二人目の愛
「篠原!まだ終わってないのー?!」
「すみませーん!昨日寝ちゃいまして・・・」
「寝ちゃいまして、じゃないでしょ?!全く。」
「ごめんなさい。」
「まあ、ギリギリ明日締め切りだからいいけどさ。もー少し余裕を持って行動しなさい!」
「はーい!今からやりまーす。てか、なつみさん昨日篠原さんと何話したんですかー?」
「秘密―!」
「えー!」
「いいから!はやく仕事終わらせなさい!」
「はい。」
「はあー、終わった!」
「はい。お疲れ!どうぞ。」
「わあ!コーヒーだ!!」
「ありがたく受け取りなさい。」
「ありがとうございます。」
「あ!しのちゃーん!!」
「げぇ、久保さんだ…」
「あ、なつみさんお疲れ様です!!しのちゃん!これからあいてるー??」
「え、まあ開いてますけど。」
「じゃあさ、ちょっと食事でもどお?」
「あれ?久保昨日の話するの?」
「秘密です!」
「はいはい。じゃあ、私はこれで。」
「なつみさん、お疲れさんです!」
「なつみさーんまた飲みましょーね!」
「はいはい、じゃーね。」
「しのちゃん!いこっか!」
「なんか、怖いんですけど。」
「大丈夫大丈夫!取って食ったりしないから!」
「しようとしたら全力で逃げます。」
「するわけないじゃん!いいから!行こう!」
「はい。」
「どこで飲むー?」
「どこでも。」
「そう?じゃあ、家に来ない?」
「とって食う気満々じゃないですか。」
「そんなわけないでしょ!家に来てもらうつもりで元々誘ったの!」
「そうですか。どうしようかな。」
「来るよね??」
「えー、はい。じゃあ、お邪魔します。」
「よしよし!今日は朝まで飲むぞー!!」
「昨日もだったんじゃないんですか?」
「昨日は途中で寝ちゃったから!いいの!」
「そうですか。」
「うー!いい気持ち!やっぱりいいね!お酒!」
「そうですね。」
「あれぇ?しのちゃん盛り上がってないぞ!」
「私アルコール強いんで。」
「そうなんだー。しのちゃんって守ってもらわなくても生きていける感じだよねー。」
「は?」
「だって、お酒でつぶれておぶってもらったりしたことないでしょ?」
「なんで、そこから守ってもらわなくてもいいってなるんですか?」
「お酒強い、気強い、なんか寂しそうな様子も見せないし、男の人に甘えるのも見たことないし。」
「久保さんが、甘えすぎてるんじゃないんですか?」
「あ、気悪くさせちゃった??」
「別に大丈夫です。」
「ごめんね!!」
「別に謝らなくてもいいです。」
「別に嫌味ってわけじゃないの!」
「そうですか。もういいですよ。」
「私だって甘えてばっかりじゃないのよ?」
「だから、もうその話はいいですから。」
「そう?」
「で、なんで今日は私を誘ったんですか?話があるとかじゃないんですか?」
「あ、わかっちゃった?」
「話もないのに私なんかを飲みに誘ったりしないでしょう?」
「そんなことないよー?」
「まあ、とにかく、何の用事ですか。」
「しのちゃんってさぁー、愛って何だと思う?」
「は?」
「だから、愛よ!愛!愛って何だと思う?」
「そんなの、私より久保さんのほう知ってそうですけど。」
「それ、なつみさんにも言われた。」
「だってそうですもん。」
「そんなに私遊んでるように見える?」
「ええ。とっても。」
「ストレートね。」
「オブラートに包む必要もないかと思いまして。」
「まあ、いいけど。で、どうだと思う?」
「愛ですか?」
「そう!愛。」
「自分なりに答えはありますけど。でも、何でそんなこと聞きたいんですか?」
「興味があるから。じゃだめ?」
「きちんとした理由、正直な気持ちを教えてもらえないと私も話しません。」
「もー、しのちゃんはそういうとこしっかりしてるよね!」
「すいませんね。」
「ほめてるのに!」
「そうは聞こえませんけど。」
「なつみさんはさ、酔った勢いですぐ話してくれたのに。」
「なつみさんは、純粋すぎるんです。」
「私もそれ思った。」
「まあ、それはいいです。で?話してくれるんですか?」
「仕方がないか。じゃあ、話すよ。」
「どうぞ。」
「私ね、嫉妬深くて、心配性で、重たい女なの。でも、浮気性って最悪な性格。」
「最悪ですね。」
