表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

6


坊主に渡された小道具を手に再び神社に訪れるとあの化生がいた。


倒すのは苦労した。死ぬかと思った。だが坊主が教えてくれた不意打ちを試すと、化生は簡単に目を回した。


横たわる百は頭の大きな人間のなりそこないに見えた。体毛が無く、尻尾があり、頭は爬虫類のようであるが目がない。


こいつに甘夏は食われた。だが、食いついた瞬間に百は何かをいっていた。そして、甘夏の頭を元に戻そうとしていた。


もしかしたら、こいつが甘夏を食ったのは事故だったのだろうか。確かにあのとき、甘夏は俺を突き飛ばした。


慈悲というのではない。現にこいつは俺を食おうとしていた。だが、殺すのはさすがに忍びないと思ってしまった。だから俺は、こいつの花を摘むだけに止めようと思った。


だが、よく分からない生き物の体を弄るのは気分の良いことではない。


「いざとなったらこれを飲め」と坊主が言っていた丸薬があった。これを飲むと大凡の花の位置が分かるらしい。


丸薬を飲む。心臓が跳ねる。もしや騙されたのかと思った刹那、視界が変わる。そこには甘夏がいた。跪いて柔らかい手を握り、許しを請うた。泣いて顔を上げられない俺の顔を温かい手のひらで触れて「もういいよ」と言って彼女は俺を抱きしめた。俺はただ嬉しくて、すがるように甘夏の匂いを嗅いだ。最高の気分だった。そして花があった。彼女の両手に乗せられた蓮の花は薄く光を放ち、静かに回転している。そこに手を伸ばそうとするも、重い空気の層が幾重にも重なり行く手を阻む。いつのまにか手にしたナイフで空を切りつつ、ようやく甘夏の手のひらに到達した。


「さあ」と彼女は言った。


俺は蓮の花を摘み上げ、一気に口に頬張った。


想像していたよりも味はしなかった。苦味も甘みもせず、食感は生の玉ねぎに近い。


「悪くない」と言うが早いか、いつの間にか眠っていた。傍らには脇腹を裂かれて横たわる百がいた。傷口からは黄色い体液が流れ、薄桃色の花弁が飛び散っている。


「おい」と言って百の顔を蹴った。顔は横を向き、大きな顎から真っ赤な舌がまろび出た。




俺は逃げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