タイムカプセルⅡ
「寄せ書きが出来たんなら、次はモノだな」
アレクはニカッと笑い、両手を合わせる。
「何でも良いから、大事なもん持ってこい。一緒に埋めよーぜ」
そのまま彼は勢い良く立ち上がると、私たちを見渡した。
「何があるかなぁ」
大事なものはある。先ほど挙げた胸元で輝いているカノンの結婚指輪と、日記、加えてエメラルドに置いてきたクラウがくれたぬいぐるみ、それにフルート――果たして、今手放して埋められるものはあるのだろうか。
「ミユ」
不意にクラウの囁きが聞こえた。振り向いてみると、どこか哀愁の漂う笑顔があった。
「この指輪、埋めちゃおう」
クラウは胸元のリエルの結婚指輪を摘まむ。その瞬間、部屋の空気が止まったように感じられた。
「オマエ、その指輪は――」
「アレクは黙ってて。これは俺とミユの問題だから」
青の瞳はちらりとアレクを見遣ると、すぐに私の方へと戻る。
「俺に考えがあるんだ」
この指輪は大事な思い出だ。それだけではない。私たちの想いが具現化したものだ。簡単に手放してしまって良いのだろうか。
ううん、こうも考えられる。過去世の遺物だからこそ、『今』を生きるために手放した方が良いのではないかと。肯定と否定の両方が私の心の中でせめぎ合っている。
「……あたしもこのイヤリング埋めるね」
フレアは耳からイヤリングを外し、ころりとテーブルに転がした。
「良いのか?」
「うん。アレク、この花言葉覚えてる?」
「あぁ。確か『また会える日を楽しみに』だったよな」
「そうだよ」
フレアは愛おしそうに、アレクは腕を組んでイヤリングを見詰めている。
「タイムカプセルが掘り起こされる時は、世界は危機に瀕してると思う。だけど、その中でもあたしたちが来世に会える『楽しみ』があったって良いでしょ?」
「……ちょっと待っててくれ」
アレクは深刻そうな表情をすると、静かに会議室を出ていってしまった。
「私は……」
どうすれば良いのだろう。ぎゅっと片手で指輪を握り締め瞼を閉じてみる。こんな時、カノンは何と言うのだろう。きっと、私の思う通りに行動して良いんだよ、だとか、私のことは気にしないでなどと言うのだろう。
それならば、私がカノンの立場なら何を伝えられるのだろう。私ならきっと、『私にもう囚われないで』と言うに違いない。――決めた。
「私もこの指輪埋める」
するりとネックレスの留め具に手を伸ばす。ちょっとだけ苦戦しながら外すと、ネックレスから指輪を抜き取った。手のひらの上で、指輪は朝日を眩い程に反射している。
「ミユ、ありがとう」
クラウもネックレスから指輪を外すと、にこっと笑う。これで良かったのだと信じよう。
「オマエら、待たせたな」
戻ってきたアレクは笑顔とは言えない。右手には何かを握り締めているようだ。
「オレもこれは埋めることにした」
静かにテーブルへ置いた拳の中には、フレアのイヤリングと同じものがあった。フレアのものとアレクのものは片耳分しかないので、恐らく一組のものを二人で分けたのだろう。
「これ……」
フレアは目を見開き、アレクの顔を見る。
「あぁ。オレも持ってたんだ。まだ告れてねぇのにペアで持つのは違ぇしって思ったら、前世ではつけられなくてな。今世でやっと想いは伝わったけど、つけるタイミングを失くしちまってた」
アレクが前世で告白出来なかったのは、私が現れなかったからだろうか。それとも、クラウがあまりにも悲しみに沈んでいたからだろうか。真相はアレクにしか分からないけれど、罪の意識に苛まれてしまう。
「ミユ、暗い顔すんじゃねぇ。オマエを責めるやつはいねぇさ」
「……うん」
『でも』『だって』という言葉を使ってしまえば、アレクの優しさを否定してしまう気がしたのだ。
クラウは隣の席に置いてあった三十センチ程の正方形の空き缶をテーブルへ置き、その中へそっと指輪を入れた。次から次に全員が立ち上がり、思い思いのものを詰め込んでいく。最後にアレクが寄せ書きを四つ折りにし、思い出たちに蓋をするかのようにそっと載せた。
そうだ、世界が危機に瀕するということは、自然も失われるかもしれない。復興の証として、植物の種を入れたいな、と思った。
缶の蓋を持つクラウに、言葉で制止する。
「待って。まだ入れたいものがあるの」
「何?」
「桜の木の種」
桜の花言葉は『精神の美』だという。いくら負の感情が溢れかえった世界だとしても、心は綺麗であって欲しい。桜を見て、幸せがなんなのかを感じて欲しい。
「魔法で出しちゃうね」
種はまだ魔法で出したことはない。でも、魔法で天まで届きそうな蔦が生える程だ。種なんて、なんてことはないだろう。
瞼を閉じて、桜の花をイメージする。この花が咲く種よ、姿を現して。手を組むと、その中に丸い何かが出現したようだった。目を開けて、手を開いてみる。そこにはさくらんぼの種に似たものが四粒あった。
「ちゃんと芽吹いて、花が咲いてくれますように」
寄せ書きの上に丁寧に載せ、そっと微笑んでみせた。




