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僕の休日

僕は寝起きがいい。

僕は天才だから良質な睡眠をとるコツを心得ている。

多少トラブルがあっても寝て起きたらスッキリだ。


僕は昨晩の女神の件を思い出さないようにするのに必死だった。

日課の新聞を読み、コーヒーをすする。

紅茶党の僕だったが朝だけはコーヒーを飲む。

においがいい。


朝はコーヒーだけだ。

朝食を摂ることが望ましいのはわかっている。

しかし僕の体は朝からモリモリ食べることを受けつけない。

だからといって昼にモリモリ食べれるかと言ったらそうでもない。

僕は好き嫌いが多く、偏食だ。

栄養が足りないのでサプリに頼っている。

製薬会社に働きながら、まったくの不健康な食生活をしている。

別にどうでもいいんだ。

長生きがしたいと思っているわけでもない。

好きなことをして好きなものを食べ、早く死ぬなら別にそれでいい。


────


クロから『揃った』と連絡が来た。

昨日の大臣はどうやら、とある法案を通すことで某組織を優遇したようだった。


僕はその証拠をすべて使って面白おかしく動画を作った。

子供がみてもわかるように難しい言葉を使わないようにした。

10分程度の動画が出来上がった。


僕はまず闇サイトでそれをばら撒いた。

それからみんなが見られるように動画サイトにアップした。

反響はすごく、SNSでURLが飛び交った。

すぐにアカウントごと削除された。

クロはその様子を監視していた。

誰が誰に削除依頼をしたのか元を突き止めた。

クロはその情報もSNSで流した。

保存済みの動画とクロの情報を結びつけて動画を出すネット民が現れた。

まるでお祭り騒ぎだった。


僕はそれを紅茶を飲みながら眺めた。

クロは満足したようで『少し休む』と連絡をしてきた。

きっと楽しくて徹夜をしたりしたのだろう。

僕だってあの事件さえなければ楽しく情報収集をしたのに。


うっかり女神のことを思い出してしまう。

テレビではもうニュースになっていた。

またここぞとばかりに大臣を責めるようなコメントを出す政治家があとをたたなかった。

放っておけば大臣は捕まるだろう。

そしてまた似たようなやつがあとを引き継ぐ。

裏の取引もそのまま引き継がれていくんだろう。

僕も引き続き監視することにした。

定期的に動画を作ってやろう。

シリーズ化したら人気が出るかもしれない。


────


クロが休むといったので、僕も休むことにした。

時間ができると僕は手のこんだ料理を作る。

今日はなんだかカレーの気分だった。

高級なスーパーに行くと普段はお目にかかれない珍しいスパイスも置いている。

僕は天才的なスパイスの調合で美味しいカレーを作ろうとしている。


天才にかかればカレーなんて簡単なものだ。

全ては化学式に起こせる。

料理とは化学変化であり、つまりは天才は料理も得意だということだ。

配合と温度変化、水分量の管理、全ては計算によって支配できる。


野菜から出る水分や旨味成分、肉から出る脂などスパイスと絡み合って素晴らしいカレーになるはずだ。

調理開始から2時間後、やっとそれは出来上がった。

なんともいいにおいがする。

手作りの焼き立てナンにつけて口に入れた。


それは、美味しくなかった。


インドの何千年という歴史は天才よりもすごいということだろう。

僕は負けを認めた。


そしてストックしていたレトルトのカレーを僕の作った何かにぶち込んだ。

遥かに美味しくなった。

日本の企業の努力の結晶であるこのレトルトカレーは僕の多少失敗したカレーをも生き返らせてくれた。

ありがとう、先人よ。


そして僕はそれをレンジでチンしたご飯にかけて食べた。

やはり日本人はこれですな。

僕は天才だから頭が柔らかい。

多少の失敗はすぐにカバーできるのさ。


────


製薬会社は土日が休みである。

なんなら祝日も休みである。

研究職はそうも言ってられないようで交代で出勤もあるのだが、本日僕は休みである。


休みだからといってジムに通ったり、公園に散歩しに行ったりはしない。

人目につかないようにひっそりと家でダラダラする。

別に出かけるのがめんどくさいわけじゃないんだからね。


たまには何も考えずにボーッとする時間も必要だろう。

僕の部屋はマンションの1階だ。

だから角度によっては外を歩いている人が見える。


子連れの母親が知り合いに会ったようで立ち話をしていた。

子供はその場に座り込みアリでも観察しているのだろうか、地面をいじっている。

小さいのに勉強熱心だと感心していると、ふらーっと現れた二人乗りのバイクの奴らに子供が連れて行かれた。

母親は気がついていない。


僕はそれに驚いてベランダに出るとその母親に怒鳴った。

「おい!子供が連れて行かれたぞ!」

母親は驚いて辺りをキョロキョロしている。

話をしていたもう一人も気がつかなかったようだ。

「どうしよう!!」

