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【完結・改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第19章 城下町

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城下町Ⅳ

 アリアは大袈裟に溜め息を吐くと、肩を竦める。


「ミユ様があまり良くないことを考えていらっしゃることは分かります。ですが、この贈り物は民の感謝の気持ちの表れなんです。素直に受け取らないと、バチが当たりますよ」


 悪いことは何もしていないのに、バチが当たるのは避けたい。そうだ、この贈り物は、ルイスとの戦いに勝った記念として、私も感謝とともにいただこう。そうすれば、自分を卑下する必要はなくなる。そこで疑問が浮かんだ。


「ねえ、アリア」


「なんですか?」


「影としてじゃなくて、人としてのルイスを知ってる人っていないのかな。あの人がいなくなって、悲しんでる人っていないのかな」


 アリアは目を瞬かせると、神妙な顔つきへと変わった。何も言わずに首を横に振る。


「そういう方もいるのかもしれません。ですが、今はここにいる民に目を向けてください。あの方が起こした地震によって、罪のない民の命も失われているんです。そこは非情になりませんと」


「……うん」


 言い返すことが出来ない。最早、ルイスに固執することも間違っているのだろう。それ以上、言葉を重ねることもはばかれ、深呼吸をして喫茶店のドアを開けた。心地の良い鐘の音が響き、女性店員が顔を覗かせる。


「魔導師様! お待ちしておりました。こちらの一等席におかけください」


 案内されたのは、四人掛けの窓側のテーブルだった。正面の窓からは城下町が一望でき、右手の窓からは城を望むことが出来た。いつも見下ろしてばかりだった城を、こうして見上げることが出来る日が来るとは。感慨深い。

 アリアと向い合せに座り、にこりと微笑む。そこへ店員の手がするりと伸びてきた。


「お冷をこちらに。ケーキの他にも何か召し上がられますか?」


「アイスティーってある? 胸がいっぱいになっちゃった」


「お待ちください」


 店員は笑顔で頭を下げると、そそくさとキッチンの方へ去っていった。


「アリア、今日の夜には私もダイヤに戻らないといけないの。私にして欲しいこと、何かない?」


 アリアは考える素振りも見せず、小さく頷く。


「何?」


「背伸びしなくても良いですし、無理をしなくても良いです。私は貴女に自由に生きてもらえれば、それ以上に嬉しいことはありません」


 自由に――もし、日本へ帰るという選択をするのなら、難しい願いだ。声にならない息を吐くしかなかった。


「ミユ様は、何か私にして欲しいことはありますか?」


「ううん、元気でいてくれれば、それで十分」


「お互い様、ということですね」


 テーブルに置いていた手に、アリアの手が重なる。私が彼女にして欲しいことは、ほとんどしてもらった。思い残すことはない。


「そういえば……」


「どうなさいましたか?」


 窓の傍で小さな音を立てながら時を刻む時計に目が行った。地球と同じ時計だ。それに、ルイスを倒す過程で見つけた長さの単位であるキロも同じ、皆で遊んだトランプだって地球のものと同じだった。


「どうしてこの世界と地球は、同じ時間が流れてて、物の単位まで同じで、同じカードゲームまであるんだろう」


「それは当然といえば当然ですよ」


 アリアは腕を組み、得意げに私を見る。


「神様が同じですから」


「そういうことかぁ」


 成程、言われてみると確かにそうだ。地球の神であるオニキスとオパールは、元はといえばこの世界――スティアの神だったのだから。


「じゃあ、私たちが白い服を着てるのはどうして?」


 私の問いに、アリアは遠くを見遣ると小さく口を開いた。


「オニキス様から聞いたことがあります。魔導師様は光の存在でいてもらいたいと。真の光は白。その光の色を身にまとわせることで、オニキス様たちも安心したかったのだと」


 数週間前に言われた神の言葉が蘇る。


 ――お前たちに色は……闇は必要ないからだ――


 確かにそう言っていた。その真意を今になってようやく聞いた気がする。

 

「お待たせ致しました。アイスティーとフルーツサンドケーキです」


 その声にはっと我に返る。目の前にはグラスと生クリームケーキが置かれていた。グラスは紅茶と氷が揺れ、水滴をまとっている。ケーキに乗せられた苺や葡萄、オレンジも眩しい程に、テーブルに置かれた蝋燭の光を反射している。


「美味しそう……」


「魔導師様にそう言っていただけるだけで、涙が出そうです……」


 言ったそばから、何故か店員は目に涙を浮かべてしまった。私はただ、思ったことを素直に口にしただけなのに。泣かないでと言いたかったけれど、喉が詰まって声が出てくれなかった。

 柱の陰から店員やオーナーがこちらを覗いているのが分かる。やめてとも言えず、気付かないフリをした。


「ミユ様、いただきましょう」


「うん」


 美味しいのは確定しているデザートを前に、両手を合わせる。


「いただきます」


 早速スプーンを手に取り、ケーキの角を掬った。生クリームの中にはオレンジの欠片も見える。思い切って口に運ぶと、フルーツの爽やかな酸味と砂糖の甘味、ミルクのコクが存分に集約されていた。


「美味しすぎるよ~」


 かと言って、高級レストランや城で食べるようなものとは違い、小麦の素朴さも感じられる。私としては、こちらの味の方が馴染み深い。

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