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3袋 マッチン&なっちん

マチは再びプロテインXを飲む決心をする。しかし、いざとなると、なかなか飲む勇気が出ない。

そして・・・。

◆兄への治験の結果は、結局のところ感じな部分が分らずじまいであった。

 しかし、少なくてもマチが変身した様なマッチョにはならなかったのは事実である。

 (ただ、極一部分に関してはマッチョになった疑い? は以前として残されてはいるが・・・)


 それでも、マチに取って兄がプロテインXを飲んでも身体的な障害が出なかったのは収穫である。

 (もしかすると、極一部分に関しては身体的な好結果が得られた可能性も以前として残されてはいる…)

 マチ自らが、もう一度プロテインXを飲む勇気が出てきたのである。

 それに、副産物としてもう一つ収穫があった。

 休日の余興としては、そこそこスリルがあって結構楽しかったということである。

 もしかすると、マチにとってはこちらが真の狙いで、治験の方は後付けの理由だったのかもしれない・・・。

 いづれにしても、今後の兄にとっては不幸な生活がまっていそうである。


◆マチは、自分の部屋のベッドに転がり、プロテインXの外箱をもう一度眺めてみる。

「ヒーローペプチドコラーゲン配合か~。ヒーローになれそうな名前だよね」

 そこは、何が配合されていようがさして問題ではなく、結果が全てではある。

 しかし、”ペプチドコラーゲン”の前に”ヒーロー”の文字が入っていると、 自然とそこに目が奪われてしまう。


「ペプチドコラーゲンは聞いたことはあるけど、ペプ○コーラと何か関係があったけ?・・・いや、コラーか。関係ないっかー」 無意味な思考は止め、ベッドから起き上がり、鏡に背中を向け服を捲ってみる。

 もう”マッチョン”と言う文字は、影も形もない。

「確かにマッチョンって浮き上がってたけど、あれってホントに変身した時の名前なんだろうか」

 色々な疑問が小山を築きつつある。

 捲った服を戻し、大胸筋に力を入れてみる。

 ピクリとも動かない。

 ぷるるんともしない。

「さすがAカップダッシュってとこか」

 マチ的には、Aカップブラを2枚重ねにすることがAカップダッシュである。

 上腕三頭筋など、プルンプルンのこんにゃくのようだ。

(こっちは、ブラが必要ってかい?悲ピー現実・・・)

 マチは再びベッドに寝転がる。


「マッチョンかー」

 変身したときの姿を思い出す。

 マチは思う。もし、もしもだ。この薬で自由にあのマッチョンになれれば、きっと何か出来るはずである。

 まだマッチョンの実力がいか程かは分らないが、変身した本人にしか分からない感覚が脳の一部に、しっかりと刻み込まれてしまっている。

 でも万が一、今度飲んだ時に”ぶっちょん”とか背中に浮き出て、メガトン肥満のまま戻らなくなったらどうしよう。

 或いは、巨乳なるとか、一気に歳をとるとか・・・

(巨乳は、まあ・・・結構いいか)


 色んな不安が下痢の時の腹痛の様に押し寄せては消える。

 繰り返す。


 マチは、思案すること暫し・・・。

 

「”考えるより勘が得る”だ! 」

(マチが考え出した座右の銘で、”頭の悪い奴は、考えるより感で動いた方が得ることが大きい”と言う意味である)

「あのお婆さんを信じよう。そうだ!飲もう!とことん」

 しかし、外箱には、1日1回1袋までと書かれている。

(慌てることはないか~)


 マチは、もう一つのキーワード”熱くなったら・・・”の部分を満たす為の準備をすることにした。

(熱いと言えば・・・何だろ?)

 自問する。

(熱いと言えば、お風呂。追い炊き。鍋焼きうどん?)

 自答する。

 さらに、

(スポーツ。プロレス。ボクシングにテニスの選手、一部の?)

 さらに、 

(後は、怒り親父に、エッチ。それに、何てったってヒーローものってとこかぁ)

 だが、ヒーローものは恐らく、”見て肛門”を見ている時に一度変身しているので、また変身出来る可能性は高い。

 エッチに関しては、兄貴が変身出来なかったことによって可能性が低いと予想出来る。

 部分的には未知数だが・・・ ・・・ ・・・。


 マチは、可能性の低い順で、試すことにした。

 1.45度のシャワーを浴びる

 2.毎月購読している”ザ・月刊マッチョ”を見て、ちょっとだけ一人遊びをする

 3.プロレスのポスターを見て気合いを入れる

 4.”ヒーロー単体 ゴレンチャン”のDVDを観る

 このゴレンチャンは、最近のヒーローものではマチが一押しにしているものだ。

 普段は気の弱い振りをしている雀士が、悪徳金融業者を麻雀で裸にひん剥いてしまうヒーローものアニメだ。


◆すっかり準備が整い時計を見ると、午後11時55分を既に回っている。 多少のことでは傷つかないステンレスのような丈夫な心臓をしているマチも、さすがに緊張が襲って来た。

