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サンタなんかおれへん!

今日はクリスマスイブ。おおぞら幼稚園では、みんな楽しそうに、明日のクリスマス会の準備をしていました。

「なあなあ、サンタさんに何おねがいする?」

「うーん、私はお人形」

「僕はロボット! でも、サンタさん来てくれるかなあ?」

「うちはいい子にしてたから、サンタさん来てくれるで!」

 マサヤ君は、そんなお喋りを聞いているとむかむかしてきます。

「サンタなんかおれへんねん! 来るわけないやろ!」

 マサヤ君の大きな声に、みんなビックリしてこっちを見ました。

 マサヤ君は、今にも泣きそうです。

「サンタさんおるで! いい子にしてたら来てくれるって、お母さん言うてたもん!」

 気の強いクミちゃんが言いました。

「そんなんうそや! サンタクロースなんかおれへんて、お父さんが言うてた」

「サンタさんはおるの! マサヤのあほ!」

 怒ったクミちゃんが、マサヤ君のほっぺたを叩きました。

「おれへんもん! クミのうそつき!」

 マサヤ君はクミちゃんの髪の毛を引っ張ります。二人とも泣きながら叩いたり引っ張ったり噛みついたりしている所を、先生が引き離しました。

「どうしたん、二人とも。せっかくのクリスマスやのに。仲良くできひん子の所には、サンタさん来てくれへんよ」

「マサヤが、サンタさんなんかおらんって言うねん。うちのこと、うそつきって」

「仲良くしたって、サンタクロースなんか来えへん! サンタなんかおらん! 先生もうそつきや!」

 マサヤ君は泣きながら、運動場へ飛び出していってしまいました。


 その夜、マサヤ君の家ではクリスマスツリーを飾り、晩御飯の後、ケーキを食べました。お父さんの買ってきてくれた、家族三人では食べきれないほど大きなケーキを、お母さんが上手に切ってくれました。ジングルベルもうたって、楽しく過ごしていたのですが、マサヤ君にはどうしても気になることがありました。

「なあ、お父さん」

「ん?」

「サンタクロースは、本当におれへんの?」

 それまでニコニコしていたお父さんの機嫌が、急に悪くなりました。

「おまえなあ、まだそんなこと言うてんのか。何回も言うてるやろ、あんなもん、うそっぱちや。サンタいうんは、お話や」

 ……やっぱりそうなんか。

「お母さんは、サンタさんおったらいいなって思うよ」

 泣きそうな顔になったマサヤ君を見て、お母さんが言いました。ところが、それを聞いたお父さんはますます怒ってしまい、

「おまえも、アホなこと言うな。マサヤがどんどんアホなるやろが」

 それだけ言ってもおさまりません。

「けったくそ悪い。せっかくプレゼントもやろ思とったけど、やめや。なにがクリスマスじゃ、しょうもない」

 お父さんは怒ったまま、テレビを観に行ってしまいました。


 夜遅く、もうお父さんもお母さんもぐっすり眠っています。しかし、マサヤ君はなかなか眠れませんでした。

 ……やっぱり、サンタはおれへんのかな。

 それでも、布団の中であっちを向いたりこっちを向いたりしているうちに、だんだん眠たくなってきました。

 そのときです。

「マサヤ君……」

 誰かが呼んだような気がしました。

 でも眠かったし、気のせいかなと思ってそのまま寝ていると、

「マサヤ君……」

 また呼ばれました。

 目を開けて声のした方を見てみると、誰かが立っています。

 マサヤ君は怖くなって、一緒に寝ているお母さんとお父さんを起こそうとしましたが、二人ともよく寝ていて起きません。

「驚かせてしまったね。ごめんよ」

 男の人の声が聞こえると、ひとりでに電気がついて、立っている人を照らしました。

「え、サンタクロース……?」

 そこに立っていたのは、赤い服を着たおじいさんでした。長い髪の毛も髭も真っ白で、大きな袋を持っています。幼稚園の絵本で見たサンタクロースとそっくりでした。

「こんばんは、マサヤ君。メリークリスマス」

 おじいさんはニッコリ笑って言いました。

「こんばんは」

 思わず挨拶をしてから、マサヤ君はお父さんの言ったことを思い出しました。

「サンタなんておれへん! うそや、にせもんや!」

 サンタさんは悲しそうな顔になって、

「そうか、それで今までは読んでくれなかったんだね」

 小さな声で言いました。それからマサヤ君に向かって話しはじめました。

「マサヤ君、わしはサンタクロースだ。世界中のどこにでも、すぐに行ける。でも、わしのことを信じていない、会いたくないと思っている子どもの所へは行けないんだ」

 そこで今度は嬉しそうな顔になり、

「こうやってマサヤ君とお話しているということは、わしに会いたいと思ってくれたんだね。ありがとう」

 ……ぼくが?

 マサヤ君はびっくりしました。だってついさっきまで、サンタなんかいない、と思っていたのですから。

 でもよく考えてみると、クミちゃんとケンカしているときも、晩御飯を食べているときも、心のどこかでサンタがいたらいいなと思っていたような気もします。

 いないけど、いたらいいな、会いたいなと思っていたのです。

「うん、本当はサンタさんに会いたかった」

 そう言ってから、さっきひどいことを言ったのを思い出しました。

「にせものとか、うそとか言って、ごめんなさい」

 マサヤ君があやまると、サンタさんは大きな手で、頭を撫でてくれました。

「うん、君はいい子だね。さて、じゃプレゼントをあげよう。何がほしいかな?」

 サンタさんが、持っていた袋を下ろしました。

 ……プレゼント?

 マサヤ君の顔がパッと輝きました。

 ……車のおもちゃもいいし、おかしもほしい。それにテレビで見たロボットもカッコ良かったな、それから、

 ほしいものを次々に思い浮かべていたとき、ふとクミちゃんの顔が浮かびました。

 ……あ

 それまでの楽しい気持ちは消えてしまいました。

「何がほしいか、決まったかい?」

 サンタさんがきくのに

「ううん、プレゼントいらん。クミちゃんにひどいこと言っちゃったから、ぼくだけプレゼントなんかもらわれへん」

 言う間に、涙があふれてきます。

 だまって見ていたサンタさんは、とても優しい笑顔を浮かべて

「そうか。じゃあわしは、次の子のところへ行くよ。また来年、会おう」

 そう言って指をパチンと鳴らすと、煙になって消えてしまいました。

 電気もまた勝手に消えて真っ暗な部屋の中、マサヤ君は立ったまま、サンタさんがいたあたりを見ていました。

 それから、明日はクミちゃんにきちんと謝って、仲直りしようと思いながら、お父さんとお母さんの間にもぐりこみました。

 

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