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第6状態

ベッドの中で背伸びをする。

天井は、いつものように水色だ。

空のように、雲もいくつか浮かんでいる。

よく寝れるようにということで、最近売り始めた機械を使っているからだ。

春風のような、爽やかな風が、窓を開けていないのにもかかわらず、部屋を吹き抜けていく。

部屋の天井に、音もなく飛んでいるそれを捕まえると、自動的に雲も風も消えた。

残った風を顔で感じながらゆっくりと背伸びをして、それから、眠っていたベッドから起き上がる。

いつもと変わらない日が、始まった。


朝ごはんを食べている間、適当にテレビの占いを見ていた。

最新の3Dテレビで、メガネをかけずに、どんな角度から見ても、どんな距離から見ても、飛び出しているように見えるというテレビだ。

「今日は右足から玄関を出るといい…か」

俺はあまり占いは信用していない。

だから、今回も適当に足を出すことにしようとした。

その結果は、左足から出ることにしたということだ。

まあ、適当にしていけば、なんとかなるだろう。


通学路の途中にある十字路を左斜め向こうの方へと行くとき、ものすごい勢いの自転車が、俺の前を通った。

気付いた時には、もう目の前にいてひやりとする。

だが、引っかかることもなく、怒号を俺に浴びせて、そのまま急カーブを描いて道の反対側へと向かった。

「朝からついてねーなー」

俺はそう愚痴ると、再び一歩を踏み出した。

とたん、右側から激しい衝撃を受けて、何が何だか分からない間に、青空を見ていた。

頭が正常に動かないまま、横からごめんなさいという声が聞こえてくる。

やっと衝撃が収まって、体の節々が痛みながらも上半身を起こすと、女子の顔が目の前に迫った。

焦って、慌てて数メートル離れようとするが、体が痛くて動けない。

「大丈夫ですか?」

その制服を見る限りでは、俺が通っている高校の生徒のようだ。

「ああ、大丈夫です」

本当は痛くて痛くて仕方ないが、女子の手前、泣かないように、気付かれないようにしながらゆっくりと立ち上がった。

「本当に大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

かるく制服のズボンについていた埃をはたきながら彼女の前で強がってみせた。

「では、急いでるので」

彼女は俺にペコリとお辞儀をしてから、学校へと駆けって行った。

俺はそんな彼女の後ろを、ゆっくりと追いかけた。


あるいていると、いつも水やりをしている泰斗(たいと)さんの家の前を過ぎたあたりで、お片側2車線の大きな道へ出る。

すると、道の向こう側に友人の谷屋が歩いているのが見えた。

どうしようか考えていると、向こう側が気付いたようで、手を振っている。

俺も手を振り返していると、左右を確認してから、谷屋がこちらに来た。


「ちーっす、何歩いてるんだ」

「そりゃ学校へ向かってるから歩いてるんだよ」

やってきた谷屋が俺に声をかける。

「そういや知ってたか」

「何をだよ」

「今日さ、転校生が来るんだってよ」

「転校生だってか」

「そうさ、噂によれば、なかなかの可愛い娘らしいよ」

「へえー」

語尾を下がり気味に、俺は谷屋に言った。

「なんか興味無さ気(なさげ)だな」

「まあね」

俺はそう谷屋に返して、それからちょっと歩くスピードを速めて学校へ向かった。


靴掃除装置を通って、靴底や側面についた泥などの汚れを落としてから、そのままの足で教室と向かう。

すでに大半の人が、今日転校生が来ることを知っているようだ。

いつも以上にざわついている。

友達と話していると、チャイムが鳴り、先生がまず入ってきた。

「今日はまず、みんなに転校生を紹介する」

それから、名前を呼んだ。

矢形耶麻(やかたやま)だ。みんなよろしくな」

