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Strange・Army  作者: 翁蓮華
羽鳥巡:上
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試験と故郷への帰還



「失礼しマース、……って、どうしたのよアナタたち」

ガラガラ扉を開けて入室した梅芳さんは目を丸くする。

先ほどとは違ってきっちり巻かれたピンクの巻髪に、痛いほどに塗られた化粧がケバケバしい。デコレート軍帽を堂々と被ってくる辺り、ブレてない人だった。

「ちょっと司令官に鉄槌を下しただけですから」

僕は棒読みで答える。

ライム司令官は硬い笑みでぎこちなく手を上げた。

「梅芳もお早う、今日は早朝から悪いな」

「まあ、アタシたちの仕事には昼も夜もないから構わないわ。……後、梅子よ」

小声で最後にぼそっと呟いた梅芳さんは、腕を組んで壁にもたれかかった。

ライム司令官は、腕時計を確認し、6時丁度になったところで軍帽から覗く瞳を光らせた。

だらけていた先ほどまでと、顔つきを一変させる。

「羽鳥巡、採用試験を行う。

内容は、最近問題になっている一人の魔法使いを三人で狩って貰いたい。


……スピリット、ジェンダーをこちらからは補佐につける」

その言葉に、椅子に座っていたベリー・グレイナーと、壁にもたれていた野田梅芳は返答した。

「了解しましたわ、ミスター」

「了解したわ」

ライム司令官は、冷たい顔つきで言った。

「期間は、最大で半年だ。なるべく短い期間で確実に狩ってこい。

精神操作型の対象で、こちらもなかなか予言に引っかからなくて苦労している」

「失敗した場合のリスクはどうなるのかしら?」

梅芳さんが強ばった表情で問いかける。

「……その結果を鑑みて、羽鳥巡を処分するか否かを決定する」

一気に緊張が僕の頭に走った。

今まで、感じたことのなかった現実の重みが僕にのしかかる。

「羽鳥巡、受けるか」

「……了解、しました」

まただ。また、僕の口は。

意思とはうらはらに動く。



「今回の潜入先は、西旺にしひかるがせき高等学校。対象はその高校の生徒だ。

羽鳥巡の母校であり、巡には、一時帰宅をして通学をしてもらいたい」




操り人形は、笑わない。

僕もまた、笑えなかった。





「……よくあることなんですか?こういう、元居た場所に戻されるのって」

「ああ、そうね、なんていったらいいかしら」

梅芳さんは、皮肉気に笑った。

「大体、こういう手口なのよ。新しく断罪人形を増やすときって」

「……手口?」

「元々居た地区の対象を殺させるのを、最初の仕事にすることが多いわ。

もし、万が一記憶が蘇っても故郷に帰れない理由を作らせる為にね」

どこかやるせなささえ感じるその話に、僕は口の奥を噛み締めた。

「……梅芳さんも、やったんですか」

梅芳さんは、その言葉に、息を深く吸い込み。

「…………ええ、殺ったわよ」

微かな声で、そう吐き出した。

それ以上は、とても聞くことができなかった。

未だ覚悟のできてない僕が聞けるような話ではとてもなくて、僕は小さな声で彼に問いかけた。

「……ベリーは?」

「あの娘のことは、私は知らないわ。彼女は私なんかよりもずっと古い初期の人形だから」

この車に乗っている間、ずっと眠り続けている隣の彼女を横目に見る。細い髪の毛が顔にかかって、どちらも白い肌と髪のコントラストは、今にも壊れそうに見える。雨に濡れた雫が髪に弾かれて玉になっていた。

「初期というのは、どれぐらい古いんですか?」

梅芳さんが、軽自動車を運転しながら返答する。

「少なくとも、100年は前じゃないの」

思わず絶句した。

「……え、だって、」

「アタシは少なくとも昭和の生まれだから安心なさいな」

昭和って大分幅があるんですが、梅芳さん。

信号の停止中、指でハンドルの端を叩きながら彼は呟いた。

「それでも、初期の奴らはどれも化け物揃いだとアタシは思うけどね」

「……化け物、ですか」

自分から考えれば十分人外の梅芳さんが言う化け物とは、一体どんな基準なのだろう。

「そもそも、断罪人形ってなかなか生まれにくくてね」

「え?」

「ほら、元々が奇跡の術だから。適合する肉体がなかなか見つからないのよ」

黄泉路から魂を呼び戻す秘術。奇跡のその術は。

「精々処分されないよう頑張りなさい。これでも仲間が出来たことは喜んでないわけじゃないんだからね」

ふいに投げかけられた言葉は少しだけぶっきらぼうで。だからこそ仄かに暖く。

「……ありがとうございます」

運転席から覗く耳は、微かに赤かった。




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