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第四の目標

なぜ世の中の人は明らかに怪しい詐欺に引っかかってしまうのか?

僕は謎でしかなかった。


世の中にはいろんな詐欺がある。

弱み、罪悪感、欲望、寂しさ、詐欺師はありとあらゆる感情を揺さぶり、お金を巻き上げる。

多少おかしいと思っても警察に相談するのは怖いと思うのだろうか。

自分が間違っていたらと思ってしまうからなのか。


僕は犯罪者だ。

法律を破り、他人に実害を及ぼしている。

それは自覚しているし、逮捕されることがあればおとなしく従おうとは思っている。

僕は天才だから逮捕されないと思っているが、警察に僕と同じくらいの天才がいたら僕はすぐにみつかってしまうだろう。

それはそれでいい。

僕は未来のことなんて考えない。

明日死んでしまったとしても、別にどうでもいい。


僕がいなくなっても世界は何も変わらない。

そんなことわかっている。

わかって入るのだが、僕は世界を救いたい。

滅亡の道を歩んでいる地球を救いたい。


不可能であることも承知だ。

だからなんだというのだ。

僕は僕がしたいことをする。

ただそれだけなんだ。


────


僕は闇サイトに潜った。

ここでは表には出せないいろんな情報が交差している。

その中には詐欺師が捨て駒を探していることがある。

僕はそんな募集を片っ端から受けた。

相手がこちらに連絡してきた瞬間に、僕は相手の情報を盗む。

正体を隠して連絡してくるが、そんなの関係ない。

僕は連絡してきた相手を特定する。

そして逆に脅すんだ。


警察に通報されたくなかったら金を払え、と。

頭の悪いやつは僕が出す自分の個人情報にビビって金を出してくる。

金を出せるということはどこかで稼いだということだ。

僕はさらにそいつの情報を探る。

そして誰からいくら取ったのかを調べる。

たいていは全額戻ってくることはないが、僕は被害者にお金を戻す。

そしてもう二度と詐欺ができないように、社会的に抹殺する。

僕は顔写真や名前や生年月日などをネットにアップする。

その情報はすぐに拡散される。

詐欺の手口も巧妙なものが多いが、新しいものがあればそれもすぐに公表する。


狙われる高齢者たちがそれを見てくれるとは思っていない。

高齢者を取り囲む人たちが気にしてあげればいいだけのことだ。

しかし今は他人に無関心だ。

隣のおばあさんが見知らぬ男に金を渡していても、声をかけたりしない。

そんな人たちばかりだ。


だから詐欺はなくならない。

騙される人がいる限り、騙す人はいなくならない。

弱肉強食を僕は悪いとは思わないが、どうせなら強いものを倒すほうが好きだ。

そして何よりも、簡単だからと言って弱いものを標的にする精神が嫌いだ。


────


一般人を相手に詐欺をしている奴らはトップの者以外はバカばっかりだった。

中には自分がどの立ち位置で何をしているのかもわからずに犯罪に加担しているものもいた。

簡単に稼げると甘い言葉で集められ、逃げられないように個人情報を抜かれ、結局捕まるのは末端のバカである。


トップにいる者はそこそこ知恵があるらしく、自分が捕まらずに稼ぐ方法を考える。

下の者に自分の詳細を伏せて、記録に残らないように連絡を取り合う。

僕に言わせれば見えないようでも記録は残っているものだ。


僕は下から順に追い詰めてトップの者たちを狩り尽くした。

捕まるのも上の者たちだけでいいだろう。

僕は情報を警察にリークした。


全国各地で詐欺グループの摘発が始まった。

警察の中にもできるできないがあるらしく、せっかくの情報を無駄にする警察も現れた。


僕は何かおかしいと思い、その警察も調べた。

そこで発覚したのが警察と犯罪者の癒着だった。


警察のそこそこの役職の人が、自分の部下を巻き込んで暴力団関係者や半グレと呼ばれる人たちから金をもらっていたのだ。

その地域はその組織が見えないところで管理していて、商売をするのにバックマージンをその組織に払っているようだった。

払わないと嫌がらせを受けて、閉店に追い込まれることもあるらしい。


平和そうなショッピングモールにもその力は及んでいるようで、建設の前段階の土地の買収から関わっていた。


つまり大企業から小売まで、そして警察も絡み合うビジネススタイルだった。

僕は少し感心した。

よくできたシステムだと。

