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第22状態

俺はベッドの中で背伸びをする。

天井は、いつものように蒼色だ。

本物の空のように、雲がいくつか浮かんでいる天井を見上げながら、ぼんやりと教が始まったことを感じる。

春風のような爽やかな風が、窓やドアを開けていないのにもかかわらず、部屋を吹き抜けていく。

それを顔で感じながらゆっくりと眠っていたベッドから起き上がった。


朝ごはんを食べている間、適当にテレビの占いを見ていた。

最新の3Dテレビで、メガネをかけずに、どんな角度から見ても、どんな距離から見ても、飛び出しているように見えるというテレビだ。

「今日は右足から玄関を出るといい…か」

あまり占いは信用していないが、たまにはそれに従ってみるっていうのも、面白いかもしれない。

制服を着て、カバンの中にノートパソコンが入ってるかを簡単に確認してから、家から15分ほどのところにある高校へ向かって歩き出す。

玄関を出る時に右足から出てみたが、これといって変わったところは何もない。

「ま、占いだからな」

そう独り言を言ってから、学校へ向かった。


登校路として使っている道の途中である十字路を左斜め向こうの方へと行くとき、ものすごい勢いの自転車が、俺の前を通った。

気付いた時には、自転車に右足が引っ掛かってていた。

だが、自転車搭載の搭乗者防御機能としての宙返りをして、俺に罵声を浴びせてから、その人はどこかへと走って行った。

「なんだってんだよ、ったく」

悪態をついて、それから、歩き続けた。


あるいていると、いつも水やりをしている泰斗(たいと)さんの家の前を過ぎたあたりで、片側2車線の大きな道へ出る。

すると、道の向こう側に友人の谷屋が歩いているのが見えた。

どうしようかと考えている間に、谷屋は俺に気づくことなくどんどんと学校側へと歩いていく。

俺は何も言わずに学校で落ちあえるように歩きながら、どんどんと登校路を歩いた。


ほかの高校ではげた箱だろう場所にはロッカーがある。

そこで、谷屋と俺は合流することができた。

「ちぃーっす、どうや」

俺の顔を見た瞬間に、谷屋が話しかけてくる。

「どうやって言われても、まあぼちぼちさ」

何を言っても騒ぐのは目に見えているので、適当にごまかしておく。

「そういやさ、聞いたか」

「何を?」

「今日さ、転校生が来るんだってさ」

「へぇ」

ロッカーのドアをバタンと閉め、教室へと上がった。


廊下との境目にある靴掃除装置を通って、靴底や側面についた泥などの汚れを落としてから、そのままの足で教室と向かう。

すでに教室にいる大半の人が、今日転校生が来ることを知っているようだ。

いつも以上にざわついている。

友達と話していると、チャイムが鳴り、先生がまず入ってきた。

「今日はまず、みんなに転校生を紹介する」

そのすぐ後ろに転校生が立っている。

先生が紹介している間に、後ろにある黒板に彼女が名前を書いた。

矢形耶麻(やかたやま)だ。みんなよろしくな」

その顔には見覚えがあったが、俺は何も言わなかった。

それから先生は周りを見回して、空いている席を探す。

それは、俺から見て教室の反対側にある席だった。

「そこ、行ってくれ」

彼女とは、かなり教室での距離が離れてしまった。

すこし残念に思っている俺がいるのに、俺自身が驚いていた。


それから授業ごとに、彼女の方を見ていたが、すぐ横にいる女子と仲良く机を並べて勉強を受けているようだ。

俺はそれを見ていることだけしかできなかった。

昼休みになっても、すぐに別の女子らと仲良くなったようで、昼飯を誘うこともできずに、相変わらずの面々と一緒に昼飯を食べていた。

「んで、結局昼休みに誘うことはできなかったと」

「そういうことだ。ま、仕方ないさ」

谷屋たちとのいつもと変わらない昼飯。

そこに、携帯からメールがやってきた。

「誰からだ」

谷屋が俺に話しかけてくる。

「ダイレクトメールさ、気にするな」

実は、別の高校に行った、超料理が上手な奴からのメールだ。

谷屋に言うと、どんな奴か詳しく聞かれそうで、それを答えるのが面倒だから、適当に流しておくことにした。

あとで、メールの返信を出しておかないとと考えながら、昼飯の続きを食べた。


放課後になって、部活の時間となった。

谷屋と一緒に俺が入っているのは、科学部だ。

今やどんな画面にも搭載されている液晶ホログラフィを使った、3Dソフトの開発なんぞを、10年も昔の先輩から引きついでしている。

終わりがない作業ではあるが、いつの日にか終わりが来ると信じている。

「なあ」

谷屋がつまらなさそうにプログラミングの本を読みながら俺に言った。

そのまま谷屋は、近くの机の上に本を置く。

「なんだよ」

軽快なタップを続けていたので、俺は、すこしムッとしながら問い返す。

「あの転校生。どうなんだ」

前置きなんかなく、直球に聞いてくる。

「どうって、どういう意味なんだよ」

「そりゃ、一択だろ。お前があいつを好いているかって言うことさ」

「アホか」

一言でその意見は却下だ。

「なんでだよ」

「お前、一目見ただけの転校生にそんなこと言えるのかっていう話だよ」

「アリじゃねえの?」

俺は、突っ込む気力もうせて、再びプログラミングへ戻った。

そこへ、誰かが部屋へと入ってくる。

実のところ、一瞬期待をしたが、見たとたんにそれも失せた。

「いつまでいるんだ」

「先生。もうちょっとです」

俺が顧問のイフニ先生へと返事をする。

担当は英語で、今年から赴任してきた先生だ。

先生の噂は、いろいろあるが、アメリカのどこぞの大学で博士号を取ったといううわさまである。

謎が多い先生だ。

「そうか、なら早めに済ませろよ」

もうすぐ帰る時間だっていうことで、先生がやってきたのだろう。

先生は、それだけ言ってから、カラカラと、来た時と同じようにドアを閉めて出ていった。

「で、あとどれくらいで終わる?」

「この行が終わればキリがよくなるから。したら帰るか」

そして、俺は一気に今日の分を仕上げて、部活を終わらせた。


普通であれば下駄箱があるような場所にあるロッカールームにいると、転校生の彼女がいた。

「あれま、彼女がいるわ」

谷屋が俺が気づいてから言った。

「ああ、見えてるさ」

気にしないようにして、ロッカーのふたを手前に開く。

金属製の軽い扉は、音もなく開いた。

だが、ドキッとする視線を感じて、そちらに振り返ると、彼女はこちらを見ていた。

「帰るところ?」

彼女の方が、俺たちに話しかけてきた。

「ちょうどな」

「そう。じゃあ、バイバイ」

彼女は、ほほ笑んで、手を振ってから、軽く駆け足気味で俺らの目の前から、校門へと続いている長い坂道を下った。


「いつのまに、そこまで仲良くなったんだぁ」

谷屋が俺の肩をたたきながら、さっきの彼女との会話について、鋭く突っ込んでくる。

「さあな」

俺は軽く答えて、すぐにロッカーから出ていく。

「おい、答えろよ」

「いいじゃないか」

俺は谷屋につつかれながら、彼女の後をゆっくりと追うようにして、坂道を下った。

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