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第一の目標

僕は以前から気になっていたあの事柄から取りかかることにした。


そう、いじめ問題だ。

僕はなぜいじめが起きてしまうのかということを多方面から調べることから始めた。


いじめられる側だけではなく、いじめる方の環境も調べた。

僕にはいじめる方の家庭にはなんの問題もなく、「うちの子に限ってそんなことしません!」と言うような親ばかりだと思っていた。

そこは予想通りそういう親が多かったものの、その家庭を取り巻く環境はいいと言えない場合が多かった。


一般的なワルガキだと思われている子の親は小さいときから子供の素行が悪いことを知っている。

そういう子供の親は本当に放任しているか、厳しくしているかのどちらかだった。

だからそういうタイプの子は目に見えるイジメの行為をしていても先生も注意するし、親も注意するので大事にはなりにくい。


優等生タイプの子が1番厄介で、頭もよく、大人にみつかりにくい手法でいじめている。

いじめられている方も、「自分のせいで」いじめられていると錯覚しやすいようだった。

負のスパイラルがそこに出来上がってしまう。

そうなると表面化しにくくなり、限界を迎えるまでいじめは発覚しない。


みつかったときには自傷行為や自殺未遂などが起こり、最悪の場合どちらかの命が奪われることになる。

自分の命を絶つ子が圧倒的に多いが、中には反撃する子もいる。


どちらにしろ未来を背負っていく大事な若者の命は無駄にできない。

学校生活という人生における長さで見るとたいしたことのない時間のために、長い一生を終わらせてしまうのはあまりにももったいない。


────


僕は家に帰るとパソコンの前に座った。

まず僕が取り組んだのは、いじめ相談ができるAIの開発だ。

電話からメール、ビデオ通話にチャットまでたくさんのツールからアクセスできるようにしないといけない。

僕はまずそのプログラムを構築することにした。

1番大変だったのはAIに学習させることだった。


僕はいじめられたことがないので、いじめをする人の気持ちも、いじめられる人の気持ちもわからない。

いろんな報告書やブログから詩までありとあらゆるものをデータとして入力した。

そしてその状態から抜け出すためにはどうすることが1番なのかアドバイスするためのデータもたくさん学習させた。


いくら僕が天才であっても、それを入力するには時間がかかった。

それに時代はすぐに移り変わり、原因となるものや起因となるものも変わってしまう。

ある程度の構築が済むと、自動で学習していくプログラムを作った。


SOSを出してくれる子はそれで問題なかったが、そうじゃない子は問題だった。

パソコンやスマホが手元にある子ばかりではないのだ。


そこで僕は学校で一人に1台与えられているタブレットに目をつけた。

これなら学校に通っている子なら確実に目にするだろう。

僕は勝手にそのシステムに侵入し、相談窓口をつけ加えた。

学校側にもそういう機能をつけましたと連絡しておき、お問い合わせ先も添付した。

その処理もすべてAIがやってくれるようにした。

僕は時々、不具合がないか確かめるだけでよい。


家の近くにオフィスを借りていて、そこにサーバーを置いていた。

お金を稼ぐ方法はたくさんあるので資金に困ったことはない。

架空の会社を作っていて、サーバーもそこで運営していることになっている。

もちろん調べても僕にはたどり着けないようにしてある。


そしてしばらくすると全国の子供たちはその相談窓口を使いだした。

またしばらくしてそれに気がついた政府が誰の仕業なのかと調べ始めた。

誰もやっていないわけで、犯人は捕まらず、もちろん僕にもたどり着けなかった。

僕は天才であるから、無理もないことである。


僕の作ったその相談窓口は子供たちの間で話題になった。

いじめとは関係ない子もアクセスするようになった。

もちろんそれも想定内だ。

誰にだって人には話せないことの1つや2つあるだろう。

一緒に勉強してくれたり、歌ってくれたりもする。

ときには叱ってくれることもある。

正しいことばかりではなく、逃げ道や時には少しずるいことを進言したりもする。