一見誰も損をしていないように見える。


しかし僕は許さなかった。

クロは面白がり、『深いところまで探ってみる』と言った。

僕たちは時間をかけて何がどこまで繋がっているかを調べた。


────


僕はいつものように仕事を終えて、いつものように帰ってきた。

裏の仕事がどんなに忙しくて楽しくても、本来の仕事の手は抜かない。

今は血圧を下げる薬の開発中だ。

食文化や運動不足など、現代の人は昔よりも生活習慣病というのに罹りやすいようだ。

便利になるのと比例してそういう病気も増えている。

健康志向だと騒いでいるのは余裕のある一部の人間だけで、わかってはいるけど気にしていないという人が大多数いる。


そんな薬の開発よりも食生活の大事さとか、適度な運動の必要性とかを教えるほうが人間にとっては有用であると僕は思うのだが。

製薬会社にとってはそんなことどうでもいい。

訴えられなくて、たくさん売れて、利益が出る薬がほしい。

きれい事を並べて偉そうな感じを出しているけれど、つまりはそういうことである。

新薬の開発には莫大な資金がかかる。

それを回収できるかどうかは死活問題である。

上層部は早く結果を出せとしか言わない。


でもまあ、僕は今の仕事が楽しい。

研究やデータ集めは僕の性分に向いている。

という感じで僕は人から見える分のライフスタイルを変えない。

目立たずに忍者のように生活をしている。


しかしそれは突然やってくる。

まさに災害のようなものだ。


目の前に女神がいるではないか。


僕は動揺を隠せずにカバンを落としてしまった。

女神はこちらを向いて変な顔をしている。

僕は急いでカバンを拾い、玄関へと向かった。

女神は笑顔で「こんばんは」と挨拶をしてくれた。

僕は挨拶は返すのが妥当だと考え、「こんばんは」と言った。

しかし僕の声はいったいどこから出てきたというのか、裏返りおかしなイントネーションを奏でた。

女神がクスッと笑ったように見えた。


僕はすぐに鍵を開けられずにガチャガチャとやってしまった。

このドアはどうなっているんだ?

なぜ鍵はまっすぐに入っていかないのだ?


やはり彼女は僕を狙う刺客なのか?!


僕の頭がフル回転して女神について考えている間に仕事を終えた女神はいなくなっていた。


僕は玄関で膝をつき、心を落ち着かせた。

あれはただの宅配業者の人であり、僕の大好きな女神とは別人である。

ここには仕事で来ているだけで、僕には一切関係がない。

僕は深呼吸をしながら自分に言い聞かせた。


────


2度目の遭遇で僕にはいくらか耐性がついていたのかもしれない。

シャワーを浴びれば僕の心は平常心を取り戻していた。

僕はネット注文を控え、彼女に会わないように心がけていたというのに。

彼女にここの仕事をさせたのはどいつだろう。


僕は宅配業者をハッキングしようとしていた。


落ち着くんだ。

そんなことをして何になるというのだ。

僕以外の住人にだってネットで買い物をするくらいの権利はあるだろう。


僕は熱い紅茶をいれた。

そして心を落ち着かせるお香を焚いた。

立ち昇る一筋の煙を見ていると心が落ち着く。


僕はしばし目を瞑り、無心になった。

静かで、いいにおいがする。


────


女神が現れたことで僕の時間が2時間ほど無駄になった。

パソコンを立ち上げるとクロから連絡がきていた。

『でかいのが釣れそうだ』と書かれ、ファイルが添付されていた。

そこにはこの国の大臣と某組織のリーダーが楽しそうにお酒を酌み交わしている姿だった。

写真には続きがあり、大臣は分厚い封筒を受け取っている。

中身を引き出して確認する大臣の姿もあった。

ズームするとそれは一万円札の束が3つ見える。

それをカバンにしまうところまで写真にはおさめられていた。


明らかに金を受け取っている。

この写真だけでも一発アウトになりかねないが、僕たちは金を受け取った理由まで調べることにした。


クロは面白がり、1日くれと言った。

僕も調べようとパソコンに向かったのだが、なんだかそわそわして集中できなかった。


女神は強い。


僕は諦めて今日は早く寝ることにした。

夢の中で宅配業者の制服を着た女神が空をふわふわと飛んでいた。

僕はそれをただ眺め、僕もいつか空を飛びたいな。と思っていた。


────



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