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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第26章 別れの刻

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別れの刻Ⅰ

 気付けばソファーで眠っていた。出来上がった刺繍を握り締め、毛布も掛けずに。誰かが私の頭を撫でてもいた。


「ミユ、おはよう」


「クラウ?」


 もしや、寝顔をずっと見られていたのだろうか。恥ずかしくなってしまう。


「いつからここにいるの?」


「うーん、さっきだよ」


 本当だろうか。じっとクラウの瞳を見詰めてみても視線は揺るがなかったので、本当なのだろう。

 そうだ。昨夜、刺繍が完成したのだ。絶対にクラウに見てもらいたい。起き上がり、そっとハンカチを差し出した。


「これ、クラウにあげる」


 一生懸命仕上げたので、褒めてもらえたら嬉しい。

 クラウはハンカチを受け取ると、まじまじと刺繍を見詰める。


「これ、ミユ一人で縫い上げたんだよね?」


「うん、そうだよ」


「凄く綺麗だ」


 クラウの一言に、ぱっと心に花が咲く。彼はハンカチの縫い糸に沿って、指で撫でる。


「俺の姉さんも刺繍はするけど、こんなに上手くはないよ」


「それは褒め過ぎだよ。私だってすごく久しぶりの刺繍だし」


「全然お世辞じゃない。ミユ、ありがとう」


「……うん」


 喜んでくれたなら、これ以上嬉しいことはない。


「本当にありがとう」


 飛び付いてきたクラウにの背中に腕を回し、その温もりをしっかりと確かめた。

 いつまでも自室にいる訳にもいかず、二人で会議室を目指した。別れの予感からか、会話はほとんどない。手だけはしっかりと握る。

 だだっ広い、笑いの絶えなかった部屋に、一人で椅子に座って頬杖を突く。クラウは「ココア持ってくるから待ってて」と、キッチンへ行ってしまったのだ。

 この部屋はこんなに広かっただろうか。そうか。皆が私を独りにしなかったから、その広さを感じさせなかったのだ。つらい時も、悲しい時も、必ず誰かが傍にいてくれた。やはり皆とは別れがたい。そんなことを考えていると、蝶番の軋む音が部屋に響いた。


「ミユ、お待たせ」


 足音が段々と近付いてくる。私の傍で足音が止まると、目の前にマグカップが置かれた。早速、手を伸ばす。息を吹き掛けて冷まして少しずつ口に含むと、ココアの甘さが口いっぱいに広がった。


「美味しい~! 流石、クラウだよ!」


「良かった」


 微笑み、クラウもココアを飲む。その瞬間、安堵の表情へと変わった。


「やっぱり、朝は甘い物が良いね」


「うん」


 和やかな雰囲気になったと思っていると、又しても扉の開く音が響き渡る。


「あれ? ミユ、クラウ、おはよう。早かったね」


 声の主はフレアだ。手には私たちと同じようにマグカップを持っている。

 ところが、フレアと一緒に居るであろう人物は見当たらない。


「アレクは~?」


「今、キッチンで朝食作ってるよ」


「あれ、入れ違いになったかな。まっ、良っか。アレクだし」


 アレクには失礼だけれど、クラウの言葉に小さく笑ってしまった。フレアも口に手を当て、「ふふっ」と笑う。


「フレア、何飲んでるの?」


「あっ、これ? ローズヒップティーだよ。二人とも、朝からよく甘い物飲めるね」


「えっ? 何で甘い物だって分かったの~?」


「部屋の中、ココアの甘い匂いでいっぱいだよ?」


 そう言われても、近くにココアがあるから部屋の匂いまでは分からない。クラウと二人で首を振ると、何故かフレアに笑われてしまった。


「二人とも、同じ反応するんだね。面白い」


 もしかしてからかわれているのだろうか。自然と頬が熱くなる。


「顔が赤くなる所まで同じ」


 フレアは「ふふっ」と笑う。クラウの方を見てみると、若干潤んだ青い瞳とぶつかりあった。フレアの言う通り、クラウの顔も紅を差したかのように赤くなっている。どうにかして。と言わんばかりに。

 こんな気まずい時間は、早く過ぎてくれないだろうか。そう思っていると、丁度扉が開く音がした。アレクがやってきたのだ。


「待たせたなー! ……おっ? クラウとミユ、何で茹でダコみてーな顔になってんだ?」


 アレクは両手にトレーを持ったまま、不思議そうに私たちを見る。


「気にしなくても良いよ」


「そう言われると気になるじゃねーか。ま、予想は出来るけどな」


 アレクは意地悪そうに笑い、テーブルに料理を並べていく。トーストにバター、赤色のスープとポテトサラダ、ハムステーキにショートケーキだ。いつもの朝食よりも豪華な気がする。


「四人の好物、全部用意してやった。スープはフレアのだけ激辛だ。他のヤツはトマトの赤だから気にしないでくれ。んじゃ、ミユ、頼む」


 「うん」と大きく頷き、いつものように手を合わせる。それに習い、他の三人も手を合わせた。


「いただきます」


「いただきます!」


 私の後に続き、三人の声が揃う。まずはトーストに手を伸ばし、バターを塗って頬張った。モグモグと口を動かしていると、アレクが小さく深呼吸をする。その深刻そうな表情から察するに、重要な話を切り出そうとしているに違いない。


「ダイヤでの飯はコレで最後だと思ってくれ」


「えっ? でも、昼食だって、夕食だってあるよ?」


「朝飯食い終わったら、それぞれの塔に――元いた場所に帰るんだ。いつまでもここにいたら、未練が残って離れられなくなっちまう。オレの独断と偏見だけどよー、悪ぃ。従ってくれ。湿っぽくなるのはイヤなんだ」


 言葉が出ない。クラウとフレアも同じだったと思う。誰も話し出そうとはしなかったから。俯き、一旦手を休める。

 確かにアレクの言う通りだ。この四人で楽しい時間を過ごしていると、もっとスティアにいたくなってしまう。この世界に留まる選択をしたとしても、アレクとフレアとは今生の別れになるだろう。そう考えると、余計に。

 私の中で結論は出た。アレクに賛同しようと顔を上げると同時に、隣からシルバーと食器がぶつかる音が響く。

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