それから先生は周りを見回して、空いている席を探す。

「そこ、行ってくれ」

彼女に指示した場所は、俺のすぐ横の席だ。

なんとなく見覚えがあるその人は、俺の横に自然に座った。

でも、俺のことを、ちょっと見ているような気もする。

「よろしくな」

俺は彼女に話しかけると、コクンと恥ずかしそうにしてうなづかれた。

それから、先生は何事もなかったかのように、連絡事項を伝えた。


それから授業ごとに必要に応じて教科書となっているパソコンを見せていたが、休憩時間になって何か話そうとすると、すぐに誰かが邪魔をした。

「んで、結局昼休みに誘うことはできなかったと」

「そういうことだ。ま、仕方ないさ」

谷屋達とのいつもと変わらない昼飯。

そこに、携帯にメールがやってきた。

「誰からだ」

谷屋が俺に話しかけてくる。

「ダイレクトメールさ。気にするな」

俺は谷屋にそれだけ言って、飯に戻った。


放課後になって、部活の時間となった。

谷屋と一緒に俺が入っているのは、科学部だ。

今や一般的となった、液晶ホログラフィを使った、3Dソフトの開発なんぞを、10年も昔の先輩から引きついでしている。

終わりがない作業ではあるが、いつの日にか終わりが来ると信じている。

「なあ」

谷屋がつまらなさそうにプログラミングの本を読みながら俺に言った。

「なんだよ」

軽快なタップを続けていたので、俺は、すこしムッとしながら問い返す。

「あの転校生。どうなんだ」

直球に聞いてくる。

「どうって、どういう意味なんだよ」

「そりゃ、一択だろ。お前があいつを好いているかって言うことさ」

「アホか」

一言でその意見は却下だ。

「なんでだよ」

「お前、一目見ただけの転校生にそんなこと言えるのかっていう話だよ」

「アリじゃねえの?」

俺は、突っ込む気力もうせて、再びプログラミングへ戻った。

そこへ、誰かが部屋へと入ってくる。

一瞬期待をしたが、見たとたんにそれも失せた。

「いつまでいるんだ」

「先生。もうちょっとです」

俺が顧問のイフニ先生へと返事をする。

担当は英語で、今年から赴任してきた先生だ。

「そうか、なら早めに済ませろよ」

もうすぐ帰る時間だっていうことで、先生がやってきたのだろう。

先生は、それだけ言ってから、カラカラと、来た時と同じようにドアを閉めて出ていった。

「で、あとどれくらいで終わる?」

「数分ってとこで、キリがよくなるから。したら帰るか」

そして、俺は一気に今日の分を仕上げて、部活を終わらせた。


普通であれば下駄箱があるような場所にあるロッカールームにいると、転校生の彼女がいた。

「あれま、彼女がいるわ」

谷屋が俺が気づいてから言った。

「ああ、見えてるさ」

俺が答えると、にやっと谷屋は笑って、俺先帰るわなと言った。

その言葉で、彼女が俺らの存在に気づいたらしく、こっちを見て、ほほ笑んできた。

「じゃあな」

「おいちょっと待てや」

だが、俺の声は、谷屋に届かず、さっさと駆けだして言ってしまった。

気まずい雰囲気の彼女と俺だったが、俺が先に声をかける。

「元気?」

「まあ、元気よ」

彼女のロッカーへとゆっくりとした足取りで近寄っていく。

「そりゃよかった。よかったら、途中まで一緒に行こうか。まだ、このあたりの道、わからないだろ」

「…おねがいできるの?」

彼女は、俺をじっと見ている。

「このあたりには、生まれた時からいるからな。どこに何があって、どんな抜け道があるか。全部知ってるぜ」

「……昔から変わらないね」

そんなことを言ったような気がした。

「ん?」

俺は、とりあえず聞き返す。

「なんでもない」

彼女は、目を俺からそらして、うつむいて言った。

「そっか」

俺はそう言って、谷屋が通ったのと同じ道を、ゆっくり二人で歩いて降りた。

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