 口が渇く。

 心臓がの鼓動が、頭に反響する。

 膝の間接が緩む。

 膀胱様が尿が溜まってると知らせてくる。

 マチは心臓に手を当て、下唇を舐めた。

(金鳥の夏か~?今は、緊張の冬だ)


 部屋の時計が午前0時を告げる。

 マチはそれを合図に、ペットボトルの”才色兼備茶”のキャップを回しゴクリと二口飲む。

 流れ作業の様に、何も考えないようにして、プロテインXの小袋を開き、”才色兼備茶”のペットボトルに入れた。

 心臓の音を意識しない様にするが、勝手に頭の中で響いている。

(こんな、気の弱いことでは正義の味方になんかなれないよ)

 自分を叱咤する。 キャップを締め良く振る。

 そして、キャップを開けると、目を瞑って一気に・・・。

 ちょっと躊躇う。

(慌てることはないよね)

 やっぱり、言い訳をする。

 

 何度か、口まで持って行くが、飲む勇気がでない。

 マチは、少し休憩をして、テレビを観ることにした。

 逃避である。


 テレビを点けると若い素人の女の子と、中年のオヤジ芸能人が対談をしている。

 結構面白い。


 マチは、お茶を飲みながらテレビを楽しむ。


 恋愛の話に移ると、次第に話は盛り上がり、若い女の子が1年に5人と付き合ったとか、現在3又を掛けているとかとほざいている。

 それを聞いている中年のオヤジ芸能人が一応仕事なので怒りだす。

 マチも最初は、面白がって見ていたが、次第に正義の血潮が疼き出し腹が立って来た。


 お茶を呑みながら・・・。


 中年の芸能人が立ちあがる。

 マチも、熱くなり一緒に立ちあがる。


 才色兼備茶を飲みながら・・・。


「あれ?」

 身体が、むずむずする。 お茶を飲み干す。

 微熱を感じる。

 お茶を見る。”才識兼備茶”とラベルが貼られてい。

 血液の物凄い流れを感じる。

 机の上を見ると、空のプロテインXの袋がある。

 身体が圧迫されて来た。

「やばい、破ける!」

 マチは、慌てる。

 慌てて着ているものを脱ぎパンティー1枚になった。


 1拍おいて、


 パンティーも脱ぎ棄て生まれたままの姿・・・?

 とは、一部生長して異なってはいるが全裸になった。  

 精神的な高揚と解放を感じ、

 そして、


 ズド〜ン。


 ”マッチョン”に変身した。


「うぉ、うぉ、お~」

 2回目の変身とは言え、マチは声にならない呻き声をあげる。

 少し煩い。


 驚きで、テレビの前に立ち竦む。


 そこへ、絶妙なタイミングで扉の外から声が掛けられた。

「どうしたのマッチン」

 隣の兄の部屋でお泊りしていた菜茅がトイレに起きて、戻るところであった。

 菜芽は、明日が祭日で休みの為、めぜらしくお泊りをしていた。

 昼夜の連戦のせいで、ちょっとお疲れではあったが、マチの変わった叫び声を聞きつけ、心配になり声をかけたのだ。


「はい?」 と、驚いたマチは聞きなおしたのだが、疲れの残っている菜茅には、返事に聞こえた。  扉が開かれる。

 マチには、スローモーションの様にゆっくりと見える。

 菜茅の右半分が見えた。

 まずいと思ったマチは、菜茅に向ってダッシュする。

 菜茅の眠そうな眼がまん丸く開かれる。

 そして、スローモーションの様に口が大きく開いたその瞬間。マチの右手が菜茅の口を捕らえた。

 間に合った。流石、マッチョンに変身すると俊敏だ。

 マチは菜芽を引き寄せ、慌てて扉を閉めると、しゃがみ込んだ。


「ウゴウゴ・・・」

「なっちん。お願い静かにして」

 体はかつて見たことがないゴリゴリのマッチョだが、間違いなくマチの声だ。顔もマチである。 菜茅がウンウンと頷くので、マチは菜茅の口から手を外した。


「ど、どうしたんですか!裸で」

 驚いて敬語になっている。

「あの~え~その~・・・」

 マッチョになってどうしたのかと聞かれると、説明し易いが、裸でどうしたのかと聞かれると答えにくい。


「マッチンって、凄い着痩せするタイプだって知らなかったから驚いちゃいました」

 菜茅は、人間が瞬時に変身すると言う概念が無い。

 マチが元々マッチョ体系であることを、自分が捉えられてなかったと思いこもうとしている。


「なっちん違うの。これには深い訳が・・・」と話しかけたところで、胸に熱いものを感じる。

 (なんだ、この熱きものは?)

