再会Ⅲ
世界中をこの目で見て回れるかもしれない。たった一つのことが、こんなに嬉しいなんて。思わずクラウに飛びついた。
「やった~! ダメ元で言ったのに~」
「ちょっとはアレクのことを見直さなくちゃかな」
本当にそうだ。アレクが一番反対しそうなのに。二人でクスクスと笑い合い、身体を離した。
「今日は四人でやりたいことがあるんだ」
「何~?」
私が首を傾げると、クラウは口角を上げる。
「雪合戦」
数日前の光景が思い返される。膨れたアレクとフレアに、平謝りする私たち――雪の魔法は使わないようにクラウを見張っておかなくては。
「そんなに目を吊り上げなくたって良いじゃん。大丈夫だよ、魔法は使わないから」
心の声が届いてしまったのか、クラウは言いながら苦笑いをする。
「信用するからね?」
「うん」
『大丈夫』と言ってくれたのだ。ここは何も言わずに経過を見守ろう。頷くクラウにそっと微笑んでみせた。
* * *
「今日は朝から運動だからな。タンパク質多めにしてみたぞ」
大量のバケットと鯛のアクアパッツァを目前に、溜め息が漏れそうになる。
「張り切るのは良いけど……これは流石に、ねぇ」
「うん」
呆れ顔のフレアに、クラウも首を縦に振る。朝から一人一匹なんて、バケットを抜きにしても量が多すぎると思うのだ。
「仕方ねぇだろ? これくらいのペースで食わねぇと食材がなくならないんだ」
それはいただいてきた私たちにも責任はある。あるとしても――やはり多すぎる。ふんぞり返るアレクに、今度こそ溜め息を吐いた。
「なんだ? 食材を返しに行くか?」
「それは絶対に駄目~!」
この世界の人たちの好意を仇で返すなんて。絶対に悲しませるだけだ。そんなことは出来ない。鼻息を鳴らし、アクアパッツァにナイフを突き立てた。丁寧に骨からはがし、フォークで口へと運ぶ。ふんわりとした触感と鯛の甘味が口に広がる。
「美味し~……」
自然と零れた言葉に、アレクの目が嬉しそうに細くなった。
「オマエらも食えよ」
アレクはクラウとフレアを声だけではなく、目でも威嚇する。アレクも食事を始めると、会話は消えた。シルバーが食器に小さくぶつかる音だけが部屋に響く。
添えられているブロッコリーは私がいただいてきたものだ。固さが残る程度に茹でられたブロッコリーは、野菜の甘味だけではなく触感も楽しい。フレアがいただいてきたであろうトマトも色鮮やかで甘酸っぱい。
「この鯛は誰がもらってきたの?」
「俺だよ。サファイアは海産物で有名だから」
クラウは弾けんばかりの笑顔で答えてくれた。パンの原料となる小麦はトパーズで育つと聞く。四人の力がこの料理に集約されている。そう思うと感慨深い。美味しい料理が更に美味しく感じられる。
フレアはふふっと笑い声を上げた。
「凄いよね。あたしたちが存在するだけで、こんなに美味しい食材が取れるんだもん」
「うん」
頷き、もう一口、鯛をいただく。
「オレらが魔導師を辞めても、その法則って続くのか?」
「……多分?」
アレクの問いに、クラウが曖昧に答える。そこまで神には聞かなかったのだ。誰も正確には答えられなかった。
「ま、良いか。オレらが長生きすれば良いだけだからな」
アレクは何度か頷くと、豪快にバケットを頬張った。
結局、一人一匹割り当てられた鯛を完食できたのは男性陣だけだった。余った鯛は昼食に回されるのだろうか。行方が心配になりながらも、食器を片付け、白い防寒着を着込む。
「やっぱり慣れないなぁ、この耳当て」
「ふわふわしてて可愛いけどな」
「そう?」
フレアとアレクのやり取りが聞こえてくる。この会話自体が可愛らしいと思うのは私だけだろうか。
「ミユ、帽子もかぶって」
「ん~?」
アレクとフレアの方をぼんやり眺めていると、頭に何かが乗った。触って確認してみると、ニット帽らしい。
「うん、可愛い」
まじまじとクラウに見詰められたので、僅かに頬が熱を持つ。
「おい、クラウ。今度こそ魔法禁止だからな」
「分かってるよ」
アレクは目を吊り上げ、クラウは頬を小さく膨らませる。
「もう叱られたくないだろうし、大丈夫だよ」
「そーか?」
フレアが上手くフォローしてくれたので、私も何度か頷いてみせた。
「んじゃ、決戦の場所に行こーぜ」
アレクはにかっと笑うと、一人先にワープを果たす。
「今度も勝つのは俺たちだよ」
「やってみなくちゃ分からないでしょ?」
クラウに反論すると、フレアも光に包まれて消えてしまった。
「二人とも分かってないよね。俺は子供の頃から雪合戦してきたのにさ。魔法抜きでも俺たちが勝つよ」
「じゃあ、作戦は任せても良い?」
「勿論だよ」
クラウのことだ、意地でも私が雪玉を当てられずに済む方法を考えるだろう。心強い味方だ。
クラウが瞼を閉じたので、私も雪合戦会場を思い浮かべる。瞬時に転移し、頬に冷気を感じた。胸の高さまで程の雪の壁が立ち並ぶ中で、アレクとフレアに目を向ける。
「良し! 先に三回、それぞれに雪玉を当てた方が勝ちな!」
「受けて立つ!」
声高らかに宣言され、雪合戦は始まろうとしていた。この高揚感の中でも、四人の時間が長く続けば良いのにと願ってしまうのだった。




