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【改訂版】呪いを解いた代償は、恋人の心でした~神に反旗を翻します~【第二部】  作者: 七宮叶歌
第4章 謁見

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謁見Ⅱ

 料理が出揃ったためか、オズはテーブルを見て何度か頷いた。


「さあ、召し上がってくれ。いつも食べている味だとは思うが、ここまで豪華な食事はそんなに出ないのではないか?」


 まるで、私の作法――ううん、ここに来る覚悟を試しているかのような口ぶりだ。テーブルマナーはアリアに叩き込まれた。失敗などしないだろう。

 大丈夫、落ち着けば出来る筈だよ。そうクラウが言ってくれているところを想像し、自分を奮起させる。


「いただきます」


 言いながら、両手を合わせた。オズはきょとんとした表情をしたけれど、これは日本の作法だ。通させてもらおう。

 ナイフとフォークを手に取り、前菜のロールキャベツに切れ込みを入れる。私の動きを確認したのか、オズもナイフに手を伸ばした。食事の合間に、言葉を交わし合う。


「これを『愚かな行い』と呼ぶかどうかは分からないが」


 オズは「うーむ」と唸り、再び口を開いた。


「この国……いや、この世界に争いや戦争が起きないのは何故か、考えたことはあるか?」


 急に言われても、すぐには回答出来ない。日本も戦争が長い間なかったし、平和ボケをしていたのかもしれない。

 唯一、答えられたのはこれだけだった。


「この世界の人々が、平和を愛しているから、じゃないですか?」


 オズは首を横に振る。


「それもあるかもしれないが、我々王にはある役目がある。それは……」


 私から視線を外し、一呼吸置く。それも一瞬のことで、すぐに瞳は私の目を捉えた。


「民の負の感情……国や他人に対する怒りや不満、それらを排除し、この星の中心へと押しやることだ。そうすることで、平和を維持している」


「星の中心に押しやられた負の感情が溜まりに溜まって、『影』を誕生させた……」


 まるで、闇が意思を持っているかのように集まり、圧縮され、形を成した。そういうことなのだろうか。


「そう考えるのが妥当だろう」


 衝撃の事実に言葉を失う。ルイスがこの世界を憎むのは当然だったのだ。いらないものとして誕生してしまったのだから。


「じゃあ、その行為を止めることは出来ないんですか? これ以上続けても、余計に危険が増すだけです!」


「いや、それは無理だ。下手をすれば、我々王族の立場が危うくなってしまう。勿論、ミユたち魔導師もただでは済まないだろう」


「そんな……」


 これ以上、どうすることも出来ないのだろうか。クラウの影化を止められないのだろうか。あの優しい笑顔が闇に沈むなんて考えられない。考えたくもない。ずっと彼の「大丈夫」という言葉に癒されていたい。それだけなのに。

 がくりと肩を落とし、俯くしかなかった。


「申し訳ない。力になれなくて」


「いえ……」


 オズが悪い訳ではない。こういった世界形成にしてしまった最初の人物が悪いのだ。そう、自分に言い聞かせる。


「ミユがここへ来たと言うことは、他の魔導師たちも王の元へ行ったのか?」


「はい、風の魔導師が」


「そうか。他の王の返答も、あまり期待しない方が良い。我々一人一人が答えられる問題ではないからな。それよりも」


 何かを閃いたのだろうか。オズは、はっと顔を上げて私を見詰めた。


「私たちよりも創造主に話を聞いた方が良いかもしれない。ミユたち魔導師になら出来るだろう?」


「もう行ってきたんです。水の神様には拒絶されただけで、処遇は待て、と」


「そうか……」


 名案が尽きたと言わんばかりに、オズは首を横に振る。


「オズ陛下は、神様には会えないんですか?」


「陛下呼びは止めてくれないか? 居心地が悪いからな」


 何故、居心地が悪いのだろう。国民には陛下呼びをされている筈なのに。疑問に思いながらも、口にはしなかった。


「すみません。それで、神様には?」

 

「ああ。残念ながら会えはしないのだ」


 同等の権力を持っている筈の王が、私たちとは違って神には会えない。一体、何故――。

 考え込んでいると、オズの温和な表情はしかめっ面に変わった。


「ミユたちは忘れてしまったのか? 『デュ』の名を持つ意味を」


「『デュ』の名を持つ意味? ただ、魔導師を表す称号なんじゃないですか?」


 私の質問に、オズは首を横に振る。


「代々、王位継承者にだけ、口頭で伝えられているが……知らないのか。ミユたちはそんなことまで忘れてしまったのか?」


 魔導師を表す称号――それ以外に何の意味があると言うのだろう。首を傾げてみたところで、答えは浮かんでこない。


「済まない。混乱させてしまったようだね。君たち魔導師が思い出すべきことだから、私は口出しできないが……私たちが神とは会えない理由はそこにある」


 デュの名があるからこそ、神に会える。そう捉えて良いのだろうか。ただの称号ではない何かがあると思っても良いのだろうか。オズの瞳は私の心を窺っているようでもある。彼は一呼吸置き、口を開く。

 

「そうだ。ミユが住んでいた異世界の話でも聞かせてもらえないか?」


 何事もなかったように、オズは話を進める。待って欲しい。私には分からないことだらけなのだ。それなのに、話題が移ってしまうなんて。流してしまっても良い話題なのだろうか。頭の中は混乱したままなのだけれど、問い質してみた所で期待通りの答えは返ってこないだろう。

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