 内側からではない。外側からだ。

 大胸筋辺りにもそもそとした・・・。

 マチが自分の胸を見てみると、なっちんの左頬は、マチの右胸にぴったりとくっ付き、右手は左胸を滑るようにすりすりと・・・。

 そして時々、マチの突起物を心地よく捕らえる。

「あっ、なっちん!」

 慌てて突き放す。


 マチは心配した。

 菜芽のことではない。自分の清潔さについてだ。


 菜芽はさっきまで、隣の部屋で兄貴の『お兄様』を握っていた、または、すりすりしていたはずだ。

 毎週の様に壁越しに盗聴しているので、大体の動きは想像がつく。

 その手で触られたと思うと、ちょっと冷たく汗ばんでしまう。


「その手は。あの~」

 幾らマチでも、ちょっと言いにくい。

「ごめんなさい、あまりにもいい大胸筋だったもので・・・つい」

 菜茅は自然と出てしまった障壁に顔が真っ赤になる。

 当然、胸を触ったことについて責められていると思っている。


 胸を大胸筋と言うだけあって、菜茅は、マチと同じく隠れマッチョ好きであった。

 元々、マチの兄一樹と付き合いだしたのも高校の時の兄の大胸筋を好きになった為である。

「マッチンって、一樹より良い体しているんですね」

 目つきが、トロンとして来ている。

(完全に勘違いされている。早く説明しないと)

 と思った瞬間だった。マチの体はみるみる内に、元の華奢な体に戻って行った。

 全裸の女の子が恥ずかしそうに…。いや、堂々としゃがんでいる。

その姿を目の当たりにして菜芽は腰が抜ける程驚いた。

「マ、マ、マ、マッチ・・・ン」

 マチは、また慌てて菜茅の口を抑えると、一気に畳み掛ける様に今までの説明をするのであった。


 − 説明 −


 なかなか冷静に事実を受け止められない菜芽であったが、何度も反復することにより、脳みそが馴染んできたのか、菜茅も冷静を取り戻してきた。

 菜芽が右手の親指と人指し指で、OKマークを作ったので、マチは菜茅の口からてを離した。

「驚きました。そうですよね、そんなに着痩せする人はいないですよね。ホントは自分の目がおかしくなったのかと思いました。でも、こんなことってあるんやねーって感じです」

 菜茅は、この後数年の間4歳年下のマチに対して、敬語を使うのである。


「なっちん、このことは…」

「もちろん、誰にもいいません。一樹にも」

 こうして、マッチョンのことは、マチと菜茅だけの秘密となった。

 変身についても一つだけ間違いのない次の法則も掴めた。

〔(変身) ⊃ (マチがプロテインXを飲む & マチの心が熱くなる)〕 

 

◆菜芽に説明を終えた、全裸のマチは、取り敢えずパジャマだけは着ようと、菜茅に背を向けパンティーを穿こうと前屈みになった。

すると、何やら熱いものが後から突き刺さる。

 熱いものに悪寒が走る。

(何だろう)

 自然な仕草の中で、後ろを見ると、菜茅がじっとマチの足の付け根あたりを興味津々の目付きで凝視している。

(見られる!!!)

 マチは、大きく隠す行為を行う度胸もなく、一応見えない様に、斜に構えて、素早くパンティーを穿くのであった。


 この後、二人は“彩色兼備茶”を飲みながら、正義とマッチョについて語り明かすのだった。

 ついでに菜茅は、トイレの帰りにマチの部屋に寄ったことが分り、

「トイレの帰りなら、手を洗ってるか」と、安心するマチであった。

 

◆伊藤真知 (マッチョン)

 16歳 高校1年生 

 身長164cm 47kg

 細身で、ハートが熱く、強い。心臓はステンレス製。

 正義感が強いが、ちっちゃなモラル等は気にしない。

 筋肉とヒーローを愛する。


 山倉菜茅マッチョンのサポート 

 20歳 大学2年生

 身長148cm 40kg

 幼く見え、気が弱いが、時々大胆なことを行う意外性の女の子。

 マッチョが大好き。

 愛車は、中古で買ったグレーの地味な軽自動車。

 運転中と、麻雀中は人が変わる。


 <つづく>

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