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河川敷の遊歩道を歩いているときに夕立にあった。幸い近くには大きな橋が架かっていて、コンクリートの地面は乾いていた。


甘夏は犬を連れて立っていた。意思の強そうな大きな瞳と花柄のワンピースが印象的だった。


少し離れて雨宿りをしていたが、甘夏の連れていた犬が終始吠えていて、自然、甘夏は俺に何度も頭を下げた。


「雨に興奮しているんでしょう」


頭を下げられるだけなのも気詰まりでつい声をかけた。


困ったように笑いながらも甘夏は「初めての散歩なので」と言った。


なるほどリードを持つ手もぎこちない。はばかりを入れる袋を持っていないあたりも初心者ならではなのだろう。


躊躇いつつも、犬の前にしゃがみ込み、俺は手懐けにかかる。幼少に飼った犬を思い出しつつ頭を撫でる。時折、小さく吠えるもだいぶ落ち着いた。


「慣れていらっしゃるんですね」と甘夏は言った。




何度も逢瀬を重ねるうちに、甘夏の人となりをすこしずつ把握していった。


常識に疎いこと。意外に大食らいであること。時折、驚くような色使いの服を着ること。いつからか、気がつくと俺の顔をじっとみている時間が増えた。


「そうえいば最近は犬の散歩はしないんだな」


「この前、車にはねられて」


謝罪をすると、甘夏は目を潤ませて「いいの」と言った。


その夜、俺たちは結ばれた。




俺のアパートに訪れて手料理を振る舞う甘夏の姿に未来の記憶を垣間見たような気がして、ついに結婚を切り出した。


甘夏は顔を覆ってキッチンの床に座り込んだ。


慌てて駆け寄り肩を抱いて体を支える。


貧血でも起こしたのかと思い、大丈夫か、と声をかけた。


「嬉しいの」


顔を上げた甘夏は、涙を流しながら笑顔を浮かべている。


「でも、できない」




理由について詳しい説明を受けないまま日々が流れた。


俺の心に不信が芽生えた。本当は誰か他に将来を約束した相手がいるのではないか。あるいは実は結婚しているのではないか。 だが問い詰めるのはおそらく上手くない。きっと甘夏はそのまま姿を消す。そんな気がした。





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