「傷つくなぁー。まあ、で、相手が浮気してる雰囲気ってわかるのよ。自分がするから。でもね、一番は一人なの。他の人はその場限り。ちょっと楽しめればいいの。でも、男性って違うじゃない?」
「そうですか?男性の言い訳としてそんな言葉はよく聞くような気がしますけど。」
「そう言わないで。言い訳じゃないのよ。」
「男性も同じ意見だと思いますけど。」
「…まあ、とにかくね、自分のことはわかってるから、浮気しても本気じゃないからあまり気にしないでほしいの。でも、浮気してるのが相手だと、相手のことなんて全くわからないじゃない?だから心配で心配で。私が一番じゃなくなるんじゃないかって。」
「ずいぶん身勝手な話ですね。」
「身勝手なのはわかってるの。でも、治らないのよね。だから、相手が浮気をしてるとパニックになっちゃって、自分で自分がコントロールできなくなるの。」
「それはまた、迷惑な。」
「ひどいなぁ。で、それを自分でも反省してるわけ。もう、浮気をしないようにしよう。とか、もし相手が浮気しても信じてみよう。とか。でも、それがなかなかできないのよね。」
「今までずっとやってたことをすぐやめるっていうのは難しいでしょうね。」
「そうなの。それで、私が考えたのは本当の“愛”を知ることができれば、この気持ちも少しはコントロールできるんじゃないかってこと。」
「それは、あまり同意できませんね。」
「なぜ?」
「だって、本当の愛だなんてないと思います。」
「ないの?」
「断言できるわけではないですけど、でも私はそう考えています。100歩譲ってあるとしても、それは人それぞれかたちの異なるものだと思います。」
「そう!かたちが異なるの。だから、色々な人から話を聞こうと思って。」
「だから、そこから間違ってると思いますよ。愛なんて教えてもらうものでも、話を聞いてわかるものでもないですもの。感じるものだと思いますよ。」
「しのちゃんもか。」
「何がですか?」
「愛は、言葉にできるものじゃない。感情なんだから感じるものなんだって。」
「全く言葉にできないとは思ってないですよ。」
「じゃあ、しのちゃんの愛について話聞かせてよ!」
「なんだか、うまく乗せられた気がしますけど…まあいいや。」
愛は、「貫く意志」だと思います。最後まで一人だけを愛し続ける意志。
確かに、愛は感情ですから感じるものです。でも、全く言葉にできないかっていうとちょっと違う。
ただ、言葉にすると少し物足りないものになってしまうだけ。
愛はたった一人の人にしか注いではいけない。
愛していいのは一人だけ。
真実って一つじゃないですか。それと同じだと思うんです。
愛と真実は似ているんだと思います。
愛なんて沢山の人に注いでもいいって言う人もいると思います。
でも、お母さんを例に取ってみたらわかりやすいですよ?
例えば、妻と夫のときは、女性は夫だけを愛する。
でも、お母さんとお父さんになると、女性は子供を愛する。
お父さんのことも愛しているっていう人もいると思いますが、それってとっても難しいことだと思います。
お父さんは必ず感じているはずです。
自分への愛が小さくなったと。
それは、女性が子供を愛してしまったから。
複数の人物に同じだけの愛を注ぐのは無理なんだと思います。
一人に愛を注げば片方は物足りなく感じる。
だから、お母さんは子供だけを愛するようになる。
お父さんも、お母さんから愛をもらえなくても自分も子供を愛するから気にならなくなる。
そういったバランスが取れてる家族が最終的にうまくいくんだと思うんです。
だから、私は一人の人だけを愛します。
相手にも私だけを愛してほしいです。
でも、もう一人お互いの間に愛すべき人物ができたのなら、二人で沢山の愛をその人に注ぎたい。
って、久保さん?寝ちゃったんですか?
そんなに長いこと話してたんですか?
久保さんが話してっていうから話したのに。
久保さんは沢山の人から愛されて育ったって感じですよね。
とってもうらやましいです。
その反面可哀そうにも感じてるんですよ。
愛は時に余計なものまで連れてくる。
まあ、いいやもう寝ちゃったみたいだし。
私も寝ちゃおうかな。
なんか、ぱっとしないけどそんなに悪い気分じゃないな。
たまにはこういうのもいいかも。
おやすみなさい。
久保さん。