を消してしまったのは、あいつだ。間違いない。

 考えるだけで、身の毛がよだつ。ぼくは、震えが止まらなくなってしまった腕を必死に抑えながら、いつもの白い扉を開けた。

「……ただいま」

「おかえりなさい!!」

 扉を開けてすぐ、いつものようにティーマが飛びついてきた。

 扉の前でぼくが言葉を発したわけじゃないのに、ティーマはいつだってぼくが来る時には扉の前で待機して、タックルする瞬間をわくわくと待っている。

「た、ただいま。ティーマ」

 見た目より強烈な突撃に、ぼくはなんとか踏みとどまり、いつものようにティーマの頭を撫でてやる。

 いつもならば、ティーマはここでにっこりと笑って、跳ねるようにテーブルに駆け寄って、またテイルのそばに座るはずなのに。

 しかし、今日のティーマはぎゅっとぼくにしがみついたまま、なぜか離れない。

「どうしたの?」

 ぼくの問いかけに、ティーマは答えなかった。

 ただぼくをぎゅっと締め付けたまま、シャツに顔を埋める。

「アラン、寒いね」

 ティーマの声が、ぼくの体に響いた。

 ティーマは、気づいていたんだ。ぼくの震えの止まらない体を。

「寒いと、風邪を、ひくよ。いい子に寝ていて、くださいね」

 ティーマは顔を上げ、いつものようにニッコリと笑んだ。

 無邪気なその言葉さえ、なぜかぼくの胸に突き刺さった。

 ぼくは喉の詰まるような思いを振り切り、ティーマを抱き上げた。

 ぼくの数倍も軽いティーマの体が、ふわりと宙に持ち上がる。

「アラン?」

 ティーマはキョトンと目を丸くし、子供っぽい表情でぼくを見つめた。

 ぼくは、無邪気なその顔に、今にも泣き出しそうなくらい、顔を顰めていた。


 ぼくは、ぼくたちは、なんて残酷な運命を辿らされているのだろう。

 人の生を奪うことを、“仕事”として、この世に存在している。

 人を“殺す”ことを目的に、ぼくたちは生み出された。

 恨まれるために、憎まれるために。

「許さない」

 そう、思われるのは、何も知らない、ティーマ、そして、皆。

 憎しみの言葉を受けるのは、ぼくたちだ。

 では、ぼくたちが、一番憎むべきなのは、誰だ?


 ぼくらを、こんな運命に仕向けたのは……――


 ぼくは、気づいた。

 ヴォルトが教えたかったのは、これだったんだ。

 ぼくたちが憎むべきなのは、

 ぼくたちを造った、

 ぼくたちにこんな仕事を押し付けた、

 ぼくらに耐えきれない罰を与えた……――



 お父様、だ。




 少なくとも、ぼくはそう思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