4袋 正義の不審者(抽象的に備えあり)
マチは、謎の薬(プロテインX)でムキムキのマッチョのヒーローになることを決意した。
しかし、なかなかそんな機会には廻り合わない。
次第に、気持ちが薄れていく中、ついに大事件に遭遇してしまった。
◆数日後・・・
あれから、マチは毎日お気に入りの真っ赤なお財布の中に、”プロテインX”を1袋。鞄の中には、
“彩色兼備茶”300mLのペットボトル1本を欠かさず持ちあるている。
マチは、それをヒーローとしての心が構えだと信じている。
備えあれば憂いなしだ。
しかし、そんな簡単にヒーローを必要とする出番が廻って来る訳が無い。
そんな簡単にヒーローが必要な世の中では堪ったものではない。
最初は、ドキドキわくわくしながら事件の匂いを嗅ぐべく、意味がないのだが鼻を突き出して歩いていたマチではあったが、しだいに世間に流れる穏やかな日々に、駆出しのヒーローの気分は次第に削がれていった。
ヒーローとしては、喜ぶべきことではあるのだが・・・。
そして、何だかんだで、さらに一週間が経過した・・・。
なっちんは、その後もあいも変わらずルーチンワークの様にマチの家に訪れ、父を除くマチ家の面々と一緒に昼食を取り、そして、兄との午後3時の営みをひた向きに済ませている。
マチも2年半のルーチンワークの様に自室に戻りメガフォンを手に取り、ご拝聴を行う。
いつもと変わらない日々を送っている。
ちょっと変わったことと言うと、夕食前になっちんが”ヒーローペプチドコラーゲン”とか何とか言葉を発し、変なポーズを取って来るぐらいである。が、マチは軽くいなしておいた。
なっちんは、まだ、気分が盛り上がっている様だ。
(さすが、鮮度がいいと日持ちがいい)と、マチは思った。
なっちんは、子供の様に無邪気だ。
午後10時、今日もなっちんは嬉しそうな笑顔を見せながら帰って行った。
平穏な日々がさらに数日が経過した。
ある日。
事件は起こった。
マチは授業が終わると、直ぐに仲良しのAカップの瑞希(ミズキ⇒ミズキン⇒ズキン)と一緒に、家路についた。
今日は、毎月発行される”ザ・月刊マッチョ”の発売日である。
マチは、はやる気持ちを抑えるので一杯で、ズキンの話も上の空である。
目蓋の裏には、上腕二頭筋や大腿筋が中を舞っている。
爽快である・・・。
マチは、そこそこにズキンの相手をして、電車の中で別れた。
マチの家は、ズキンの家より一つ手前の駅が最寄の駅である。
電車を降りたマチは、競歩選手の様に左右にお尻を振りながら、いつもの本屋さんに急いだ。
1か月で一番駅前が輝いて見える日だ。
本屋さんに行く途中、”ザ・月刊マッチョ”を購入している自分の姿を空想していたマチは、空想の中のシュミレーションで、財布の中身が少々不足していることに気が付いてしまった。
(今月、ちょっと使い過ぎちゃったなぁ。お金下さないと・・・)
マチは、ちょっと青い顔になりながら、仕方なく先に銀行に向かうことにした。
何と、そこで事件が発生してしまったのである!!
今月の使いすぎに、今更ながら気付いたマッチンは、神経的なダメージが透かさず腸にやって来た。
マチの喜怒哀楽は表情よりも先に腸に来る。
お金を下す前にお腹が下った。
マチは、銀行に入るや否や、まず先にトイレに向かった。
今度は、競歩選手の様に左右にお尻を振るわけにはいかない。
極力刺激を与えないように、行き交う人をスルリとトイレに滑り込んだ。
ザ・月刊マッチョを購入する興奮と、下半身からの出力物が出ようとする解放感からの興奮が、否応なしに、マチの気持ちを高ぶらせる。
震えがくる。
しかも、トイレの中には、誰もいなかった。貸切だ。音を出し放題だ。
乱雑な音を散発しながら、快感の坂道を昇っていたところ、こちらの音より騒がしい音がトイレの外から聞こえて来るのだ。
普通の音ではない。
「バン、バン」と言う車がぶつかる様な大きな音と共に、女性の悲鳴が聞こえて来た。
(えっ?何?)
