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「うわああぁぁああっ!!」

 遠くで響いた爆発音に重なるように、ぼくの声が空に響いた。

 偽りの空が、黒い煙を逃がさず、横へ広げていく。

 ぼくはただその煙を見つめたまま、体を少しも動かすことができなかった。

 ヴォルトが――テイルが――!

 うそだ! 嫌だ! こんなのいやだ……――!!

 信じられない……! 信じたくないよ!


「役立たずめ」


 その時、ぼくの背後で、舌を鳴らす音が聞こえてきた。

 その言葉が、ぼくの絶望の束縛を解いた。

「どうして……どうしてあんな危険なことをさせたんだ!! これもあの人の命令なのか!?」

 ぼくはドグラスに詰め寄り、怒りのあまり恐怖を忘れて叫んだ。

 しかしドグラスは顔色ひとつ変えず、馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らす。

「余りものの処分もできないようでは、お父様のお役には立てん。ただの、ゴミだ」

 ドグラスの言葉一つひとつが、ぼくの怒りをさらに煽る。

「あの人はどこまでぼくらを弄べば気がすむんだ……! 自分で会いに来ればいい! 壊したいなら、自分の手でぼくを壊せばいいじゃないか!!」

「それがお前の望みか」

 ぼくの言葉を遮るように、ドグラスが言った。

 どこか哀れむようなその目に、ぼくははっと口を閉じる。

 その目は、どこかシオンやヴォルトの最後に似ていて――思わず、背筋がゾクッとした。

 ドグラスがゆっくりとぼくの顔を掴み、仰向けにさせる。

 見下ろしてくる赤い瞳から、哀れみが、消えた。

「お父様の手によって破壊されることが、お前の望みなのか」

「……違う」

 ぼくは歯を食いしばり、きっぱりと返した。

「ぼくの望みは、生きることだ」

 頬に硬い爪が食い込む。ぼくはぎゅっとこぶしを握り、そしてそれをドグラスの胸に打ちつけた。

「大切なものを守りながら、ぼくは生きていく」

 ドン、と鈍い音がする。

 すると、ドグラスがニヤリと笑んだ。

「できるものなら、やってみるがいい。お父様がお前たちを消せと命令する前に、せめて」

 ドグラスがぼくを突き放し、そして姿を消した。

 化け物の姿が跡形もなくなり、ぼくは、目の前にぽっかりと穴が開いてしまったような感覚に陥った。

 いや、ぽっかりと穴が開いてしまったのは、心だ。

 現実を受け入れるまで、きっともう少し時間がかかる。

 いや、もしかしたら現実じゃないのかもしれない。――目の前の真実しか記憶できないくせに、ぼくは願いさえ込めてそう思った。

 ぎゅっと握ったこぶしが、小刻みに震える。

 いつの間にか――消えかけていたあの人への憎しみと嫌悪が、ぼくの中を占めていく。

 許さない。許さない。許さない。

 ぼくの製造者であり、かつては父と呼んだあなたを。

 地下世界最悪の人物、公司長、ギルバート= アリックス。

 許さない。絶対に、ぼくは、あの人を――


 ぼくは立ちはだかる公司館を見上げ、すべての憎しみを込めて、大声で叫んだ。


「絶対に、ぼくはあなたを許さない!!」


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