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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第25章 世界

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世界Ⅳ

 窓の外を見たいと思ったのは私だけではなかったようだ。


「アレク、行こう。あたしだって、あたしたちが守ってきた世界を見たいんだから」


「あぁ、そうだな」


 フレアとアレクは覚悟のある表情で頷き合う。


「じゃあ、窓を開けるよ」


 クラウは窓に近付き、それを開け放つ。途端に凍えるような冷気と粉雪が勢い良く部屋へと流れ込む。

 両手で肩を抱き、震えながら足を動かした。眼下に広がる御伽噺のような世界に大きく白い息を吐き出す。

 城と城下町は深い谷に隔てられ、一本の橋が架かっている。城下町には赤い煉瓦造りの建物がひしめき合い、煙突からは煙も立ち上っている。暖炉か何かの煙なのだろう。その一つ一つに人々の生活があるのだと思うと感慨深い。

 手すりには雪が積もっているので、素手で触る訳にもいかず、代わりにスカートを握り締めた。


「ミユ、震えてる」


 ふわりとクラウの声が聞こえたかと思うと、後ろから抱き着かれた。心臓がとくりと飛び跳ねる。それなのに、不思議と恥ずかしくはない。


「この国に、私の居場所ってあるのかな?」


「それは俺が保証する」


 キッパリと言い切る声に、酷く安心する。このままでは後先考えずにこの世界を選んでしまうだろう。駄目だ、落ち着け私、と自分を叱咤する。


「あの橋の向こうにさ、大豪邸が三つあるじゃん? あの一つが俺の実家」


 クラウが指さす先には、確かにどの屋敷よりも一際大きな建物が三つある。そこにクラウの両親や姉が暮らしているのだ。まるで現実感がない。


「ミユにとって、ここが小説の中の話みたいだっていうのは理解してるつもりだよ。でも、この国の人たちはこの生活が現実で、ちゃんと存在してるんだ」


 だから安心して欲しい。そこまでを読み取り、何度か頷いてみる。不安がないとは決して言えない。でも、クラウの誠意はきちんと伝わっている。

 アレクとフレアがいる筈の空間を見てみると、二人の姿は既に消えていた。寒さに耐え切れず、部屋の中へと避難したのだろう。


「私たちも部屋に戻ろう? クラウが凍えちゃう」


「うん。ありがとう」


 その温もりが離れ難くて、冷気にさらわれてしまう前に手を取った。私たちの微笑みを残してバルコニーを去る。


「やっぱり荘厳だね。雪景色の街並みって」


「あぁ。けど、寒ぃのに温けぇ気がしたな」


 アレクとフレアは未だに窓の外を見詰めたまま、肩を寄せ合っている。


「早速だけど、氷像祭りの会場に行こっか。俺も今年は何を造るのか何も知らないから、結構楽しみなんだ」


「うん! 行こう〜!」


 私の返事を聞くと、クラウはにこっと笑って魔法陣の作成に取り掛かった。何となくアレクとフレアの元に行き、話の輪に加わる。


「氷って、どうやって削るの? 一般の人じゃ、魔法だって使えないし」


「ノミとかじゃねーのか?」


「そっか、チェーンソーとかないもんね」


「ちぇーんそー?」


 アレクとフレアは不思議そうに首を傾げる。


「うん。木だって真っ二つにする凄い機械が異世界にはあるんだ〜」


「木を……縦に真っ二つか?」


「う〜ん、縦はちょっと厳しいけど、横には真っ二つに出来るよ」


「凄ぇ……」


 私にとっては当たり前な機械なのだけれど、見たこともないアレクとフレアにとっては驚異の機械だろう。感嘆の声を漏らす二人に、笑いを零してしまった。


「出来た! 皆、行こう」


 クラウの声に振り向いてみると、床には先程とは違う文字の書かれた魔法陣が三つ並んでいる。会場には他に誰かいるのだろうか。出店などは並んでいるのだろうか。楽しい想像が膨らみ、堪らず魔法陣へと踏み込んでいた。

 光と浮遊感が収まり、瞼を開ける。現れた光景に疑問ばかりが浮かぶ。


「まだ……お城の中? なのに、氷像がある……。なんで溶けないの?」


 白一色の壮大な廊下に、抜けるほどに高い天井、豪華なシャンデリア、紺色の絨毯――どう考えても外ではない。しかも、部屋と同じくらい温かい。その廊下の壁伝いに、びっしりと氷像が並んでいる。これは氷ではないのだろうか。しかし、この半透明感と艶やかさ――氷で間違いはない筈だ。


「ミユ、お待たせ」


 クラウが姿を現しても、ぽかんと見詰めることしか出来ない。


「……は? なんで城の中に氷像があるんだ?」


「寒くないのは良いけど……」


 直後にワープを果たしたアレクとフレアも驚きを隠せないようだ。


「女王が溶けないように魔法をかけてるだけだよ。城の中の氷像は貴族ので、外のが庶民の。でも、今日は外は禁止だから、ここだけになっちゃった」


「なんだ、そーいうことか」


「あたしもびっくりしちゃった」


 魔法というなら納得だ。実際に、溶けない氷のラナンキュラスをクラウから貰っているのだから。

 四人で改めて氷像に目を向けてみる。ドラゴンに人物像、城や動物の氷像まで飾られている。北海道で見る氷像よりも一回り大きいだろうか。それなのに、城の外観や動物の毛並みまで見事なまでに再現されている。相当な技術だ。溜め息まで漏れる。


「皆、氷像祭りやスケート大会は全力で楽しんでるからね。審査だってあるし」


「飾るだけじゃないの?」


「うん。女王からの感想と点数が与えられるんだ」


 つらい筈の寒さを楽しみに変えるなんて、逞しい人たちだ。ううん、生きる知恵が冴え渡っている、と言った方が正しいのだろうか。

 家名とタイトルが書いてあるプレートと、タイトル通りに物語を表現している氷像を熱心に見比べる。

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