プロローグ或いは共通状態
「なあ、こんな話を知ってるか」
高校2年生の俺は、昼休みにはいつも同じクラスの友人たちと昼飯を食っている。
たまに学食へ行くこともあるが、大概は教室で弁当だ。
「なんだよ」
俺はそいつに言いながら、飯をかき込む。
大概飯の時に話しているのは一人だけだ。
俺の小学校からの親友である谷屋だ。
「エベレットの多世界解釈論って話」
「おい、量子力学はもういいって。お前、この前もよく分からん…ほら、北欧の街の名前のなんたら解釈ってやつの話してたろ」
「コペンハーゲン解釈な」
谷屋が俺の突っ込みに即答した。
「そう、それ」
ここで、別の友人が話に入る。
「谷屋の話は、頭痛くなるんだよな。ややこしい話ばかりで」
「なんでぇ、ミクロやマクロの話は面白いだろ」
「お前のミクロは素粒子未満の大きさだし、マクロになったら宇宙規模だろ。どうやってついていけって言うんだよ。俺はその間に生きてんだからな」
「まあ聞いとけって。面白い話だから」
まあ飯を食べている間は、放送部が流している曲を聴くか、こいつの話を聞くかぐらいしかない。
飯を食う間は、基本的に聞いているようで聞いていないから、適当に合わせておけばいい。
「いいかぁ、俺らがいるこの世界は、複数の世界のうちの一つにすぎないんだ。観測者がどの立場に立っているかによって、観測世界は変わって行くんだ」
「平たく言えば、並行世界か」
「そういうことになるな。まあ、本来の多世界解釈には、相対状態という概念で語られているだけだがな」
「ふーん」
ペットボトルのお茶を飲み、食い終わった弁当を袋に詰め直す。
そういえば、俺の幼馴染は元気にしているのだろうかと、ふと考えてみた。
「自身が観測できる世界以外は、この世界とわずかに異なった世界だからな。そして、観測者は別の世界を観測することができないため、他の世界の可能性を言うことができても、観測することは不可能なんだよ。もともとその世界だったっていう決定論にも似てるかもな」
「決定論なぁ…」
俺は、カバンに弁当袋をしまい終えると、幼馴染の彼女が、もしも一緒にいられたら面白いだろうなと思っていた。