最終話
「どうして」と甘夏はか細い声で訊いた。
宗右衛門は血まみれの手で甘夏を抱きしめ、切子に言った。「たぶん、これで切子に女王の座が譲渡される。さあ、甘夏を取り込んでくれ」
それから甘夏の耳元に囁くように言った。「必ずもう一度復活させる。その時に一緒になろう。誰も犠牲にしない方法で」
「切子さんが女王」と式は呟いた。
「生まれた時にすでに女王の資格があった。だがその時点で私にはそれを制御する力が無かった。だから甘夏を復活させて一度その資格を甘夏に戻す必要があった」切子は言った。「だが今では私には沢山の能力がある。私が女王になれば蠱毒の壺やお百度参りなどの儀式を封印する方法もある」
「だが、成功するとは限らない。だから俺たちは他の世界に行く」と宗右衛門が付け足した。「俺の能力は越境だからな」
切子は甘夏の体に触れ、何事かを呟いた。甘夏の体が切子の臍の辺りに吸い寄せられて消えた。
同時に宗右衛門が両手を広げると、浮いた鏡のようなものが出来上がった。
「達者でな」と言って宗右衛門と切子はその鏡の中へ消えた。鏡自体も空間に溶けるように消えた。
呆然とその様を見送っていた式は、独り言になると知りつつも呟いた。「帰ろう」
世界は特に何の変化もない。明日になったら警察署に行って、保護者が失踪したと言おう。手続きを踏めば何とか今までの生活は保つことは出来るだろう。百という異生物はまだどこかにいるのかもしれないが、差し当たっては生活を考えることの方が重要だ。
家に帰り、夕飯の支度を整え、一人ですませた。風呂にお湯を入れ、体を洗った。肩甲骨の左側に違和感がある。そこだけ皮膚が荒い。かぶれたのかと鏡越しに確認すると、甘夏の背中にあった刺青と同じ物がそこにあった。
呼吸が荒くなる。確か女王が死んだ時には一番近くにいた百がーー、より多くの花を持つ者がその任を引き継ぐと切子が言っていた。
だが、私は人間だ。人間の筈だ。だが、いつから私は自分が人間だと思い込んでいたのだろう。
そういえば、なぜ婆ちゃんはわざわざ人間の子供を拾う必要があるのだ。先代の女王が婆ちゃんを作ったようにーー、初めて村に来た百が、村人を騙す為に女を作ったように、もう一人作ればいいだけのことではないか。
この刺青は次の女王を示しているのではなかろうか。私が蠱毒の壺に召喚されなかったのは、女王の眷属だと認識されたからではなかろうか。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
急いで服を着て玄関に赴くとラフな格好の女性がドアの前に立っていた。
「不用心だよ。鍵が開いていた」
「何か」
「月晴と言います」
「はい」
「あなたが次の女王ね」
絶句していると月晴は不敵に微笑んで言った。
「ずっと神社のそばで見張っていたんだ」月晴は、式の顔に息がかかるほど近くに歩み寄って言った。
「私、退屈しているの」
終わり
夏のホラー2024の企画を目にしたので、過去にアップした作品を再アップさせていただきました。
お祭りのような物なので是非参加させていただきたいと思いました。
全二十四話の中編となります。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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