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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第18章 残酷で美しい世界

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残酷で美しい世界Ⅳ

 私の中で計画していた観覧車に乗るためには、ススキノに移動するしかない。寒さを凌ぎながら、まずは大通りを目指そう。駅ビルを地下から抜け、歩行空間へと向かう。

 なんだか、通行人が私たちを見ている気がする。視線をクラウから外すと、通行人の女性と目が合った。


「ん〜……?」


 何故、こんなにも見られているのだろう。クラウの目立つ金の髪のせいだろうかとも思ったけれど、それだけが理由ではないことに気付いた。手にしている、お揃いのぬいぐるみのせいだ。


「どうかした?」


「……視線を感じない?」


「感じるけど……俺は慣れてるから」


 そうだ、この人は異世界に帰れば立派な血筋の持ち主なのだ。魔導師になる以前も、人の視線を気にしていては生活が出来なかっただろう。


「う〜ん……」


 相談する相手を間違えたらしい。いや、これは好機と捉えた方が良いのだろうか。クラウが人目を気にしないのなら、私も気にしなければ良い。

 半ば開き直り、息を吸い込む。ここにこうして二人でいられるのは、今日だけなのだから。楽しまなくては損だ。クラウに笑顔を向け、視線を浴びるままに歩を進めた。


 * * *


 十五分くらいかけて、大通りの地下街へと辿り着いた。少し休憩したいな、と立ち止まり、クラウの顔を見上げてみる。


「休憩しない?」


「うん、良いよ。でも、どこで?」


「カフェ」

 

 確か、北海道に初上陸した有名コーヒーブランドの姉妹店がある筈だ。そこへ行くまでは、もう少し地下街を歩かなくてはいけない。


「地下街を見ながら、ゆっくり行こ〜」


 前方を見据え、意気込んだところだった。地下街の入口にあるテレビに赤文字が写ったのだ。人々が行き交う騒音に紛れて、アナウンサーの声が構内に響く。


「速報です。Y山市で三人が殺傷された事件で、警察は容疑者の男を確保しました。男は誰でも良いから殺したかったと話しており――」


 テレビのモニターは事件現場を映す。血は映っていないけれど、生々しい証言が次々と報道される。


「殺……人……?」


 『事件』という言葉すらない世界の住人であるクラウの顔は、すっかり青ざめている。


「残念だけど、こういう事件はたまに起こるの。多分、スティアもこうなると思う」


 上手く言葉に出来ない。事件が頻発するようになったとして、スティアから負の感情を排除していては、人類が滅亡するかもしれないのだ。また影が現れる。多少の犠牲は仕方ない――ちらりと頭をよぎった考えに、自分でゾッとする。


「……行こう?」


 クラウと手を繋ぎ直し、地下街へと入る。互いに、心に暗い影を落としながら、何も言えずにいた。


 * * *


 無事にとは言えないものの目的地に到着し、混み合った店内へと入る。目を細めてメニューを見ながら、どれにしようかと悩む。抹茶ラテ、シトラスティー、チャイラテ、アールグレイ――メニューが豊富すぎて目移りしてしまう。


「ミユ、あの緑の飲み物は何?」


 クラウの声に、はっと気付く。スティアと日本では文字が違うのだ。彼がメニューを理解出来る筈がなかった。指さすものを確認し、口を開いた。


「抹茶ラテ。苦くて甘い、不思議な飲み物だよ」


「じゃあ、これは?」


「チャイラテ。私も飲んだことないんだ〜」


「うーん、どれにしよう……」


 ここにクラウが苦手な物はない筈だ。揺れる青い瞳に目を移し、にこっと微笑んでみる。


「抹茶ラテがお勧めだよ」


「うーん、じゃあ、それにする」


「私はシトラスティーにしよう。後でちょっとあげるね」


 重大発言だとは気付かずに、何気なく言ってしまった。クラウはほのかに頬をピンクに染める。


「貰ってばっかりは嫌だから、俺もミユにちょっとあげるね」


「うん」


 心温まる会話に、思わず笑みが漏れる。

 列は徐々に捌けていき、会計は速やかに終えられた。グラスが二つ乗ったトレーはクラウに託し、一つだけ空いていた二人がけの席に腰を下ろす。


「今日のこと、アレクとフレアに言ったら羨ましがるんだろうな」


「言っちゃ駄目だよ。オパールに念押しされてるんだから」


「分かってるよ」


 クラウは小さく笑い、抹茶ラテが入ったグラスに口をつけようとした。


「待って! それはストローを使った方が良いから」


「すとろー?」


「うん。細長〜い筒なんだけど、それで飲むの」


 トレーにあったストローを慌てて取り、個装を破る。ストローを自分のグラスに刺すと、一口吸ってみせた。レモンやオレンジの爽やかな酸味と、ほのかな砂糖の甘みが心を穏やかにしていく。


「美味しい〜!」


 系列店は何度も行ったことがあるけれど、姉妹店は私も初めてだ。こちらの物は甘さ控えめで、大人な美味しさがある。

 クラウもストローを刺し、黙々と吸う。グラスの中の飲み物がゆっくりと減っていく。


「なんていうか……不思議な味としか言えないけど、美味しい」


「抹茶ってね? 元の茶葉は紅茶と同じなんだよ」


「えっ!? そんな風には感じないよ」


 クラウはもう一口、抹茶ラテを吸い込む。口を動かして味わうと、ゴクリと飲み込んだ。


「こんな飲み物を思いつくなんて、やっぱり異世界の人は凄いな」


 その言葉が日本という国を肯定してくれたようで、ひどく嬉しくなった。と同時に、私はどう足掻いても、クラウから見ると異世界人として写るのだな、と寂しくなる。

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