マチは、トイレの入り口に耳を当てた。
この姿勢は、2年半自分の部屋でやり慣れている。
壁伝いに聞こえてくる音を聞き分けたら、誰にも負けない。
右に出るものは左に出ない。マチは、最右翼である。
(も、・も・し・か・し・て、・ぎ、・ぎ・ん・こ・う・ご・う・と・う??)
ソロリとドアを3cm少々開け、外の様子を伺う。
銀行強盗一味の一人が、乱暴に行員に指示をし、入り口のシャッターを閉めさせている。
先の長い鉄砲(猟銃)も持っている。間違いない。銀行強盗だ。
マチは、ゆっくりとトイレの入り口のドアを閉めると、音を立てないように大騒ぎで狭い空間を暴れだす。
「わーわーわー。どーどーどー。どうしよ、どうしよ、どうしよう~」
うろうろ。
一騒ぎが終わると。
(どうしよう。このまま隠れて・・・)
一旦、個室に戻った。
まだ、ほんのりと自分の残り香を嗅ぎ締めながら便座に座る。
ちょっと落ち着きを取り戻してきた。
すると、何かが疼く。
こう、何と言ったら良いか、湧き上がる気持ちがマチの心を押し上げてくる。
頭を中心に、冷え性などは無縁とばかりに血行が良くなる。
自然に、右手が拳を握っている。
マチは、個室を出ると入口に近づき、再び得意の”耳を当て”ポーズをとる。
聞こえてくる。
犯人が威嚇する音。
誰かが殴られている音。
悲鳴
子供の無く声。
マチの中の熱い正義と言う点火物が、憤りと言う可燃物に火を付けた。
心の中で、高らかに燃え上がる。
身体が震え、目が血走る。
”噛めんライダー”が、”ウルト饅”が、”見て黄門”が、全てのヒーロー共がマチの背中をプッシュする。
「あ、あ~、あ、頭にきた~!!!」
まちは吠えた。外に声が漏れない程度に。
以外と冷静である。
「体が、熱い!熱い!熱い~!」
マッチンは、思わず鞄の中の“彩色兼備茶”300mLのペットボトルを取り出し、”スカッ”とキャップを廻すと。
一口ゴクリ。
二口、三口。
なぜ、鞄の中にお茶が・・・?
うん?
「あ~あ~あ~。マッチョンだあ~!」
やっぱり、小さな声で叫んだ。
引き続き冷静である。
「そうだ、そうだ、マッチョンだ。でも、でも、でも~~」
忘れていた。
長い平穏の日々に、すっかり馴染んでいた。
しかしだ。
疑問がある。
マッチョンになれたとして、本当に強いのだろうか。
全然弱かったりして~。
内心は本当にこんな事件にぶつかると思っていなかったので、心構えが出来ていない。
でも、あの時感じた、あの感覚。絶対に強いはずである。
しかし、犯人一味は”先の長い銃”を持っているようである。
どうしよう、どうしよう、どーうしよう~~~。
そこに、銃声と共に叫び声が。
熱くなる。本当に熱くなった。ポパイの様に・・・。
7年前、マチがまだ小学性だった時に、先生に自分が割ってもいないガラスを割った犯人されたとき以来の怒り。
マチは、その時の恨みも思い出した。
執念深いマチの怒りは、今、倍増に!
そして、”噛めんライダー”が、”ウルト饅”が、”見て黄門”が、全てのヒーロー共がマチのお尻もプッシュする。
マチは、怒りのまま、真っ赤な財布から”プロテインX”を1袋取り出し、封を切る。
真一文字に切れた切れ目は、見事に美しい。
マチは、それを、満足げに眺めると頷いた。
「縁起がいい」
そして、“彩色兼備茶”300mLのペットボトルに内容物を入れる。
怒りのシャッフルだ。
泡立つ。
マチには、もう迷いはない。
よく混ざった、プロテインXと彩色兼備茶のブレンドを一気に飲み干した。
途端!
心の熱き正義感が血流に溶け込み、猛スピードで全身を駆け巡る。
ぐぐ、ぐぐぐ。
ここで、気付いた。
「ま、まずい!制服が、制服がはち切れる~」
慌てて、一気に服を脱ぎ出す。
制服は結構高いぞ。急げー。
マチは猛スピードで、乙女の皮を剥き始めたが、最後の一つ、いや二つ。二枚重ねのブラが間に合わなかった。
グwwォーン
両肩、腕、胸が、そして、お尻とお腹に太腿が・・・。
全身が心地よく締め付けられ、そして、ずしりとした重量感を感じる。
パチーン。ブラのホックが気持ち良くすっ飛んだ。そして、肩紐が切れる。ブチン。
ちょっとショックだが、体は心地よく軽い。
ざ、ざーン。
体中に漲るパワー。
少々熱苦しいが、”絶快感”
変 身!
