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暴君に愛された魔女  作者: 月内結芽斗
第2章

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19. 退陣

 

 シルビアからの教育は未だ続いていた。しかし今日のペルリタはまったく集中ができなかった。伯爵家がどうなったのか気になって仕方がないのだ。彼らのことが嫌いだったのは確かなのに、こうして彼らに問題が降りかかると心配も抱いてしまうのだった。少なくともペルリタがこれまで餓死してこなかったのは、伯爵があの日ペルリタを屋敷に迎えてくれたからだ。


 モヤモヤした気持ちのせいでペルリタは、自分の指に針が刺さっていることに気づかなかった。


 練習がてらベルトランのハンカチに刺繍を入れている途中だった。彼のまっさらなハンカチに血の赤が滲んでいることに最初に気がついたカミラが、ペルリタに声をかける。


「血が出ています」

「あっ」


 慌ててハンカチをテーブルに置いたペルリタは、血の広がり具合を確認した。汚れは手洗いで落とせるだろうか。みんなが見ていないうちに寝室に持って帰って、魔法で……。


 ペルリタは無意識に指先を口に含んだ。子どもの時から怪我をしたらこうしてきたから癖がついていた。咄嗟に治癒魔法を使いそうになって、ペルリタはやめた。


「貴婦人はそんなふうに止血しないわよ」


 向こう側で読書をしていたシルビアがやってきて、ペルリタの指先を確認した。まだ血が滲んでいたが、傷はそこまで深くはない。シルビアは一安心とばかりに息を吐いた。


「このことベルトランには内緒にしたほうがいいわ」


 言われてペルリタもカミラも頷いた。彼女が怪我をしたと知ったらベルトランがどうなるか、みんな予想ができていた。


 カミラが怪我の処置をしてくれているあいだ、ペルリタは休憩をもらった。休んでいるあいだも何やらぼうっとしているペルリタを見て、シルビアはベルトランの執務室に向かった。気晴らしのための外出許可をもらいに行ったのだ。


 後ろにフリアとマリサを連れてシルビアは帰ってきた。


「散歩しましょうか」


 侍女ふたりに日傘とボンネットを渡されて、ペルリタは屋敷の外に出た。

 ペルリタがこうして街に降りるのは、公爵家に来てからは初めてのことだった。だからか、見慣れた道も新鮮に映る。結婚する前は夫人やカリナのお使いをさせられるときに、よくこの道を通っていたけれど……。


 大通りを歩いていると、一人の男性が話しかけてきた。その人物はシルビアの商売相手だそうで、新しい商品を直接見て欲しいと言った。


「カペル様が帝都にいらっしゃることは滅多にありませんから、お時間が許すならぜひ」


 ペルリタもシルビアも散歩のつもりで街に降りてきていて、この後も特に予定はなかった。だから心地よく男を立てるつもりで誘いに乗った。


 男の営む店は目と鼻の先にあった。そこはアクセサリーを売っている店で、店内には安いものから高級なものまでたくさんの宝石が並んでいた。男は早速ガラスケースの中から、商品を慎重に取り出した。


「こちらの指輪が見て欲しい商品なのですが、最近腕のいい彫り師を雇いまして――」


 店はそれほど広いわけではないが、高級感があった。二階に続く階段があるので、お得意さんや貴族は二階で商品を見るのだろうと、ペルリタは推測した。店内には一組の若い男女がいて、熱心にたくさんの指輪を見比べていた。もしかしたら結婚指輪を買おうとしているのかなと、ペルリタは微笑ましく思った。


 店員の一人が二人に対応していて、笑顔を浮かべながら忙しなく、商品を出したり、戻したりしている。商品を買うわけでも商談をするわけでもない自分と付き添いの侍女は邪魔になるだろうと思ったペルリタは、シルビアに断って外に出ていることにした。


 シルビアにはフリアについていてもらい、ペルリタはカミラとマリサと一緒に店先で待っていることにしたが、男の話がどれくらいかかるかわからないのでは、待っているのも退屈だろうと気を遣って、カミラがペルリタに街をぶらぶらしてくることを提案する。


「私は街にも興味がありませんし、シルビア様に伝達する係も必要でしょうから、マリサと二人で見てきてください。ただし、この大通りだけにしてくださいね」

「わかった」


 マリサは街を歩けることが嬉しくてたまらないようだった。平民である彼女は休みの日、出掛けることがあってもこの通りに用はないので、歩くのはほとんど初めてだという。


 ペルリタはマリサが無意識に見ていたカフェで持ち歩きのクッキーを買って、彼女に渡した。


「一緒に食べようと思って。多めに買ったからフリアとカミラの分は残しておいてね」


 優しく笑うペルリタにマリサはこんなに優しい主人はいないと思った。


 侍女仲間の話では、侍女は買い物のときもっぱら侍従と一緒に荷物持ちをすることが多いのに、マリサの主人は重い荷物ではなく、甘いお菓子を持たせてくれたのだ。

 一枚食べてマリサはさらに嬉しくなった。


 

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