使い魔Ⅱ
「私、てっきりスティアの神様だとばっかり……」
「あぁ、オレもだ」
私とアレクが話をしていると、クラウとフレアもうんうんと頷く。
「神様じゃないんだとしたら、他に誰がいると思う?」
まだ情報が少なすぎる。聞いたとしても、答えは返ってこないだろう。そう思っていたのだけれど。
「……まさか、オパール?」
クラウが小さく呟いたのだ。
「オパールってーと、異世界の神だったか?」
「うん。スティアの神様の仲間だったって言ってた」
クラウの返事に、フレアが首を傾げる。
「ってことは、オパールも元はスティアの神様だったってこと?」
「それは……」
クラウは「うーん……」と唸り声を上げて考え込み始めてしまった。
「ホントにオパールだと思うか?」
「そんなの分からないよ」
アレクとフレアも疑心暗鬼になってしまったのだろう。
そうこうしている間に、使い魔たちの話し合いが終わったらしい。四人とも真剣な面持ちでこちらに来て、床に膝を着いた。
「正直に申し上げます」
アリアの凛とした声が会議室に響く。
「口止めをなさっているのはオニキス様なのです」
「オニキス?」
その名を聞いた瞬間、室温が僅かに下がったような気がした。
オニキスという名に、全く心当たりがない。ただ、嘘を吐いていないことは使い魔たちのまっすぐな瞳から感じ取れた。
「オニキスって誰?」
「それは……」
ここまで言っておきながら、アリアは口ごもる。はっきり言ってしまえば良いのにと思っていると、クラウが「あっ!」と声を上げた。
「俺、オパールと話した時に、その名前聞いたよ」
『オパールと話した』という言葉に、使い魔たちは驚いたように顔を上げる。
「クラウ様、オパール様にお会いになったのですか!?」
「うーん、そんなとこかな。それで、オニキスっていうのはオパールと仲間だったってことくらいしか、俺は知らない」
「他にはオパール様と何を話したんですか? どんな話をされていましたか?」
「質問してるのはオマエらじゃねぇ! オレらだ!」
アレクが痺れを切らしたのだろう。ピシャリと言って退けると、使い魔たちは「申し訳ありません」と言いながら項垂れる。アレクは気まずさを払うように「あー……」と漏らし、小さく咳払いをした。
「で、そのオニキスってヤツが、何でオマエら使い魔に口止めしてんだ?」
「魔導師様の根幹に関わる重要事項だからだそうで」
そんなことまで言われては、好奇心を刺激されない筈がない。前のめりになり、口を開いていた。
「根幹に関わることって?」
「ですから、私たちの口からは、そのようなことはお伝え出来ないんです。命令されたとしても、それだけは無理なんです」
「……使い魔って何?」
会話の合間を縫い、クラウがぼそりと呟いた。
「俺たちに仕えてる筈だよね? でも、それは仮の姿で、本来の主はオニキスってこと?」
クラウは「うーん」と深く唸る。私までもが思考の渦に捕らわれていく。オニキスに口止めされているから、私たち魔導師には伝えられない。私たちが命令をしたとしても、それは覆らない。ということは、私たちの上にオニキスという存在があるということになる。
「使い魔は……何者?」
追い打ちをかけるかのように、クラウは質問を重ねる。
「私たちは、私たちは……」
口ごもるアリアの瞳は大きく揺れていた。
「はっきり言ったらどう?」
今まで黙っていたフレアも、流石に苛立ちを隠せない様子だ。声に棘がある。
使い魔も覚悟を決めたのだろう。ぐっと拳を握り締め、信じてと訴えかけるように私たちを見詰める。最初に切り出したのはロイだった。
「私たちは……オニキス様に創られた者、なのです」
「ただ一言、『魔導師を守護しろ』とだけ命令されました」
続けてカイルが説明を加える。
「オニキスは何者だ」
「元はこの世界であるスティアの神様で、今は異世界である地球の神様をなさっています」
「そいつも鳥なのか?」
「鳥……?」
使い魔たちはきょとんとした表情でアレクを見る。
「魔導師様たちの中で、そうなっているのかも」
「話を合わせよう」
カイルとロイの密話は、こちらまで筒抜けだ。アレクは眉をしかめ、拳を握る。
「鳥じゃねぇってことだな」
しまったと言わんばかりにカイルは口に手を当て、ロイは天を仰ぎ見る。
「……まぁ、これ以上は詮索しねぇ。その異世界の神であるオニキスが、何でオレらを守ろうとした?」
「……何かよからぬ事態を察知したらしいです。詳細は私たちからお伝えするよりも、オニキス様が説明される方が的を得ているかと」
「どーやってオニキスに会えってんだ」
「それは……」
使い魔たちは口ごもる。その中でロイだけが私をじっと見詰めていた。
「何?」と聞こうとしたのだけれど、それよりもロイが口を開く方が早かった。
「ミユ様なら……異世界にもスティアにも関わっていらっしゃる。もしかしたら」
「へっ?」
確かに、私は地球で生まれ、今はスティアで生きている。それは否定しようがない。
「でも、私、どうやってオニキスに──」
「一つだけ方法があります」
私の言葉を遮ったのはカイルだった。




