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第12状態

ベッドの中で背伸びをする。

天井は、いつものように水色だ。

空のように、雲もいくつか浮かんでいる。

よく寝れるようにということで、セールで売っていた機械を使っているからだ。

春風のような、爽やかな風が、窓を開けていないのにもかかわらず、部屋を吹き抜けていく。

それを顔で感じながらゆっくりと背伸びをして、それから、眠っていたベッドから起き上がった。

いつもと変わらない日が、始まる。


マーマレードを食パンに塗りながら、適当に電源をつけてテレビの占いを見ていた。

最新の3Dテレビで、メガネをかけずに、どんな角度から見ても、どんな距離から見ても、飛び出しているように見えるというテレビだ。

「今日は右足から玄関を出るといい…か」

あまり占いは信用していないが、たまにはそれに従ってみるっていうのも、面白いかもしれない。

制服を着て、カバンの中を――といってもノートパソコン1台だけなのだが――簡単に確認してから、家から歩いて15分ほどのところにある高校へ向かって歩き出す。

玄関を出る時に右足から出てみたが、何か雰囲気が変わったといった感じはない。

「ま、占いだからな」

そう独り言を言ってから、学校へ向かった。


十字路を左斜め向こうの方へと行くとき、時速100km以上はあろうかという勢いの自転車が、俺の目の端を通った。

俺が気付いた時には、自転車に右足が引っ掛かってていた。

だが、ほとんどバランスを崩すこともなく、JIS基準の防御機能として自動的に宙返りをしてから、俺に罵声を浴びせてから、その人はどこかへと走って行った。

「なんだってんだよ、ったく」

悪態をついて、それから、歩き続けた。


あるいていると、いつも水やりをしている泰斗(たいと)さんの家の前を過ぎたあたりで、片側2車線の大きな道へ出る。

すると、道の向こう側に友人の谷屋が歩いているのが見えた。

どうしようかと考えている間に、谷屋は俺に気づくことなくどんどんと学校側へと歩いていく。

俺は何も言わずに学校で落ちあえるように歩きながら、どんどんと登校路を歩いた。


げた箱のような形であるロッカーのところで、谷屋と俺は合流することができた。

「ちぃーっす、どうや」

「どうやって言われても、まあぼちぼちさ」

何を言っても騒ぐのは目に見えているので、適当にごまかしておく。

「そういやさ、聞いたか」

「何を?」

「今日さ、転校生が来るんだってさ」

「へぇ」

あまり興味なく、ロッカーのドアをバタンと閉め、教室へと上がった。


靴掃除装置を通って、靴底や側面についた泥などの汚れを落としてから、そのままの足で教室と向かう。

すでに大半の人が、今日転校生が来ることを知っているようだ。

いつも以上にざわついている。

もしかしたら、教室の中で転校生にあまり興味がわかないのは俺だけかもしれない。

友達と話していると、チャイムが鳴り、先生がまず入ってきた。

「今日はまず、みんなに転校生を紹介する」

それから、名前を呼んだ。

このタイミングで、転校生は教室へと入ってきた。

矢形耶麻(やかたやま)だ。みんなよろしくな」

それから先生は周りを見回して、空いている席を探す。

それは、俺から見て教室の反対側にある席だった。

「そこ、行ってくれ」

彼女とは、かなり教室での距離が離れてしまった。

すこし残念に思っている俺がいるのに、俺自身が驚いていた。


遠くに座ったからということもあって、話しづらかったが、それでも問題なく、彼女とご飯を食べるという約束を取り付けれた。

なにせ、彼女の方が、俺の方へと近寄ってきて、まるで昔馴染みのようなそぶりで、ご飯食べる?と聞いてきたのだ。

「それで、一緒に飯食ってるってわけか」

谷屋が、俺と一緒に飯を食べながら言った。

「そうさ。ま、問題ないだろ?」

「そりゃあな……」

女子との昼飯は初めてらしく、谷屋が珍しく静かだ。

もそもそと居づらそうに飯を食べ続けている。

「いつもこんな感じなの?」

「そうさ」

俺は彼女の質問にそう答えて、弁当を一気に食べた。


放課後になって、部活の時間となった。

谷屋と一緒に俺が入っているのは、科学部だ。

今や一般的となった、液晶ホログラフィを使った、3Dソフトの開発なんぞを、10年も昔の先輩から引きついでしている。

終わりがない作業ではあるが、いつの日にか終わりが来ると信じている。

「なあ」

谷屋がつまらなさそうにプログラミングの本を読みながら俺に言った。

「なんだよ」

軽快なタップを続けていたので、俺は、すこしムッとしながら問い返す。

「あの転校生。どうなんだ」

直球に聞いてくる。

「どうって、どういう意味なんだよ」

「そりゃ、一択だろ。お前があいつを好いているかって言うことさ」

「アホか」

一言でその意見は却下だ。

「なんでだよ」

「お前、一目見ただけの転校生にそんなこと言えるのかっていう話だよ」

「アリじゃねえの?」

俺は、突っ込む気力もうせて、再びプログラミングへ戻った。

そこへ、誰かが部屋へと入ってくる。

一瞬期待をしたが、見たとたんにそれも失せた。

「いつまでいるんだ」

「先生。もうちょっとです」

俺がこの部活の顧問のイフニ先生へと返事をする。

担当は英語で、今年から赴任してきた先生だ。

ちなみに、どこぞの大学院で、工学博士を取ったらしいのだが、教職になるという夢を捨てきれず、こっちの道へ進むことにしたそうだ。

「そうか、なら早めに済ませろよ」

もうすぐ帰る時間だっていうことで、先生がやってきたのだろう。

先生は、それだけ言ってから、カラカラと、来た時と同じようにドアを閉めて出ていった。

「で、あとどれくらいで終わる?」

「数分ってとこで、キリがよくなるから。したら帰るか」

そして、俺は一気に今日の分を仕上げて、部活を終わらせた。


普通であれば下駄箱があるような場所にあるロッカールームにいると、転校生の彼女がいた。

「あれま、彼女がいるわ」

谷屋が俺が気づいてから言った。

「ああ、見えてるさ」

俺が答えると、にやっと谷屋は笑って、俺先帰るわなと言った。

その言葉で、彼女が俺らの存在に気づいたらしく、こっちを見て、ほほ笑んできた。

「じゃあな」

「おいちょっと待てや」

だが、俺の声は、谷屋に届かず、さっさと駆けだして言ってしまった。

気まずい雰囲気の彼女と俺だったが、俺が先に声をかける。

「元気?」

「まあ、元気よ」

彼女のロッカーへとゆっくりとした足取りで近寄っていく。

「そりゃよかった。よかったら、途中まで一緒に行こうか。まだ、このあたりの道、わからないだろ」

「…おねがいできるの?」

彼女は、俺をじっと見ている。

「このあたりには、生まれた時からいるからな。どこに何があって、どんな抜け道があるか。全部知ってるぜ」

「……昔から変わらないね」

そんなことを言ったような気がした。

「ん?」

俺は、とりあえず聞き返す。

「なんでもない」

彼女は、目を俺からそらして、うつむいて言った。

「そっか」

俺はそう言って、谷屋が通ったのと同じ道を、ゆっくり二人で歩いて降りた。

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