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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第13章 正体

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正体Ⅱ

 となれば、地の神はエメラルドで、水の神はサファイアという名なのだろうか。


「トパーズとガーネットが固いのではない。お前が無責任なのだ」


「そう言うな、サファイア。俺なりに考えてのことだ。と、そう言えば」


「何だ?」


「ミユが闇に当てられたってどういう意味だ?」


 今度はここぞとばかりにオニキスが水の神を睨みつけた。しかし、それで怖気づく神ではない。


「そのままの意味だが?」


「嘘を吐くなと言ってるんだ。なあ、エメラルド」


「我は……魔導師に問われた問いに答えただけだ」


 バツが悪そうに、地の神は首を横に振り、いつもよりも小さな声で答えた。


「魔導師たちに伝えてやってくれ、エメラルド。ミユが倒れた原因は俺じゃない、自分だと」


 遂に地の神はぽろぽろと涙を零し始めたのだ。それは静かに落下し、何も濡らさずに消えていく。


「ここまで来ては、我はもう隠し通せぬ。来世は魔導師たちも記憶を失ってるだろうから、来世の心配はいらぬ」


「エメラルド!」


「本当のことはミユが知っている。他の三人が気づいてないだけだ。クラウの闇を払う方法は、寿命を多少縮めると言っただろう? その反動で倒れただけだ。オニキスは関係ない」


「えっ……!?」


 神に向いていた視線が私に集中する。驚愕とも、怒りとも取れる目つきで。

 私はずっと黙ったままでいるつもりだった。知られたくはなかった。だって、知られてしまえば、みんなは私を止めようとするだろう。そうなれば、クラウの影化を止められない。一生嘘を吐き続けようと思っていたのに。何を言われるか分からない恐怖に、ドレスを握り締める。どうか、そんな目を向けないで欲しい。


「ミユ! オマエなんで言わな――」


「アレクは黙ってて!」


 握り拳を使って捲し立てるアレクをクラウが制す。そのままクラウは私に抱きついてきた。


「ミユ、どうしてそんなこと……」


「私、クラウを助けるために必死だった。クラウが影になるくらいなら、私が寿命を縮めた方がずっとマシだって。だって、そうしなかったら、悪夢が正夢になっちゃうかもしれなかったんだもん」


「俺はそんなことなんてして欲しくなかった。寿命を縮めるなんて……」


「でも、他に選択肢なんてなかったの。私が寿命を縮めればクラウが助かるなら。私だって、ホントは寿命を縮めたりなんてしたくなかった……!」


 一筋の涙が頬を流れる。それは嗚咽となり、この空間を振動させる。クラウは私の頭を撫でながら、「ごめんね」と囁くばかりだ。

 一方で、アレクとフレアの方から「チッ!」と舌打ちする音と、すすり泣く声が聞こえてきた。


「もうミユに何か悪知恵を吹き込んだ、なんてことはねぇだろーな」


「ああ、これだけだ」


 神たちの間に溜め息と沈黙が流れる。それを破ったのもまた、オニキスだった。


「それよりお前ら、口調を戻せよ。さっきも言っただろ? 隠し通すのはお前らのエゴだ」


 しかし、トパーズとガーネットは身じろぎすらしない。


「我らは否定した筈だが?」


 きっぱりと言い切り、目を細めてオニキスを牽制する。それもエメラルドとサファイアには届かなかったのだろう。


「……エゴか。そうかもしれないな」


「サファイア!?」


 トパーズとガーネットの悲鳴にも似た叫びが耳につく。


「エメラルドはどう思う?」


「我は……隠し通すべきではないと思う」


「だよな。だったら、もう吐いちまえよ」


 オニキスは勝ち誇ったように口角を上げ、エメラルドとサファイアに視線を送った。胸騒ぎがする。何が語られるというのだろう。

 その隣で、トパーズが羽根をばたつかせ始めた。

 

