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第13状態

ゆっくりと目を覚ますと、ベッドの中で背伸びをする。

天井は、毎日変わらずに空の色だ。

本物の空のように、雲もいくつか浮かんでいる。

安眠という触れ込みで、最近売り始めた機械を使っているからだ。

春風のような爽やかな風が、窓を開けていないのにもかかわらず、部屋を吹き抜けていく。

それを顔で感じながらゆっくりと背伸びをして、それから、眠っていたベッドから起き上がった。

いつもと変わらない日が、今日も始まる。


朝ごはんを食べている間、適当にテレビの占いを見ていた。

最新の3Dテレビで、メガネをかけずに、どんな角度から見ても、どんな距離から見ても、飛び出しているように見えるというテレビだ。

「今日は右足から玄関を出るといい…か」

あまり占いは信用していない。

だから、今回も適当に足を出すことにしようとした。

その結果は、左足から出ることにしたということだ。

まあ、適当にしていけば、なんとかなるだろう。


十字路を左斜め向こうの方へと行くとき、ものすごい勢いの自転車が、俺の前を通った。

気付いた時には、もう目の前にいてひやりとする。

だが、引っかかることもなく、怒号を俺に浴びせて、そのまま急カーブを描いて道の反対側へと向かった。

「朝からついてねーなー」

俺はそう愚痴ると、再び一歩を踏み出した。

とたん、右側から激しい衝撃を受けて、その正体を見る暇もなく、綺麗に澄み渡った青空を見ていた。

頭が正常に動かないまま、横からごめんなさいという声が聞こえてくる。

やっと衝撃が収まって、体の節々が痛みながらも上半身を起こすと、女子の顔が目の前に迫った。

逆光ではっきりと顔を見ることはできない。

慌てて数メートル離れようとするが、体が痛くて動けない。

「大丈夫ですか?」

その制服を見る限りでは、俺が通っている高校の生徒のようだ。

「ああ、大丈夫です」

本当は痛くて痛くて仕方ないが、女子の手前、泣かないように、痛いのを気付かれないようにしながらゆっくりと立ち上がった。

「本当に大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

簡単に俺が着ている制服のズボンについていた埃をはたきながら彼女の前で強がってみせた。

「では、急いでるので」

彼女は俺にペコリとお辞儀をしてから、学校へと駆けって行った。

黒色のリュックサックが胸と同じようにゆさゆさと揺れている。

俺はそんな彼女の後ろを、ゆっくりと追いかけた。


あるいていると、いつも水やりをしている泰斗(たいと)さんの家の前を過ぎたあたりで、お片側2車線の大きな道へ出る。

すると、道の向こう側に友人の谷屋が歩いているのが見えた。

どうしようか考えていると、向こう側が気付いたようで、手を振っている。

俺も手を振り返していると、左右を確認してから、谷屋がこちらに来た。


「ちーっす、何歩いてるんだ」

「そりゃ学校へ向かってるから歩いてるんだよ」

やってきた谷屋が俺に声をかける。

「そういや知ってたか」

「何をだよ」

「今日さ、転校生が来るんだってよ」

「転校生だってか」

「そうさ、噂によれば、なかなかの可愛い娘らしいよ」

「へえー」

語尾を下がり気味に、俺は谷屋に言った。

「なんか興味無さ気(なさげ)だな」

「まあね。まあ、しょっちゅう来るわけじゃないから、面白いとは思うけど」

俺はそう谷屋に返して、それからちょっと歩くスピードを速めて学校へ向かった。


靴掃除装置を通って、靴底や側面についた泥などの汚れを落としてから、そのままの足で教室と向かう。

すでに大半の人が、今日転校生が来ることを知っているようだ。

いつも以上にざわついている。

友達と話していると、チャイムが鳴り、先生がまず入ってきた。

「今日はまず、みんなに転校生を紹介する」

