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4袋 正義の不審者(戦い終えて悲ぴいヒーロー)

マチの気持ちとは裏腹にマッチョンの噂は、全国に広がって行くのだった。

◆あれから、世間は大騒ぎである。

 何せ、フィクションでしか見たことのないヒーロー?が、何処からともなく突然現れたのである。


 彼はフィクションに登場するヒーローとは全く似つかない、ポリバケツをぶら下げ、白い毛糸のふんどしを締めたちょっと変質者っぽい、マッチョ"男?"ではあった。

 しかしそれが、驚くべきことに、彼は誰一人の負傷者を出さずに、10分少々で銀行強盗事件を解決してしまったのである。


 この紛れもない事実には、全幅の称賛を向けて然るべしである。

 少なくても、人質になった行員やお客さん達は、熱い賞賛を送っていた。

 しかし、新聞や、テレビニュース、報道番組での取り扱いは、冷やかだった。


 警察が、マッチョンと事件の関連性を追求する為に行方を探していることを伝えるのみで、事件を解決をしたのは、無意味に高価な銀行の窓ガラスを割った警察と言うことになってしまっている。

 当然と言えば、当然である。特定人物の活躍が報道されなければ、必然的にそう言うことになってしまう。しかも、ワイドショーの中継は遠目で不明瞭であったのだ。


 だが、その報道に対して覆いかぶさる様に、少し遅れて”マッチョンの活躍と言う真実”が口コミや、メール、ネットを通じて、次第に世間に広まっていったのである。


 その結果、巷では大手新聞や地上波信者の人達によるマッチョン不審者説と、オタク達ネット信者によるヒーロー説の論争が繰り広げられるようになっていった。

 

 そんな中、メディアの中でもヒーロー説の後押しをするものが現れてきた。


 それは、話題性が主役の週刊誌である。


 当日、取材で事件に出くわしたローカルのワイドショーは、現地にいたにも関わらず何某かの圧力により不審者扱いであるが、一方週刊誌はここぞとばかりにヒーローとして大衆を盛り立てる。

 最近、芸能界にゴシップネタが無かったので、それには尚更拍車が掛かっていった。


 勿論、結果的に立派なヒーローとしての活躍をしたのである。

 当事者達に、どんな取材を行っても手放しでの称賛こそあれ、否定的な回答は皆無なのだ。


 週刊誌はマッチョンの背中に浮き上がる文字を取り上げ、「正義の超人マッチョン」と言う呼び名で全国に名声は広まっていった。


 次第にマッチョンは、大衆の間でヒーローとしての地位を確立していくのであった。


◆ -時間は遡り、銀行強盗事件のあった翌日-


 事件のあった銀行界隈では、被害者達からの正確な情報により、翌日にはヒーロー出現として、大きな盛り上がりを見せていた。


 勿論、隣町の女子高もご多分に洩れることは無かった・・・。


「ね、ね、ねえ。見た見た!昨日のニュース」

「うん。もち。知ってる。マッチョ男でしょ」

「マッチョンって言ってよ~。マッチョン。ハハ」

「やだ~もう、半裸でさ~」

「でも、一人で、銀行強盗10人もやっつけたんだって」

「まじ、それ。凄げくない?」

「・・・・・・」

 こんな、少し尾ひれが付いた会話が、あちこちで飛び交い大盛り上がりを見せている。


 だが、この渦に敢えて溶け込まない少女がいた。

 彼女からはいつもの有り余った元気は鳴りを潜め、噂話には耳を塞ぎ、ひっそりと誰とも接しないようにしている。


 伊藤真知いとうまち 16歳。高校1年生。通称マッチン。


 しかし、マッチンの元にも”渦”が音を立てて急接近して来てしまった。


「マッチン、ねえ、見た、みた?」

 マチの友達のズキン(友達の瑞希)が、マチが教室に入って来るや否や飛ぶようにやって来た。


 マッチンは”来た~”と思った瞬間、目をそらしていた。

「え、え、な、何のこと?」


 マチには、ズキンが何の話をしようとやって来たかぐらいは百も承知である。

 勿論、昨日の銀行強盗の事件のマッチョンの活躍に決まっている。


 しかし、マチは当然の如く、極力昨日の事には触れられたくはないのである。

 あの恥ずかしい姿を思い出すだけで、月に叫びそうになってしまう。


 触れられたくないマチは、咄嗟に惚けて見せたのある。

 正直なとこら、マチは惚けて見せるより、その話題から逃れる方法が見つからなかった。


「何って、昨日の銀行強盗事件に決まってじゃん。マッチン、丁度その時間頃近くにいたんじゃないかと思ってさ。マッチンは見なかったの?」


「な、何を?」

「何をって、決まってるじゃん。我らのヒーロー、マッチョ男の”マッチョン”だよ、もー」


「あっ、そ、それね。その事件ね。あ~、見た見た、ニュースで見たよ」


 おどおどする上に乗りが悪い。明らかにいつものマチではない。

 いつものマチでれば、自分から食いついてくるはずである。


「どうしたの、マッチン。マッチンの大好きなヒーローの話じゃない。」

 ズキンは、乗りの悪いマチにがっかりしてしまう。


「そ、そんな、そんなことないよ。興奮しているよ。ホント」

 マチは、両手を振って否定するが、表情が慌てているように見える。


「な~んか怪しいな~。何か隠しるでしょう」

 マチの顔を覗き込む。


「あっ、分った」

 マチは、ドキリとそて、背筋が伸びる。

(絶対に分る訳がない。顔だって、鞄だって隠している。自慢の百万ドルの乳首以外は・・・)


