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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第17章 禁忌

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禁忌Ⅱ

 トコトコと駆け寄ってくる小さな存在にも気づけなかった。


「わぁ……! 金髪のお兄ちゃんだー!」


 男の子は息を白くし、興味津々な瞳をクラウに向ける。


「お兄ちゃん、どこから来たのー?」


「えっと……いぎりす、だよ」


「それどこー?」


 これには流石にクラウは困ってしまったらしく、瞳で私に助けを求めてきた。


「ヨーロッパだよ。東京とか、大阪よりも、ず〜っと遠いところ」


「そうなんだー」


 クラウは男の子の頭を優しく撫でる。男の子の笑顔が更に弾けた。


「じゃ、またね」


「うん!」


 男の子は満面の笑みで頷き、踵を返す。転びはしないだろうかと心配になってしまう程、元気に駆ける。


「私たちも行こっか〜」


「どこに?」


「ちょっとだけ遠くに」


 行き先を告げたところで、クラウには伝わらないだろう。この街には、あまり長居はしたくない。

 歩きながら、母がくれたものを広げてみる。この質感といえば、お札であろうことは想像がつく。目に映った数字に目を見張る。


「五千円だ」


「えん?」


「うん、お金のことだよ」


 まさか、こんなに貰えるとは思っていなかった。バッグの中をまさぐり、財布を取り出す。中を確認してみると、千円札が五枚、合計一万円――。私にとっては大金だ。


「……良し! 久し振りに遊ぼ〜! 私、制服デートに憧れてたんだ〜」


「ミユ! 箱が走ってる! 何か光ってる! 人がいっぱい!」


 クラウには私の言葉が届いていないようだった。家、コンクリートの道、信号、自動車――この世界の物、全てが新鮮で、物珍しい筈だ。

 クラウの姿に改めて目を向けた。紺のトレンチコート、白いマフラー、ジーパン――すっかりこの世界に馴染んでいる。白い服を着ている彼の姿しか見たことがなかったので、新鮮でときめいてしまう。


「あの走ってる『箱』に当たったら、怪我じゃ済まないからね。飛び出し厳禁だよ」


「分かった」


 あまりにも無邪気な笑顔に、不安が芽生えた。まるで身体だけ大きな子供のようだ。しっかりとクラウの手を握り、住宅街を進む。

 この街には、中学時代のクラスメイトもいる。鉢合わせしなければ良いな、と余計な心配までしてしまう。それが杞憂で終わってくれなかったのだ。

 駅が近づき、観光客の姿も目立ち始める。カメラを手に持った人とすれ違い、外国語も耳に届く。この街は観光地として知られているのだ。人に紛れて駅の建物も見えてきたので、そちらに向かって指さしてみる。


「クラウ、あれが駅だよ」


「えき? 関所みたいなところ?」


「多分、そんな感じ」


 スティアでの関所を見たことがないので、想像でしかない。何度か頷くと、クラウも目を瞬かせて微笑んでくれた。


「これからどんな所が待ってるんだろう」


 ほっと息を吐き出すので、白い靄が出現する。今のクラウの心は、ワクワクとドキドキで出来上がっているのだろう。気持ちは分からなくもない。未知の旅を共有出来ることに、私も喜びを覚えていた。そんな時だった。


「……あっ! 実結じゃん!」


「えっ!? 誰か連れてる! カッコイイー!」


 二人組の女子高生──苦手な中学時代の同級生が駅の方から歩いてきたのだ。あの頃とは制服や髪型は変わっている。しかし、わざとらしい笑顔に、嫌な予感しかしない。作り笑いを浮かべ、小さく手を振った。


「……ミユ?」


「私、あの人たち苦手なの」


 小声で囁く。決してあの人たちには聞こえないように。唇が動いていることすら勘づかれないように。


「やだー! ひょっとして実結、カラコン入れてる?」


「隣のお兄サンとお揃いにしたかったの?」


 自分たちだって、髪を明るい茶色に染めているくせに。何も言い返せない自分に腹が立つ。

 そして、すれ違いざまに言われた一言が胸を突き刺す。


「……生意気」


 一人、歯を食いしばる――。


「許さない」


「えっ? ……クラウ?」


「ミユに謝れ」


 青の瞳はキッと僅か後方にいる二人組を捉えている。彼女らは未だに意地悪な笑みを浮かべていた。


「えっ!? 日本語ペラペラじゃん! こわーい!」


「カッコイイのにざんねーん!」


 騒がしく笑う二人組をよそに、クラウは睨みをきかせ続ける。もう放っておけなかった。


「残念なのは貴女たち! バイバイ! ……クラウ、行こう?」


「えっ? ……うん」


 後方から聞こえる甲高い声を無視し、クラウの手を引っ張った。そのまま駅の中へと駆け込む。


「ミユ、あれで良かったの?」


「……私、今までずっと言い返せたことがなかったの。言われっぱなしで、笑ってやり過ごして。私、ちょっとは強くなれたかな?」


 「えへへ」と笑ってみるものの、胸の奥に冷たい痛みが残っている。涙だって零れそうだ。それなのに、クラウは私の肩をそっと抱いた。


「強いよ。ミユは十分強い。俺が保障する」


 笑顔でそんなことを言うから、堪えていた涙が一粒零れ落ちてしまった。今日という日だけは、涙を流したくなんてなかったのに。

 レトロな硝子ランプが無数に並ぶ天井を見上げた。急いで顔を手で拭い、時刻表と時計に目を落としてみる。時刻は十時に近づいていた。次の列車の発車まで、あと七分しかない。

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