「待て待て待て……! オマエら、正気か!?」


「トパーズ! 素が出ているぞ!」


 ガーネットとのやり取りに耳を疑う。トパーズの口調が、まるでアレクその人のものだったからだ。アレクの方を見てみると、あんぐりと口を開いている。


「まさか、トパーズから糸口が見えるとはな」


「それでも、我は隠し通すぞ!」


「隠し通せてねぇだろ」


 オニキスは、もはや憐みの目をトパーズに送っている。トパーズがぐっと押し黙ると、ガーネットがその翼でトパーズの背中を撫でた。何故か、その姿がアレクやフレアと重なる。


「私たちは、意地悪でミユに『寿命を縮めろ』って言ったんじゃないの。私が本来の姿で、毎日クラウの所に行けてたら良かったんだけど、そんなこと出来る訳ないから」


「俺がエメラルドを止めたんだよ。魔導師たちに、俺たちの本来の姿を見せるべきじゃない。毎日人間界に降り立つなんて、それこそ危険過ぎるし」


「自分を守りたかっただけだろ? それがお前らのエゴだったんだ」


 オニキスはエメラルドとサファイアの弁明を一刀両断する。少し待って欲しい。トパーズだけではない。エメラルドは私の口調に似ているし、サファイアの口調もクラウそっくりだ。


「あたしも白状しておくね。ごめんなさい」


 遂に、ガーネットまでもがフレアとの繋がりを見せる。何が起きているのか理解出来ない。理解したくない。私たち四人が何も言えずにいると、オニキスはゆっくりと私たちの方へと向き直った。


「お前ら、本当のことを知りたくないか? 己の存在意義を」


 知りたくない筈がない。でも、怖くて聞けない。自分たちがとんでもない存在なような気がしてしまう。

 それでもクラウは小さく口を開く。


「今でも信じられないし、信じたくもない。だって、似てるのは口調だけで、姿はまるで違うしさ。でも、信じざるを得ないのかもしれない。『デュ』の名の意味、それは……」


 一呼吸置き、クラウは神たちを見据える。


「『神』だ」


 クラウの言葉に、神たちは目を伏せる。かくいう私の頭の中は大混乱してしまった。私たちが神だとでも言うのだろうか。目の前に、こんなにも大きな本物の神がいるというのに。

 そういえば、レンが言っていた。『紛い物にはもう用はない』と。それは私たちを指していたのだろうか。神の紛い物──そんな存在が本当にいるのだろうか。


「……オレらが神な訳ねーだろ! こんなに姿が違ぇのに、信じられるか!」


 アレクは己の困惑している心をさらけ出す。フレアも何も言わないけれど、揺れる目がその内心を物語っている。ただ、クラウだけはなお、強い眼差しで神を見詰める。

 オニキスは再び神を見上げ、得意げな笑顔を作った。


「アレクの言い分はもっともだ。話し辛いし、お前ら、元の姿に戻ったらどうだ? 見上げすぎて、首も痛くなってきたしな」


 首を捻り、肩を回すオニキスの態度に、神からどよめきが起きた。


「何を言うんだ!? オニキス!」


「ここで元の姿に戻ったら、肯定してるのと同じだよ!」


「でもなぁ、ガーネット。そう言ってる時点で肯定したようなもんだぞ?」


 ガーネットは「えっ!?」と声を上げ、深々と俯く。余程ショックだったのだろう。隣にいるトパーズが慰めようと翼でガーネットの身体を撫でる。


「もう、隠し通せないよ。でしょ? 皆」


 エメラルドの言葉が決定打となったようだ。覚悟したのか、神たちは互いに頷くと、瞼を閉じて赤、青、黄、緑、それぞれの色の光を発し始める。その光の奥に立つ神々が、人の姿へと変わっていく。背格好が私たちにどこか似ている気がして、鳥肌が立った。場の空気も変わる。温かく、柔らかな――まるで両親の胸の中にいるような感覚だ。圧倒されつつも、懐かしい感情に自分で驚いてしまった。

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