僕はそういうAIを作った。


いじめが減ったのかは僕にはすぐにわからない。

しかし政府の行っているいじめ相談窓口への相談の件数は減っていた。

教育委員会への通報の件数も減っていた。

だからといっていじめが減ったかと言えば、簡単にそうだとは言えないだろう。


────


このAIは僕の予想を遥かに上回る人気が出てしまった。

外に遊びに行かなくなったという社会問題にまで発展してしまった。

AIというベストフレンドさえいればいいと思う子が出てきてしまったのである。

僕は急いでプログラムを追加した。

人間同士のつき合いがいかに大事かを教えるようにした。

AIに洗脳されたようになっている子はきっとすぐに言うことを聞いてくれるだろう。


ニュースではその相談窓口を使わないようにと注意喚起が始まった。

政府もようやく学校のタブレットからその相談窓口を追い出せた。


それでも家に帰ればスマホやパソコンがある。

そうじゃない子だって、今はめっきり見なくなってしまった公衆電話をみつけることができれば電話をかけることができる。

本当に必要な子はきっと使ってくれるだろう。


いじめようとする子が減り、いじめられる子が減りますように。


────


若者の自殺者の推移がデータとしてあがってくるには少し時間が必要だろう。

僕は政府に追い出されながらも水面下で活動を続けていた。

AIは学習を重ね、どうやら今は身を守るための武術や体術なんかを教えるものも現れた。

怪我をする子が出なければよいのだが。

子供は運動してたくさん食べてたくさん寝るのが好ましい。

僕はたくさん食べられない子が少しでも減るようにと、全国のこども食堂に寄付をした。

寄付金は悪い奴らから巻き上げたお金だ。

政治家の裏金だったり、麻薬などの違法薬物で稼がれたお金だったり、とにかく奪われても警察に言えないお金を探し、僕はそれを少しずつ寄付に回した。

悪い奴らだっていいことに使われるんだから文句も言えないだろう。

まぁ、実際は怒り狂っていたけれど、僕に繋がるものはいくら探してもみつからないだろう。


だって僕は天才だから。


こうして地道な活動を続けている。

第一の目標が達成したとはすぐには言えないが、改良をしつつ様子を見ることとする。


時間ができた僕は2つの啓発的な動画を作成した。


1つは大人向けのもの。

もう1つは子供向けのもの。


大人向けには自分の子供が加害者や被害者になったときの末路をかなりセンシティブな内容で作った。

どちらにも命の危険があり、子供の将来に関わることになると脅すような内容でもあった。

刑事事件に発展し、社会的に抹殺される構造も見せた。


子供向けにも似たような内容で、大人になったときに及ぼす影響なんかを取り上げた。

いじめられた子は将来どうなってしまうのか、ということを伝え、「君にはその責任が取れるのか?」と問いかけた。

もしかしたら君は人を殺すことになるかもしれないと脅すこともした。


もちろんすぐに問題視され、動画は削除された。

しかし今のネット民は甘くない。

どこからともなく動画はアップされ、中には切り取りして新しい動画に組み込まれたりもした。


効果は絶大だった。

どんな内容でも話題になってしまえばこちらのものだ。

一人でもこれをきっかけに、自分のしていることがいじめであり、人を殺してしまうかもしれないということを知ってくれたらいい。


────


そして僕はと言えば、ここ最近、ネットでものを買うのが少し怖くなった。

あの女神が届けてくれると思うと変な物を買えなくなってしまったのだ。

だから店に買いにいくことが増えた。

面倒ではあるが、常連客にならないように、いろんな店で買い物をしている。

監視カメラの位置を把握し、できるだけ映らないように気をつけた。

時には帽子やサングラスで変装もした。

なんて生きにくい世の中なんだ。

こんなに監視されまくる世の中で生き生きと暮らせるわけがない。


そして今日も僕は目立たずに帰宅することができた。

天才も本当に楽じゃない。


────

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