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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第10章 もつれる足

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もつれる足Ⅱ

 フレアが窓を閉めたのだろう。丁度、椅子に腰かける彼女と目が合った。


「ミユ、あと六日だけ頑張ろう」


 フレアは真面目な顔をして、胸の前で拳を作る。

 六日間も、くたくたになるまで踊り続ければいけないのだろうか。気が遠くなってくる。頭を抱えながら、大きな溜め息を吐いてしまった。


「絶対、王様に文句を言ってやるんだから~」


 顔をしかめて、悪態をつく。ここでふと、疑問に思った。


「この世界の人って、こんなに優雅なダンスをしてるのが一般的なの?」


 夜会をして、豪勢な食事をして、盛り上がって。そんな日常なら、みんな楽しいのだろう。しかし、クラウとフレアは揃って首を横に振る。


「一般庶民に広がってるのは、ストリートダンスだよ」


「うん、ガーネットもそう」


 ということは、この二人は――ううん、アレクも入れて、この三人は庶民出身ではないということだろうか。聞いてみたい気持ちはある。しかし、心の奥底にいる私ではない『誰か』が、聞いてはいけないと警笛を鳴らす。今はみんな魔導師で、過去の称号は捨て去ったのだから、と。

 私の中で騒ぎ立てているのは誰なのだろう。もしや、『デュ』に繋がる誰かなのだろうか。


「ミユ?」


 考えを巡らせている途中で、クラウが首を傾げる。思考の糸がぷつりと途切れてしまった。


「う~ん、二人が庶民じゃないのだけは分かった」


 多分、以前目にした『貴族』という階級の人なのだろう。そう思うと、私の手には届かない遠い人たちのように感じてしまう。なんとなく、クラウとフレアの顔がぼやけて見えた。


「ミユ!」


 気づいた時には、テーブルに額をぶつけていた。痛みが伝わるより先に、血の気が引いていく。毎日、身体に負担をかけていたことがバレてしまう。


「闇に当てられて倒れたばっかりだし、やっぱり無理はさせられないよ」


「そうだね……」


 クラウとフレアは顔を見合わせた後、視線を落とす。どうやら寿命を削っていることには感づかれていないようだ。


「駄目だよ、王様に負けたくないんでしょ? 私、頑張るから」


「そんな状態で言われても、説得力ないよ」


 クラウはゆっくりと首を振る。先程までは、私の意見を聞いてくれない二人に腹を立てていたのに。今は勝気な自分が顔を覗かせている。


「今度、倒れでもしたら、夜会は延期してもらうからね。ダンスの仕上がりより、ミユの身体の方が心配だよ」


 フレアまでもが、口を真一文字に結ぶ。不調は確かに感じているので、良い言い訳が出来ない。

 肩を落としていると、アレクが料理を持って戻ってきてくれた。


「またしんみりしてんのか?」


「しんみりじゃなくて、心配してたの」


 やんわりと否定するフレアに、アレクは眉をひそめる。


「なんかあったのか?」


「ミユが倒れそうになった」


 クラウが顔をしかめた瞬間、アレクは乱暴に料理をテーブルの上に置いた。食器のぶつかる乱雑な音が響き、デミグラスソースの香りが鼻をくすぐる。

 

「大丈夫なのか?」


 黄色の瞳は私をくまなく眺める。


「みんな、心配し過ぎなんだよ~。私は大丈夫だから」


「おでこ赤くなってんぞ。ぶつけたか?」


「ちょっと」


 頭を掻きながら苦笑いしてみせると、アレクは目を吊り上げた。


「魔導石に傷なんか入ってねぇよな!? 良く見せろ!」


 魔導石とは、私たちの額についている石のことだ。魔法の源になる石だったような――アリアが説明してくれたような気がするけれど、うろ覚えだ。アレクだけではなく、隣にいるクラウまでもが私の顔を見詰めるので、ほんのりと頬が熱を持つ。


「大丈夫みてぇだな」


「ってか、魔導石に傷なんか入ってたら、ミユが無事じゃないよ」


「まぁ、そうなんだけどよー」


 クラウとアレクは安堵の息を漏らす。

 少し大袈裟ではないだろうか。魔導石が割れてしまったとしても、ただの人間に戻るだけなのに。


「ミユ、気づいてないみたいだから、教えてあげる」


 キョトンとしていると、フレアが震える声を絞り出した。


「魔導石が割れたりしたら、あたしたちはタダではいられない」


「普通の人間には戻れないの?」


「うん。魔導師じゃなくなる時……それは、あたしたちが命を落とす時だけ。もう、後戻りは出来ないよ」


「えっ……」


 瞬時に背筋が凍りついた。額に手を当て、無意識に魔導石を擦ってみる。まるで自分の心臓を触っているかのような、そんな感覚だった。


「魔導石ってダイヤモンドよりも固いらしいからさ、割れるような心配はないんだけどね。アレクもフレアも脅かしすぎだよ」


「心配して損はねぇからな」


「そうそう」


 三人の反応に、安堵の吐息が漏れる。要するに、杞憂だったという訳だ。


「ミユ、明日はダンスの練習休むか?」


「ううん、王様の挑戦状に負けたくないもん」


 夜会への招待状を『挑戦状』と言ってしまうあたり、クラウやフレアの影響が色濃いのだろう。自分で客観的に分析しながら、アレクに首を振ってみせる。


「でも、次に倒れたらダンスの練習は中止だからな」


 アレクはまるでフレアと同じようなことを言う。そういう所は相思相愛というか、以心伝心なのだろうな、と思う。


「精力をしっかりつけるんだぞ。ハンバーグにして良かったな」


 アレクは私を見た後、テーブルに目を遣った。ハンバーグが乗った鉄板が熱いからか、湯気は立ち上っている。焦げる前に食べてしまおう。アレクが席に着いたのを確認し、そっと手を合わせる。


「いただきます」


 私はみんなに大切にされている。こんな幸せ者は他にいない。だから、倒れる訳にもいかない。足手まといにはなりたくない。

 仲間がいる有難さと痛みを噛み締めながら、静かに食事をするのだった。

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