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第24状態

ベッドの中で自然と目が覚める。

天井は、いつものように薄い水色だ。

本当の空のように、雲もいくつか浮かんでいる。

1台が5万6800円の、安眠促進機を使っているからだ。

春風のような爽やかな風が、どこも開いていないのにもかかわらず、部屋を吹き抜けていく。

それを頬で感じながらゆっくりと背伸びをして、それから、眠っていたベッドから起き上がった。

いつもと変わらない日が、相も変わらずに始まる。


1階に下りて朝ごはんを食べている間、時間確認のためにつけているテレビの占いを見ていた。

このテレビは最新の3Dテレビで、メガネをかけなくても、3Dに見えるというテレビだ。

「今日は右足から玄関を出るといい…か」

あまり占いは信用していないが、たまにはそれに従ってみるっていうのも面白いかもしれない。

2階へ戻って部屋に入り、制服を着て、カバンの中を――といってもノートパソコン1台だけなのだが――簡単に確認してから、家から15分ほどのところにある高校へ向かって歩き出す。

玄関を出る時に右足から出てみたが、これといって変わったところは何もない。

「ま、占いだからな」

そう独り言を言ってから、学校へ向かった。


登校路にしている十字路を左斜め向こうの方へと行くとき、高速道路の車よりも速いだろう自転車が、俺の前を通った。

気付いた時には、自転車に右足が引っ掛かってていた。

だが、その自転車はほとんどバランスを崩すこともなく1メートルぐらいジャンプしてはなれたところに着地して、俺に罵声を浴びせてから、その人はスピードを緩めずにどこかへと走って行った。

「なんだってんだよ、ったく」

悪態をついて、それから、歩き続けた。


あるいていると、いつも水やりをしている泰斗(たいと)さんの家の前を過ぎたあたりで、片側2車線の大きな道へ出る。

すると、道の反対側の歩道を一人で歩いている友人の谷屋が見えた。

どうしようかと考えている間に、谷屋は俺に気づくことなくどんどんと学校側へと歩いていく。

俺は何も言わずに学校で落ちあえるように歩きながら、どんどんと登校路を歩いた。


普通の高校ならばげた箱がある位置に据え置かれているロッカーのところで、谷屋と俺は合流することができた。

すぐに谷屋が話してくる。

「ちぃーっす、どうや」

「どうやって言われても、まあぼちぼちさ」

何を言ってもしゃべりまくるのは目に見えているので、適当にごまかしておく。

「そういやさ、聞いたか」

「何を?」

「今日さ、転校生が来るんだってさ」

「へぇ」

ロッカーのドアをバタンと閉め、すぐに教室へと上がった。


ロッカーと廊下の間にある靴掃除装置を通って、靴底や側面についた泥などの汚れを落としてから、そのままの足で教室と向かう。

すでに大半の人が、今日転校生が来ることを知っているようだ。

いつも以上にざわついている。

友達と話していると、チャイムが鳴り、先生がまず入ってきた。

すぐ後ろから、女子が一人入ってくる。

「今日はまず、みんなに転校生を紹介する」

それから、名前を黒板に書いた。

矢形耶麻(やかたやま)だ。みんなよろしくな」

それから先生は周りを見回して、空いている席を探す。

見つけた場所は、俺から見て教室の反対側にある席だった。

「そこ、行ってくれ」

彼女とは、かなり教室での距離が離れてしまった。

すこし残念に思っている俺がいるのに、俺自身が驚いていた。


それから授業ごとに、彼女の方を見ていたが、すぐ横にいる女子と仲良く机を並べて勉強を受けているようだ。

俺はそれを見ていることだけしかできなかった。

昼休みになっても、すぐに別の人らと仲良くなったようで、昼飯を誘うこともできずに、相変わらずの面々と一緒に昼飯を食べていた。

「んで、結局昼休みに誘うことはできなかったと」

「そういうことだ。ま、仕方ないさ」

結局いつもと変わらない昼飯。

そこに、携帯からメールがやってきた。

「誰からだ」

谷屋が俺に話しかけてくる。

「ダイレクトメールさ、気にするな」

イルフリア博士が開発した新型ソフトの販売メールだ。

俺は谷屋にそれだけ言って、飯に戻った。


放課後になって、部活の時間となった。

谷屋と一緒に俺が入っているのは、科学部だ。

今や一般的となった液晶ホログラフィを使った3Dソフトの開発なんぞを、10年も昔の先輩から引きついでしている。

終わりがない作業ではあるが、いつの日にか終わりが来ると信じて、今日もキーボードを打ち続ける。

「なあ」

谷屋がつまらなさそうにプログラミングの本を読みながら俺に言った。

「なんだよ」

軽快なタップを続けていたので、俺は、すこしムッとしながら問い返す。

「あの転校生。どうなんだ」

直球に聞いてくる。

「どうって、どういう意味なんだよ」

「そりゃ、一択だろ。お前があいつを好いているかって言うことさ」

「アホか」

一言でその意見は却下だ。

「なんでだよ」

「お前、一目見ただけの転校生にそんなこと言えるのかっていう話だよ」

「アリじゃねえの?」

俺は、突っ込む気力もうせて、再びプログラミングへ戻った。

そこへ、誰かが部屋へと入ってくる。

一瞬期待をしたが、見たとたんにそれも失せた。

「いつまでいるんだ」

「先生。もうちょっとです」

俺が顧問のイフニ先生へと返事をする。

担当は英語全般で、今年から赴任してきた先生だ。

「そうか、なら早めに済ませろよ」

もうすぐ5時になるから、先生返るように促しに来たのだろう。

先生は、それだけ言ってから、カラカラと、来た時と同じようにドアを閉めて出ていった。

「で、あとどれくらいで終わる?」

「数分ってとこで、キリがよくなるから。したら帰るか」

そして、俺は一気に今日の分を仕上げて、部活を終わらせた。


普通であれば下駄箱があるような場所にあるロッカールームにいると、転校生の彼女がいた。

「あれま、彼女がいるわ」

谷屋が俺が気づいてから言った。

「ああ、見えてるさ」

俺が答えると、にやっと谷屋は笑って、俺先帰るわなと言った。

その言葉で、彼女が俺らの存在に気づいたらしく、こっちを見て、ほほ笑んできた。

「じゃあな」

「おいちょっと待てや」

だが、俺の声は、谷屋に届かず、さっさと駆けだして言ってしまった。

気まずい雰囲気の彼女と俺だったが、俺が先に声をかける。

「元気?」

「まあ、元気よ」

彼女のロッカーへとゆっくりとした足取りで近寄っていく。

「そりゃよかった。よかったら、途中まで一緒に行こうか。まだ、このあたりの道、わからないだろ」

「…おねがいできるの?」

彼女は、俺をじっと見ている。

「このあたりには、生まれた時からいるからな。どこに何があって、どんな抜け道があるか。全部知ってるぜ」

「……昔から変わらないね」

そんなことを言ったような気がした。

「ん?」

俺は、とりあえず聞き返す。

「なんでもない」

彼女は、目を俺からそらして、うつむいて言った。

「そっか」

俺はそう言って、谷屋が通ったのと同じ道を、ゆっくり二人で歩いて降りた。

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