左手を斜め前45度に掲げ、指先までピント伸ばす。右手は肘から曲げ、左手と平行に。両足は軽く膝を曲げ、しっかり安定させたポーズを取る。
マッチョン推参 Oh、Yey!
\(・Δ・)/『横書きのみ対応』
マチは、無残なブラを手に後悔が過ぎったが、そんなことでめげてはいられない。
これから、一世一代のデビュー戦が待っているのだ。
トイレの鏡で背中を確認する。(までもないが)
”マッチョン”と言う文字がくっきり浮き出ている。
「よし。大丈夫だ。マッチョンだ」
マチは、颯爽とトイレから飛び出ようとしたが、何か後ろから引っ張られるような気がする。
(このまま、飛び出ていいのか?大丈夫か?)と、何かが。
マチは、後ろを振り向いた。
脱いだ服が、乱雑にトイレのドアに掛けられている。鞄も便座の上だ。
気になる?
気になる。
そうだ。変身が解けた後、この服をどのタイミングでここに取りに来て、着替えるかである。
このトイレで、元に戻ったら絶対にばれてしまう。
と言うことは、持ち物は持参しなければならない。
かと言って、鞄も剥きだしで持って出る訳にもいかない。
どうしよう。
辺りを見回す。
何も無い。
洗面台。個室が3箇所。その横に掃除用具室。
(そうだ!)
中にはあるはずである。
あった。青いポリバケツ。
ちょっと、衛生的に気になるが、この際そんなことは言ってられない。
マチは、バケツの中の掃除用具や雑巾を全て取り出し、軽くトイレットペーパーを敷くと、鞄と制服を中に押し込んだ。
マチは、再び左手に青いポリバケツを持ち、颯爽とトイレから飛び出そうとした。
飛び出そうとしたが、何か恥ずかしい。
これは、直ぐに気がついた。
パチンパチンの、女性用パンティー1丁である。
このまま飛び出すのは、幾ら変身しているからと言っても乙女のプライドが許さない。
(どうしよう?)
考える。
自分の脱いだ服を見る。
摘んでみる。
制服は、正体がバレてしまう可能性がある。或いは、変質者と思われてしまう。
多分、後者だ。
(そうだ!)
マチは、毛糸の白い長めのマフラーを青いポリバケツの中から取り出した。
「これを・・・」
胸に巻くか、下に巻くか?
幸か不幸か、マチの胸はAカップに満たないAカップダッシュ。
さらに乳首も小さい。
悲しいことに大胸筋に吸収されてしまっている。
物理上、押さえるものは必要ない。
十分男としても通用する。
と言うことは、隠す物はない。
・・・のかもしれない。
ないはずだ。悲しいけど。
ないと言うことにする。
マチは、ふんどしの様に股間に巻いた。
パチンパチンのパンティーの上に、ソフラン仕上げの柔らかいマフラーを巻いた。
コソバイが、ちょっと気持ちいい。
内股になる。
(よしと!)
マチは、考えた。これで大丈夫か?
- 3秒位 -
「やっば~い、顔がばれる~」
多少ほっぺに筋肉がついた位で、ほとんど顔はそのままである。
(顔を、顔を、顔を隠さなきゃ。どうしよう、どうしよう)
うろうろする。
「・・・そうだ!」
鞄の中に、スーパーで買い物をした時のポリエチレンの袋があることを思い出した。
マチは、何でも捨てないで取っておくタイプである。
買い物をした時に、必要のない袋を几帳面に小さくたたみ、一回結んでカバンの中に仕舞って置いているのだ。
マチは、鞄の中の3つある袋から、一番大きい袋を取り出した。
ちょっと小さいが、それを頭から被り、乱雑に指で目鼻口に穴を空けた。
(これで、よし!)
マチは、再び考えた。これで大丈夫か?
- 凡そ30秒 -
頷く「大丈夫」
再び、気合のポーズを取り、颯爽と飛び出すようにトイレのドアの前に行くと、ゆっくりと静かにドアを開け、外の様子を伺った。
<つづく>