「あ~そっかー、マッチンは、自分がヒーローじゃないから嫉妬してるんだー」

「そ、そう。その通り」

 そこで、ベルが鳴りズキンは自分の席に戻っていったので、話が途切れた。


 マチは、作り笑顔を静かに元に戻し、持ち上げたままだった肩を降ろした。


「あほ、ズキンめ、私がマッチョンじゃ・・・。恥ずかしくて、絶対に言えないけど・・・」

 マチは、正体を言えないヒーローの辛さが少し分った気がした。

 理由は全く違うのだが・・・。


 こんな、会話があちこちで飛び交い、否が応にも巻き込まれてしまう。

 この日の学校は、マチに取って一番辛く長い一日となった。


 家に帰ったら帰ったで、ミーハーな母親の付き合いに頭が痛くなる。


 マチは家に帰ると、いつもの様にキッチンに行き、用もなく冷蔵庫を開ける。

 日課だ。


 暇な時は、ついつい冷蔵庫を開けてしまう。

 タバコを吸ったり、飴玉を舐めたりするのと同じ感覚である。


 冷蔵庫を覗きこんでいるマチに専業主婦の母がノリノリで話かけて来た。


「マチ、見て見て。これ、マッチョ男」

 マチの母は、いち早くマッチョンの写真をキッチンの正面に貼っている。


 マチは、

「うわっ」

 と言いかけた声を必至で飲み込もうとしたが、抑えきれず少し仰け反りながら漏らしてしまった。が、”何で!”と叫びそうになった言葉は抑えることが出来た。


 マチは、平静を装って応える。

「そのボケた写真どうしたの?」


「買っちゃった。ハハ!」

 何と、母はマッチョンの写真を欲しいが為に、朝一で、テレビの画像を印刷する装置を買う為に大型電気店に行ったのであった。

 マチは、母の浮かれた口調にイラッとしたが、これまた必死に我慢する。


「見て、この大胸筋。そして、この乳輪から、乳頭にかけての美しさ。マチよりずっと綺麗だわねー」 何て言ってマッチョンに見とれながら洗い物をしている。


(何が、”マチのより奇麗だ”だ!同じじゃ。タコ。同じ人物だよ~あんたの娘じゃ。だいたい、乳首を比べるなら自分の茶色いのと比べれって言うんだ!それに、マッチョ男でなくマッチョンって読べよ~! 天然!)


 と、言いたかったが、ヒーローは身分をばらせない。

 正確には、ばらしたくない。

 マチは、母の後ろに回って”あかんべ”をしてやり、ハイハイ聞いておいた。


 マチは、ふと次の治験は、母親で試そうかと思うのであった。


 それでも、一つだけ分った。 

(そっか~、私のヒーロー好きとマッチョ好きは純粋に遺伝だったんだ~)

 何故かちょっと安心した。

 

 学校へ行っても、家に帰っても、街中でも、そして電車でもマッチョンマッチョンだ。

 これが、美少女ヒーローであれば、マチも優越感に浸り、秘密を楽しむことも出来るのだが、乳首丸出しのふんどし英雄では、恥ずかしくて堪らない。


 しかし、ここは時が解決してくれるのを待つしか手はないのである。

 正体がばれなければ、自然消滅しマチに被害はないのだ。


「我慢だ!そう我慢」


 マチは、そう呟き居間に戻ると曜日を錯覚させる、いつもは内気な人物が、今日は派手なポーズでマチを出迎えてくれた。


 今日、一番頭が痛くなった。

(なっちんが来てる。日曜じゃないのに。なんで~)


 キッチンから、居間の間の移動では派手な出迎えは必要ないのだが、今日の菜茅(兄の彼女で、通称なっちん)は、昨日の興奮が覚めやらない。


 左手に青いポリバケツ代わりに、今食べていた裂きイカを持ったまま斜め前45度に掲げる。

 親指とひとさし指以外は、指先までピント伸ばし、右手は肘から曲げ左手と平行に。

 菜茅は、脚を大きく広げて踏ん張り、マッチョンポーズで出迎えてくれる。

 望んでもいないのに。


「マッチン、昨日はお疲れ様です」

 マチは、背の低い菜茅を簡単に押さえつけ、慌てて右手でナッチンの口を抑える。

 空いた左手で、口元に人差し指をたてた。

 菜茅は、もごもご言いながら頷いているので、手を離してやる。


「なっちん。もう~、疲れるから止めて!!」


「マッチン大丈夫です。安心して下さい。絶対誰にも言いませんから」

 菜茅は、ウインクをして見せる。

 マチは、辛うじて片目が少しだけ空いているで、ウインクと分った。

 

 そこに、兄貴が、二階の自分の部屋から降りてきた。

「何を言わないって?」


 菜茅が、嬉しそうにすかさず応える。

「マッチョンが、マッチン・・・(もごもご)」

 マチは、慌てて菜茅の口を再び抑える。


「いいじゃないか、マッチョンとマッチンの名前が似ている位で怒らなくたって」

 兄は、菜茅が名前が似ていると言うのだと思っていたようだ。


(そう言えば、似てる~)

 マチも納得してしまうのだが、それにしても、菜茅がこんなに口が軽いとは思いもしなかった。

 マチは、今更ながら、菜茅に喋ったことを後悔するのである。


 が、・・・その時である。

 ドスンと言う大きな音と揺れが、築10年の建坪20坪、延床面積40坪、総2階建てで、ローンの残りが後15年の小さな豪邸は激しい揺れを見舞った。


 我が家を愛する母のうろたえを放っておいて、マチ、菜茅、兄の3人は外に飛び出して驚いた。


 <つづく> 

安易に初めてネタに詰まるのであった。

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