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坊主に渡された小道具を手に再び神社に訪れるとあの化生がいた。
倒すのは苦労した。死ぬかと思った。だが坊主が教えてくれた不意打ちを試すと、化生は簡単に目を回した。
横たわる百は頭の大きな人間のなりそこないに見えた。体毛が無く、尻尾があり、頭は爬虫類のようであるが目がない。
こいつに甘夏は食われた。だが、食いついた瞬間に百は何かをいっていた。そして、甘夏の頭を元に戻そうとしていた。
もしかしたら、こいつが甘夏を食ったのは事故だったのだろうか。確かにあのとき、甘夏は俺を突き飛ばした。
慈悲というのではない。現にこいつは俺を食おうとしていた。だが、殺すのはさすがに忍びないと思ってしまった。だから俺は、こいつの花を摘むだけに止めようと思った。
だが、よく分からない生き物の体を弄るのは気分の良いことではない。
「いざとなったらこれを飲め」と坊主が言っていた丸薬があった。これを飲むと大凡の花の位置が分かるらしい。
丸薬を飲む。心臓が跳ねる。もしや騙されたのかと思った刹那、視界が変わる。そこには甘夏がいた。跪いて柔らかい手を握り、許しを請うた。泣いて顔を上げられない俺の顔を温かい手のひらで触れて「もういいよ」と言って彼女は俺を抱きしめた。俺はただ嬉しくて、すがるように甘夏の匂いを嗅いだ。最高の気分だった。そして花があった。彼女の両手に乗せられた蓮の花は薄く光を放ち、静かに回転している。そこに手を伸ばそうとするも、重い空気の層が幾重にも重なり行く手を阻む。いつのまにか手にしたナイフで空を切りつつ、ようやく甘夏の手のひらに到達した。
「さあ」と彼女は言った。
俺は蓮の花を摘み上げ、一気に口に頬張った。
想像していたよりも味はしなかった。苦味も甘みもせず、食感は生の玉ねぎに近い。
「悪くない」と言うが早いか、いつの間にか眠っていた。傍らには脇腹を裂かれて横たわる百がいた。傷口からは黄色い体液が流れ、薄桃色の花弁が飛び散っている。
「おい」と言って百の顔を蹴った。顔は横を向き、大きな顎から真っ赤な舌がまろび出た。
俺は逃げた。