計画
壁はピンク、左は黒白タイル右は畳の床に、前髪を上にあげて結んでいる一見活発そうな目が死んでいる少女と星形メガネをかけてパンツ一丁の男の二人が向かい合って座っていた。
「それでですね…」
「あっちょっといいですか」
少女が話そうとするのをさえぎるように男が言った。そしていきなり立ち、少女のななめ後ろに座った。
「なんですか?」
少女は無表情で男の方を見た。
「いや、足が冷えるんですよタイルの方」
足をさすりながら男は言った。
なら服を着ろと思うが、タイミングを逃した男はこのままでいいやと思い、半裸で少女と話すことにしたのだ。別に裸をみてほしい趣味とかではない。
「あぁそうですね…で、探偵さんの名前を教えてほしいんですが。あ、私は冬乃冷子と言います」
「俺は田中太郎です」
「なるほど田中さんですね」
半裸の男は田中太郎という、いかにも日本人というかんじの名前だ。
対して冬乃冷子は冷たい印象をうける、実際田中と話していて一回も表情を変えない。
「よーし!じゃあ本題に移りましょう、さあどんとこい!」
また田中が胸を叩きながら言った。
「はい…
あのですね私には兄3人がいまして、長男と次男がどっちともデザイナーなんです。三男は海外に行ってて音信不通、で問題は長男と次男にありまして」
「ほぉ問題があるとは?」
田中が雰囲気をだすため紙とペンをどこからかだして何かを書き始めた。
紙と言ってもチラシの裏である。
「長男は家のデザインを考えたりするんですが、見栄えはいいけど生活するには不便な家になってしまうんです。でも、安いお金でデザインを考えてくれるんで頼んでくる人が多くて…実際このアパートも長男がデザインしたんです」
「!?な…なん…だと…」
田中は目を見開き震えながら冬乃を見た。
「次男は実用性重視でデザインするんで色々と高くて」
「こんな目に痛い部屋にしたのはお前の兄のせいか!!視力落ちるわ!」
文句を言いだしたが冬乃は気にせず言った。
「それでなんかトラブルが起きて次男が長男を殺そうとしてるんです」
「デザイナーズマンションって言ったらほいほい買うと思ってんのかあアアアァ!!………ん?……いま殺すって聞こえた気がしたんだけど?」
「言いましたよ」
冬乃は無表情で口だけを動かして言った。
自分の兄が人殺しをしようとしてるなら止めるのが普通じゃないのか?と田中は思った。
「長男を怨んでる建設会社の社長も次男と協力してて、タロウさんには社長の方を犯人にしてほしんですよ」
「へぇなんで社長を犯人にしたいんですか?」
その瞬間ものすごい殺気をかんじた。
無表情で冬乃が田中を見ている、見ているだけだがこっちまで殺されそうな殺気がでていた。
「その社長の息子と結婚させられそうなんです。その人が変な人で」
殺気を出したままさっきより早口でしゃべりだした。
「私のこといっつも見てて。後ろをつけてきたり、無言電話してきたりするんです」
「なるほどストーカーか…」
目が死んでいるのはストーカーされてストレスがたまっているからだろうか、と考えた。
「それで、長男の殺人計画は全部把握してるので、推理はわたしがその場で考えます」
「えっ?」
「田中さん…探偵じゃあないでしょう?」
なんでわかったんだ、と田中は言いたくなった。
まぁ誰でも半裸で星メガネをかけてる男を探偵とは思わないだろう。
「これから説明するんで聞いててくださいね」
そういわれて田中は仕方なしに冬乃の説明を聞いた。
明日のお偉いさん達が集まる食事会でのスピーチ中、次男が長男の持っているグラスに毒を入れる。
長男には猛毒を盛って、次男のグラスには腹を下す薬をいれる、長男が倒れてグラスを落としたら次男が毒がバレないよう嘔吐して、ついでに近くに並ぶ医者にも変な毒を盛る。
これが次男と社長の殺人計画だった。
「き…汚い……」
「えぇ汚いです。」
もうすこし火サスでありそうな殺し方だと思っていた田中は計画を聞いて胃の中から何かが込み上がってくる感覚を覚えた。
「それと明日はちゃんとした格好できてくださいね。食事会無料で参加できるように頼んでおきますから」
すぐに胃の不快感が無くなりメガネの奥に見える目がギラリと光った。
「無料…?」
「はい」
田中が立ち上がり後ろにあるふすまを開けて中へ消えていった。
冬乃がジッと見ているとしばらくして勢いよくふすまが開いて、黒地に灰色の水玉模様のワイシャツと、リアルな虎のプリントがしてあるネクタイをして、田中がでてきた。
だが下はパンツだ。
「わかりました、明日ですね!冬乃さんのお兄さんが吐いていようと俺は料理をたべますよ!」
変な方向にやる気をだした田中だった。
「いいですけど下はちゃんとはいてくださいね」
冬乃はどこかズレているツッコミをいれた。