第三の目標
僕は政治には全く興味がない。
誰が政治家になろうと、世界はそんなに変わらないことを知っているからだ。
日本はお金がないと言いながら、無駄遣いをやめない。
本気で日本を良くしたいと思う人に政治家になって欲しいならば、政治家の給料を日本人の平均年収にするべきだ。
金が欲しいだけのバカたちはきっと他の職業を探すだろう。
なぜ政治家はあんなに偉そうなのか僕にはわからない。
医療関係者の方がすごいし、偉いと思う。
医者だけではなく、看護師や介護士、病院で掃除をしている人までみんな偉いと思う。
人ができないことや、やりたくないことを生業にしている人のことは本当に尊敬する。
だからバカな政治家を見ると腹が立つ。
もちろん国のために、人のためにと働いてくれている政治家も大勢いる。
しかし自分の得を1番に考える奴が多すぎる。
選挙のときにはペコペコしていたくせに、当選した途端にふんぞり返って偉そうにするやつが多すぎる。
僕はそんな政治家たちを次のターゲットにした。
第三の目標は政治家だ。
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政治家と言っても衆議院議員から参議院議員、市議や町議などその数は思っていたよりも多かった。
僕はいつもの監視BOTを使って怪しい行動をしている人を探した。
一般の人のSNSに投稿された書き込みも細かくチェックさせた。
秘書たちによる料亭の予約やホテルの予約まで監視すると色々わかってきた。
誰と誰が繋がり、どう金が動いているのかが見えてくるのだ。
公共のものの工事や建設に関わる業者など大きなものから小さなものまでたくさん出てきた。
僕は粘り強く裏を取り、リストアップしていった。
そして言い逃れできないくらいの証拠を固められたものから世間に公開していった。
政治家たちは慌てて次は自分かもと証拠を消そうとしてきた。
僕はその動きも見逃さなかった。
それも含めてどんどん公開していった。
党の偉い人はそんな人たちを見捨てた。
「こんなことが許されるわけがない!」などと吠えだした。
小さな党の人たちはここぞとばかりにその問題を大きく取り上げた。
政界は大混乱だった。
各都道府県でも市議たちが僕に悪事を晒されて窮地に陥った。
辞職勧告がいたるところで起きた。
泣きながら謝罪して辞めるものもいれば、シラを切り通そうとする者もいた。
僕は呆れながらそれを見守った。
国民たちはこんな人たちを当選させたのは我々国民であることを思い知っただろう。
そして、いかに無知で関心がなかったかを思い知っただろう。
僕もそうだった。
選挙にはしばらく行っていない。
誰に入れても同じだろうと思っていたからだ。
そこは僕も反省しないといけないだろう。
次の選挙ではまともな人が出てくることを願うしかない。
僕は不正がなくなるまで政治家たちを監視すると宣言した。
警察は僕を逮捕しようと頑張っていたが、天才の僕が捕まるわけがない。
悪いことをしているやつは怯えて過ごせばいいんだ。
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政治家たちは罵りあうことをやめなかった。
国の政治は僕のせいで滞ってしまった。
それこそ税金の無駄遣いだろう。
しかしそれを指摘する人はいなかった。
みんな自分を優位に立たせようと足元を掬い合っている。
みんな溺れてしまえばいいのに。
その中で一生懸命国を考えている人もいた。
目立たなかったがちゃんと存在していた。
僕はそんな人たちもリストアップして公開した。
「最悪の中、頑張っている人もいる」と書いておいた。
世間はそういう話も好きだ。
すぐに食いついた。
その人たちは発言力を持ち、立て直そうと頑張ってくれた。
このまま調子に乗らずにいてくれるといいんだけどね。
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ニュースは毎日のように政治家の不正を報道した。
僕が何かをしなくても告発してくれる人がたくさん出てきたのだ。
悪いことだとわかっていても声を上げられなかった人の多さに僕は悲しくなった。
そして僕は匿名で権力者を告発できる仕組みを構築した。
もちろん嫌がらせで嘘の告発をするような輩も出てくるだろう。
そういう奴も僕は許す気はない。
AIにリークされたことの裏を取るように学習させた。
時間的に無理だとか、場所的に存在できないだとか、明らかに嘘だと思われるものは弾き、嘘をついた人をリストにして実名を公開した。
本当の告発も多く寄せられた。
政治家だけではなく、企業の重役たちや、学校の先生の名前も上がった。
僕はかなりの時間をその裏取りに費やした。
決定的な証拠をつかむまでは公にはしなかった。
一人でやるには大変な作業だった。
そんなときに匿名で僕の手伝いをしたいと言う人からメッセージが届いた。
普段ならBOTが不要とみなして僕にまで届かないところだが、そのメッセージはそれらを掻い潜り僕に届いた。
僕はそれが誰なのかを調べようとした。
しかしこの天才の僕にも不可能があった。
僕はその事実に驚愕し、その人に興味がわいた。
そして僕は返事をした。
君の信念はどこにある?と質問をしたのだった。
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返事はすぐに返ってこなかった。
僕はいたずらだったのかと少し残念に思った。
3日経って僕が忘れかけた頃、やっと返事が返ってきた。
『信念なんてない。私は私がその時やりたいと思うことをしたいだけ。』
と書いてあった。
僕は驚いた。
きっと僕も同じような返答をしただろうから。
僕は今やってることを説明した。
その人が信用に足らない人ならば、悪者じゃない人が世に晒される可能性がある。
しかしなぜだろうか、僕はその人を信用してしまった。
一緒にやりたいと思ったら手伝ってくれと頼んだのだ。
その人はクロと名乗った。
だから僕はシロと名乗った。
クロはとても優秀だった。
告発された案件はまたたく間に処理された。
こうして僕には謎の協力者ができた。
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クロについては何も知らなかった。
調べてもわからなかったというのが本音だ。
向こうも僕のことについては何も知らないだろう。
僕たちは共用のスペースを持った。
処理すべき案件を共有して好きなときに解決するようになった。
脅威の情報収集力としてネットニュースになった。
僕たちの正体を暴こうとする人たちが出てきた。
しかし僕は天才だから、正体が暴かれるようなことはない。
それはクロも同じだ。
僕はこれが第三の目標だったことを話した。
そして次のターゲットについて話すようになった。
クロは『世界が滅亡しても構わない』と言った。
なんて狂った人なんだ、と思ったけれど、僕もそう思っていることに気がついた。
似ている仲間を得て、普通なら喜ぶところだろうか。
僕は少し不安になった。
僕とクロが本気になったら本当にやばいことになるのではないかと。
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世の中の権力者と呼ばれる人たちはおとなしくなった。
世間の目は前に比べるとかなり厳しくなった。
僕が監視しなくてもいいくらいだった。
これで少しは変わるだろう。
今まで無関心だった国民が、不正に敏感になったのだ。
クロは『そんなことにはすぐに飽きるさ』と言っていた。
確かにそうかもしれない。
それでも無関心だった人が少しでも変だなって感じてくれたことには意味があったと思う。
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そして僕とクロが次のターゲットに選んだのは詐欺師だった。
弱い人を騙して何かを奪うなんて許せない。
僕たちは作戦を立てた。
クロとの共同戦線は意外なことに楽しかった。
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