それから、名前を呼んだ。

矢形耶麻(やかたやま)だ。みんなよろしくな」

それから先生は周りを見回して、空いている席を探す。

「そこ、行ってくれ」

彼女に指示した場所は、俺のすぐ横の席だ。

なんとなく見覚えがあるその人は、俺の横に自然に座った。

俺の方を、しっかりと見て手を差し出してきた。

「よろしくな」

俺は彼女に話しかけると、コクンと恥ずかしそうにしてうなづいた。

それから、先生は何事もなかったかのように、連絡事項を伝えた。

彼女の椅子の横には、ぶつかった子と同じリュックサックが置かれていた。


それから授業ごとに必要に応じて教科書となっているパソコンを見せていたが、休憩時間になって何か話そうとすると、すぐに誰かが邪魔をした。

「んで、結局昼休みに誘うことはできなかったと」

「そういうことだ。ま、仕方ないさ」

谷屋達とのいつもと変わらない昼飯。

そこに、携帯にメールがやってきた。

「誰からだ」

谷屋が俺に話しかけてくる。

「ダイレクトメールさ。気にするな」

メールは、DNAを変化することによって強力な兵士を創るための資金集めをしているというメールだった。

俺は谷屋にそれだけ言って、飯に戻った。


放課後になって、部活の時間となった。

谷屋と一緒に俺が入っているのは、科学部だ。

今や一般的となった、液晶ホログラフィを使った、3Dソフトの開発なんぞを、10年も昔の先輩から引きついでしている。

終わりがない作業ではあるが、いつの日にか終わりが来ると信じている。

「なあ」

谷屋がつまらなさそうにプログラミングの本を読みながら俺に言った。

「なんだよ」

軽快なタップを続けていたので、俺は、すこしムッとしながら問い返す。

「あの転校生。どうなんだ」

直球に聞いてくる。

「どうって、どういう意味なんだよ」

「そりゃ、一択だろ。お前があいつを好いているかって言うことさ」

「アホか」

一言でその意見は却下だ。

「なんでだよ」

「お前、今日知り合ったばかりっていう転校生にそんなこと言えるのかっていう話だよ」

「アリじゃねえの、一目ぼれとかもあるだろ」

俺は、突っ込む気力もうせて、再びプログラミングへ戻った。

そこへ、誰かが部屋へと入ってくる。

彼女だ。

「あれ、なんでここに?」

俺は思わず立ち上がって、彼女のところへと寄ってみる。

谷屋も、その場に立っていた。

「えっと、ここって、科学部だよね」

「そうだけど?」

俺はとりあえず、彼女に椅子をすすめながら、話を聞く事にした。

「私って、幼稚園のころに引っ越して、それ以来、寂しさを紛らわすために、趣味に没頭するようになったの」

「趣味って、どんなの?」

「もうちょっと踏み込んで言えば、趣味が研究だって言う話なんだけどね。親が、物性科学の専門家だから、そういうものが好きになってたのよ」

「そうなんだ」

「それで、考えてみたんだけど、ここで開発を続けてるっていう液晶ホログラフィを、もう少し改良できると思ったのよ」

「ああ、あれか」

俺は、谷屋と一緒に、この科学部で、液晶ホログラフィを使った3Dモニターを、先輩から引き継いで作り続けている。

いつ終わるのかが分からない、延々としたプログラムの書き換えで、たまに走らせる程度の、適当な部活だ。

「別に入ってもいいよね」

「いいだろうさ」

いつの間にか座っていた谷屋が、俺が彼女に答えるよりも先に答える。

「顧問のイフニ先生に、入部届け出しといて。明日から、のんびりと部活に加わったらいいから」

「そうそう。どうせ俺らしかいないし」

「分かった、じゃあ、また明日ね」

彼女が笑顔で俺たちに手を振って、部室から、颯爽と出ていった。

「……いい()だなぁ」

谷屋がボケーとして、その後ろ姿を見ていたから、軽く頭をはたいてやり、俺は再びプログラムを書きだした。

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