母親はパニック状態だった。

僕はすぐに彼女たちの元へ行った。


「こっちからバイクが来て、子供を抱えてあっちへ走って行った。」

僕が説明すると母親はそっちの方へ走って行こうとした。

「そんなことよりまず警察に電話したほうがいいのでは?」

泣きじゃくる母親となだめる友達。

僕はスマホを渡された。

僕に通報すれということか。


何度も通報したことがあるが、普通のスマホから普通に警察に電話するのは初めてだった。

「あの、家の前で子供が連れ去られたのですが。」

僕がそう言うと警察は詳しく聞いてきた。

僕はただの目撃者で、関係ないと言っても聞いてくれなかった。

「すぐにパトカーが来るみたいです。」

僕はスマホを母親の友達に返した。

「ありがとうございます…」

母親は顔面蒼白で地面に座り込んでいた。

「では、僕はこれで。」

そう言って立ち去ろうとしたのだが、母親の友人に腕を掴まれた。

「お願いです。一緒に説明してください!」


僕は警察に関わりたくなかった。

僕は誘拐どころじゃない、もっと凶悪なことをした犯罪者だ。

逮捕されたら100回死刑をくらっても文句は言えない立場だ。

しかし僕は泣きすがる女性たちを放ってはおけなかった。


────


5分くらいしてパトカーがやって来た。

僕たちは別々に事情聴取させられた。

僕はベランダを指差して、「ボーッと外をながめてたら事件が起きた」と説明した。

そして警察は家に入りたいと言ったのだ。

あの凶悪な犯罪を犯したあの家の中に入りたいと。


しかし僕は天才だ。

急に踏み込まれてもボロは出ない。

「すいません、昨日カレーだったもので。」

僕はカレーのにおいの充満する家に警察官を招いた。

キッチンにあるカウンターを指差し、その椅子に座っていましたと教えた。

警察官は「失礼します」と言って椅子に座って見ている。

「確かに丸見えですね。」

カウンターチェアじゃなければ見えなかっただろう。

僕は何よりも「丸見え」という言葉が衝撃的だった。

こちらから見えるということは向こうからも見えるということだ。

普段、外を眺めたりなんかしないから気がつかなかった。

僕がここでコーヒーや紅茶を優雅に飲んでいる姿は外から丸見えだったのだ。


警察官は椅子からの眺めを写真に撮った。

「ご協力ありがとうございました。外でもう少しお話伺ってよろしいですか?」

丁寧な対応だったので、僕は笑顔で協力することにした。


パトカーも警察官の数も増えていた。

母親と友達はパトカーに乗せられてどこかへ行ってしまった。

僕は見たことをまた説明させられた。

どんなバイクでしたか?と聞かれ、僕は返答に困った。

僕はバイクの種類も、なんならナンバーも覚えている。

しかしここでそれを発表していいものか?

いや、あの子供を無事に取り戻すには必要な情報だろう。

だがしかし、ここで僕が天才だとバレるのはよろしくない。

僕の頭は一瞬で考えをまとめ、

「赤と白のバイクで…多分、ボディにこんなマークがついてたような。ナンバーも特徴的で、品川っていう文字と1024っていう数字だったと思います。2の10乗だから覚えています。」

と、答えた。

隠しきれない天才の片鱗がなんとも言えず僕らしい。

警察官は「数学がお好きなんですね」と、にこやかに手帳に情報をメモっていた。

好きな数字なら見て覚えていても不審には思われまい。


すぐに僕は解放された。

警察官は付近に防犯カメラがないかを調べていた。

もちろん僕のベランダには外向きに防犯カメラがついていたのだが、警察官はみつけることができなかったようだ。


メジャーで何かの長さを図ったり、何か落ちていないかと地面を調べたりしていた。

僕は気にしていない雰囲気を出しつつ、窓からその様子を見ていた。


数時間もすると警察たちはいなくなった。

ここでの現場検証が終わったのだろう。

すると程なくしてチャイムが鳴った。

さっきの警察官がまたやって来たのだ。


僕は何かやらかしたのかと内心焦っていた。

警察官は「ここではちょっと」と言うので中に入れざるをえなかった。


玄関の中に入り、ドアを閉めると警察官は笑顔でこう言った。

「日置さんのおかげで犯人逮捕ができました。お子さんも無事でした。ご協力本当にありがとうございました。」

犯人は子供の父親とその恋人だった。

離婚の末、親権を奪われた父親が強行突破して子供を連れ去ったのだという。

ナンバーとバイクの特徴からすぐに犯人がわかり、家に行くと子供が泣いていたのだという。


僕は「安心しました。わざわざ報告ありがとうございました。」と言って頭を下げた。

警察官は丁寧に礼をして去って行った。


鍵をかけて僕は深呼吸をした。

僕が凶悪犯であることも、天才であることもバレなかった。

別に心配していたわけじゃないけどね。


僕はカーテンを閉めて紅茶をいれた。


丸見えはよくない。


────

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