夜会Ⅱ
その目に答えるように、一人の女王が片手を上げながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「はいはーい! 私から自己紹介しても良い?」
歳は二十代前半くらいだろうか。金のボブヘアには銀のティアラが乗っており、濃いグレーの瞳は爛々と輝いている。黄色で膝丈のふわふわと舞うドレスが彼女の仕草に良く合う。
「私はマグ・ロワ・トパーズだよ。よろしくね」
明るい声で紹介を終えると、ウインクまでしてみせる。それが気になったのか、隣にいるレンはマグを見て溜め息を吐いた。
次は自分の番だと言わんばかりにオズが咳ばらいをする。
「私はオズ・ロワ・エメラルド。魔導師諸君、よろしく」
言いながら、私たち魔導師に握手を求めた。応じたのは良いのだけれど、何故か私とフレアだけ握手の時間が長かった気がする。
握手も終わって、一呼吸置く。場が静まった頃合いを見て、もう一人の女王が口を開く。
「あたくしはリラ・ロワ・サファイア。どうぞよろしく」
女性と言っても十代後半、私と同じくらいの歳だろう。銀色のウェーブがかかった長髪に、切れ長のアイスブルーの瞳だ。私たちの中で一番豪華な衣装をまとっている。青色の上質なドレスには、びっしりと刺繍が施され、マグと同じようにティアラを被った姿からは王位の気品が漂う。ただ、他の王様と違って笑顔がない。まるで『氷の女王』だ。
間を置き、次の言葉がレンから発っせられる。
「さあ、おれたちの自己紹介は終わった。次はきみたちだ」
笑顔で私たちの自己紹介を急かす。
レンの呼びかけに応じ、私たちも笑みを取り繕った。アレクを除いて。
「オレはアレクだ。アレク・デュ・トパーズ」
以前のマグへの謁見が、尾を引いているのかもしれない。ひりついた空気がそこには残った。フレアは小さく溜め息を吐く。
「そんなに冷たくしなくても良いでしょ? あたしはフレア・デュ・ガーネット。よろしくね」
「俺はクラウ・デュ・サファイアだよ。よろしく」
フレアとクラウの笑顔のお陰で、部屋の温度感はだいぶ戻ってくれた。最後に私の番だ。七人の視線が私に集中する。
「私はミユです。ミユ・デュ・エメラルド。よろしくお願いします」
緊張のせいで声が震えていただろう。堪らず視線を落とす。
レンの盛大な笑い声が部屋の空気を震わせる。
「さあ、食事といこうか。リラ、頼む」
「はい」
レンから何かを託されたリラは、両手を広げ、瞼を閉じる。部屋の奥に置かれたテーブルは、まるで魔法がかかったように音もなくこちらへと吸い寄せられた。テーブルの上にはテリーヌやロールキャベツ、オリーブのピクルスといった前菜が置かれているようだ。
王たちが横並びに腰かけるので、私たちもそれにならった。左からアレク、フレア、私、クラウ。向かいにはマグ、レン、オズ、リラといった具合だ。呼吸を落ち着かせると、私とクラウはそっと手を合わせる。
「いただきます」
オズたち王には、きょとんとした表情を向けられてしまった。
「それは……儀式か何かか?」
「食事にありつけることへの感謝の気持ちだよ」
「ほう……」
クラウの返答に、レンは目を細めて顎に手を添えた。一方で、フォークとナイフを持ちながら、マグは目をキラキラと輝かせる。
「そっか、ミユって異世界から来たんだよね? 私、すっごく気になるんだけど!」
「あたくしも聞いてみたいです」
リラは表情は変えず、淡白な印象を与える。その中には、もしかすると底知れぬ探求心があるのかもしれない。
そういえば、地球のことなんて魔導師の三人にも話していないだろう。フレアに僅かな興味が目のきらめきとして現れていた。
「地球の話……」
「『チキュウ』というのか。ぜひ頼む」
レンもそれ相応の興味を持っているようで、口元は上がっている。
どこから何を話せば良いのだろう。オズに地球の話をせがまれた時を思い出し、同じように話をしてみる。
「地球は百とか百五十とか多くの国があって、私はそのうちの小さな島国に生まれました」
地球の国の多さに、王様のみならず、クラウやアレク、フレアも目を丸くする。マグなんて、「まあ!」と大声を上げる始末だ。その反応を気にすることなく、話を続ける。
「魔法の代わりに、技術が人々を支えてます。人を乗せる鉄の塊が凄いスピードで走ったり、空を飛んだり。訓練を受けた限られた人は、宇宙にまで行っています」
言葉を区切る前に、どよめきが起きた。その中でも、クラウの叫びが一際大きい。
「空!? 宇宙!?」
「うん。異世界では普通のことなんだ〜」
『普通』という言葉に、全員が目を丸くする。驚いて声も出ない。そんな様子だ。
「でも、その恩恵を受けられない貧しい人たちもいます。戦争をしている国も絶えません。運良く、私が住んでいた国は戦争を放棄していて、物質的には豊かです。あと……」
日本の特徴は何かあっただろうか。上目遣いで知識を掘り下げていく。
「住む所には困らないし、誰でも病院に行けます。教育だって、義務の一つです。でも……」
俯き、「はぁ……」と小さく息を吐き出してしまう。
「心は貧しいのかもしれません。事件は後を絶ちませんから」
言い終わると、沈黙が部屋を支配した。みな、一様に浮かない顔をしている。アレクが何かを呟きかけたけれど、声にはなっていなかったようだった。この何とも言えない空気の中、これ以上何を話して良いのか分からない。
しかし、これで終わらせてはいけないというのは分かる。何とか繋げなくては。
「確かに、先進国ほど心は貧しいのかもしれません。でも、物質的に貧しい国に援助したり、国境の垣根は段々低くなっています。他人を思いやる心は忘れてないんじゃないでしょうか」
「魔法がなくとも、人々は健全に生きていけると?」
「私はそう思います。じゃないと、ここまで文明は発達していませんから」
魔導師三人の心にも何かが残ったのだろう。目は穏やかだし、アレクは小さく頷いてもいる。
レンは顎を撫でながら「ほう……」と呟く。
「そうか。それは参考になった」
不敵な笑みで私を見た。それが胸をざわつかせる。まるで、一個人として私の言葉を汲み取ったのではなく、誰かを支配する手段を得たような、そんな表情だ。クラウとアレク、そしてフレアの様子を見てみると、私と同じように怪訝そうな顔をしていた。




