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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第22章 晩餐会

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晩餐会Ⅲ

 クラウは「うん」と小さく頷き、話し始める。


「俺たちは神様に戦争を止めてみせるって宣言したよね? でも、その宣言だって、生まれ変わったら忘れてると思うんだ。この世界でもし戦争が起きたなら、ちゃんと阻止できるように、声を上げられるように、準備しておくに越したことはないじゃん?」


 説明が終わっても、アレクの眉間には皺が刻まれたままだ。


「だからってなぁ。タイムカプセルが埋められてるのも忘れるんだろ? じゃあ意味ねーんじゃねぇか?」


「それは手紙に書き残せば良いよ」


「タイムカプセルの中身を各国の自室に残すのは駄目なのか?」


 クラウは唸り声を上げたものの、数秒後には首を横に振っていた。


「誰かに見つかって、捨てられでもしたら終わりだよ。一番安全なのはここ。それに何より、自分の意思を他人には見られたくない」


 今度はアレクが唸り声を上げ始める。悩んだ末に導き出されたのは、未来への『希望』だったらしい。


「分かった。オレらがここを見つけられるのを祈るしかねーか」


 アレクも納得したように口角を上げ、頷いてくれた。


「フレアとミユは良いのか?」


「あたしたちは賛成してたよ。ね、ミユ」


「うん。戦争は何が何でも止めたいから」


 私はこの中で唯一、戦争の凄惨さを知っている。体験はしていないけれど、テレビや過去の遺産を通して起こしてはいけないことだと知っている。優し過ぎるエメラルドの人たちの笑顔を見たからこそ、守りたくなる。


「じゃ、オレからこれ以上言うことはねーな。後はタイムカプセルの中身をどーするか、だな」


「そのことなんだけどさ」


 おもむろにクラウは立ち上がると、アレクの方へと向かう。そのまま耳打ちをし、二人で何やら盛り上がっているようだ。話の内容が気になって仕方がない。


「ねえ、クラウ。私たちに聞かせられない話?」


「ちょっとね」


 フレアと二人であからさまに膨れっ面を向けてみる。クラウは僅かに委縮したように肩を竦めると、笑顔で席に戻ってきた。使い魔たちは、何故か小さな笑い声を上げる。


「今日も仲睦まじい様子で」


「そーか?」


 何が仲睦まじいのか分からない。アレクの返答に同意するかのように、首を傾げてしまった。

 夕餉は楽しく、確実に終わりへと向かう。料理も残すところケーキのみとなった。切り分けられ、私の前に鎮座する二段の生クリームと林檎のケーキは、僅かに傾いている。


「この林檎……」


 恐らく、エメラルドの城下町で出会った、あの女の子がプレゼントしてくれた林檎だろう。まるで女の子が首を傾げているようで感慨深い。隣に座るアリアと目が合い、二人で微笑み合った。


「ありがたくいただきましょう」


「うん」


 胸にじんと来る温かさを感じながら、まずはケーキに乗っているウサギの形をした林檎をフォークで掬う。口に入れると、小気味良い音と溢れる果汁が脳を満たしていく。酸味は片隅に、甘さが前面に押し出され、今まで味わったどの林檎よりも美味しく感じられた。人は美味しさと感動を同時に味わうと、言葉を失うらしい。


「美味いな、この林檎」


「うん。甘くてケーキにも合うよ」


 アレクとフレアの会話を聞きながら、黙々と、少量ずつケーキを掬っては口に運んでいく。食べ終わるのが勿体ない。


「ミユ?」


「何~?」


 不思議そうに語尾の上がるクラウの顔を見ることもせず、返事だけをする。


「美味しい?」


「……うん。凄く美味しい。この林檎ね、小さな女の子が私にくれたの。早く元気になってねって」


「そっか」


 少女の笑顔は今でも鮮明に思い出せる。気遣いがこんなにも人を温かくするなんて考えたこともなかった。

 食べ終えたのは、八人の中で私が最後となってしまった。手を合わせ、「ご馳走様でした」といつも以上に強く感謝を伝える。今夜の食事は、この世界の人たちの善意で溢れたものだったのだから。


「あー、満腹だ。動けねぇ」


 腹部を擦るアレクに、私たちの一際大きな笑い声が上がった。

 

「お一人で食べ過ぎですよ」


「アレクだけじゃないよ。あたしもお腹が破裂しそう」


 呆れるロイに、フレアが苦笑いで返す。


「皆さんは休んでいてください。後片付けは私たちでやりますから」


 ロイを筆頭に、使い魔たちは次々と皿を運び出す。それを横目で見ながら、幸せに溢れる吐息をついた。こんなに満足な食事はいつ振りだろう。ううん、もしかすると初めてかもしれない。


「美味しかったぁ」


「この世界と人に感謝だね」


「うん」


 クラウと顔を合わせ、ふふっと笑う。この世界は幸せと優しさで満ちている。その優しさを、どうかいつまでも失わないで欲しい。祈りながら窓の外を見てみる。月は見えない。眩い星々が雪原を照らしている。何度生まれ変わったとしても、ここからの眺めはずっと変わらないのだろう。


「あのさ」


 クラウの呟きに振り向いてみる。その横顔は清々しい笑みで満ちていた。


「俺、この世界の人たちに『感謝状』を書こうと思う」


「感謝状?」


「うん。国民に宛てたね。それで何かが変わるかって聞かれたら、変わらないと思う。でも、俺の気持ちに踏ん切りがつくと思うんだ」


 感謝状なんて、考えたこともなかった。しかし、自分の今の気持ちを表現するには丁度良い。


「私も書いてみようかな、感謝状」


 傷ついた城下町を見て、勝手に塞ぎ込んでしまってごめんなさい。私ではなく、皆さんが一番つらいのに。しかも、私を気遣ってくれた。貴方たちは、私が一番誇るべきものです。大好きです。そんな気持ちを『感謝状』にしたためよう。

 文字の読み書きを練習して良かった。今日以上に文字のありがたさを実感した日はない。


「感謝状なんて、素敵だね」


「あぁ。オレらも書いてみよーぜ」


 頷き合うアレクとフレアに、私たちまでもが笑顔になる。

 その日は夜更けまで、自室で感謝状作りと刺繍に打ち込んだ。非常に充実した一人時間だった。

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