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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第7章 廃墟の塔

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廃墟の塔Ⅳ

 しっかりと瞼を開けると、間近にはぼろぼろと涙を零すクラウの姿があった。その両隣には、アレクとフレアもいる。


「良かった……」


 先程まで見ていたものが夢で、本当に良かった。しかし、クラウは大きく首を横に振る。


「何も良くないよ……!」


 「どうして?」と口を開きかけてやめた。クラウはともかく、アレクとフレアの表情も暗く落ち込んでいたのだから。フレアは目を合わせようとはせず、小さく口を開く。


「あたしたち、まさかミユが闇に当てられるなんて思わなくて。ホントにごめんなさい」


「闇に当てられる?」


「あぁ。オマエが倒れたのはそのせいらしい。フレアが火の神に聞きに行ってくれた」


 その闇が原因で、悪夢を見たのだろうか。そう考えたところで、嫌な予感がちらついた。

 私が倒れた原因は、本当は別の所にあって、神が嘘を吐いているのでは。寿命を縮めて、クラウを闇から救っているからでは――。

 憶測で言っても仕方がない。今は身体を休めることに集中しよう。嫌な考えを強制的に遮断する。


「ごめん。ホントにごめん」


 クラウは私の頭を撫でていた手を、そっと頬へと移動させる。その温もりが心地良くて、それ以上は何も言えなかった。


 次の日、四人揃って会議室に到着したところで、使い魔たちに土下座をされた時には、どうしようかと困り果てた。私が倒れたのは使い魔のせいではないのに。そうは思うのに、私の予想を話す勇気はなかった。隣にいるクラウに心配をかけたくはないし、罪悪感も抱いて欲しくはなかったのだ。


「大丈夫だよ。こうしてピンピンしてるし」


 胸の前で拳を作ってみせても、使い魔たちは揃って首を横に振る。


「魔導師様を危険に晒すなんて、使い魔にあるまじき行為です。どうか、罰してください」


 私を一心に見詰めるカイルの瞳を思うと、そのままうやむやにしてしまう方が残酷に感じてしまう。そうだ、あれなら一番私たちのためになるだろうと、命令ではなく願いとして提案してみることにした。


「じゃあ、この屋敷をピカピカにして?」


「えっ?」


「私たちじゃ掃除出来る範囲も限られてくるし、お願い」


「そんなことでよろしいんですか?」


 ぽかんと口を開けるカイルに、アリアはそっと微笑む。


「今すぐに掃除してまいります。ね、カイル」


「う、うん……」


「ロイとサラも。ほら」


 アリアは空気を読み、自ら立ち上がった。そして、他の三人も立ち上がらせる。その足で、トコトコと私の方へ近寄ってきた。


「ありがとうございます」


 アリアは一言だけ囁くと、カイルとロイ、サラの方へと戻っていった。揃って私たちに頭を下げ、足早に廊下へと消えていく。


「ミユ、あれで良かったのか?」


「うん。あれが一番良いの」


 アレクに微笑んでみせると、彼も目を細めてくれた。

 誰からともなくいつもの席に座り、用意されていたクロワッサンとメロンパンを頬張る。飲み物が紅茶だったことも好印象だ。


「で、早速なんだけどよー」


 食事の合間に、アレクは私を見る。


「オニキスから何を聞いた?」


「やっぱり、『デュ』の意味は教えて貰えなかったの。でも」


 真剣な表情のクラウ、アレク、フレアへと視線を移し、話を続ける。


「使い魔がどうして生まれたのかは教えてもらえたよ。私も信じられないんだけど……」


 フレアが生唾を飲み込んだのが見えた。


「王様が魔導師の暗殺を計画してて、それを阻むために送り込まれた存在みたいなの」


「王が……魔導師の暗殺?」


 クラウが呟いたのを合図に、三人は考え込む。


「そんなの、聞いたことある?」


「いや、ねぇな。実際にそんなことがあったんなら、歴史書にも残ってる筈じゃねーか?」


「歴史書よりも古い歴史なのかも。何より神様の話だもん。ホントの出来事ってするならね」


 フレアが結論を出すと、クラウとアレクも頷いた。


「でもね、もっとビックリしたことがあるの」


「何?」


 クラウが小首を傾げるので、私も首を縦に振ってみせる。


「王様は、魔導師の守護者だったんだって。魔導師は神様にとって、それだけ大事な存在だからって」


「神が……か?」


「うん」


「大事にしてるヤツに、簡単に『死ね』なんて、普通は言えねぇけどな」


 忌々しいものを語るかのように、アレクは言葉を投げ捨てた。それにフレアが頷いて賛同を示す。現に、私も寿命を削っているのだ。大事にされているとは言えないのかもしれない。

 重たい沈黙が部屋を制する。そこへ一石を投じられた時には、十数分が経過していたように思う。


「俺たちは『魔導師に留まる器でもない』って。あの戦いの時、あいつ……ルイスが言ってたんだ」


 クラウは淡々とではあるけれど、私たちの心に届くように過去を語る。


「ルイスってーと、『影』の生まれ変わりだな」


「うん。その言葉と、オニキスの言葉を合わせて考えてみて欲しい。そこに俺たちの名前である『デュ』の謎も絡めたら、もっと分からなくなる」


 アレクとフレアが目を伏せるので、私も思考を巡らせてみる。神にとって、私たちは王よりも大事な存在である。そして、魔導師に留まる器でもない。この二つを踏まえると、私たちがとんでもない存在のように思えてくる。更に『デュ』の謎を含めると、コンパスを失った地図のように、ますます答えから遠ざかっていく。


「俺たちって……何者?」


 クラウの自分自身の存在への疑問は、雫が落ちた時の水紋のように、静かに、しかし確実に広がっていくのだった。

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