表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

2袋 治験者は兄 

マチは、謎の薬(プロテインX)でムキムキのマッチョになったが、15分程度で元の姿に戻ってしまった。

本当にプロテインXが原因であるのか、兄の一樹を治験者とするのであった。

その結果・・・。

「あっれ~?戻っちゃった」

 丁度調子に乗ってポージングをしていたところであった。


 ホッとするはずなのに何かちょっと寂しさが残てしまう。

 それに、マッチョンの大胸筋の方が今のマチの胸よりも明らかに大きかった。

(胸・・・硬いかナ・・・)

 後悔が残る。


(いったい今の何だったの?昼間のお婆さんから貰ったプロテインXのせい何だろうか?)

 マチは、もう一度プロテインXの箱を手に取り説明書きを読んでみる。


「掻い摘むと、熱くなったら1袋飲んで、5秒で効果が現れ、最大15分持つ。そして悪党共はバッタバタって言うことか~。確かに悪党がいれば、そのままなんだけど・・・」

 確認はして見たい。

 でも、もう一回自分で飲むのはちょっと怖い気がする。

(実験が必要だ!)

 マチは少し考える。

 すると、名案を思い付いた。


「そうだ、兄貴で試してみよう!」

 マチは、プロテインXの被験者に兄を利用してやろうと企むのであった。


 マチの兄、一樹は、5歳違いの大学3年生。

 高校生の頃の一樹は、水泳部で見事な位に身体は逆三角形をしており、顔もワイルドで、マチの理想の兄であった。

 それが、大学の入学と同時に怠惰な生活が顕著に体に現れ、高校生の時の姿は見る影もない。

 顔も温和に丸っこい。

 マチにはそれが残念で仕方が無かった。


「ん~」唸る。

 しかしだ、マチにはこの兄の一樹を利用するにあたり、大義名分が必要なのである。

 それは、マチが正義を愛するものであるからである。

 理由もなく人体を実験に利用することは出来ない。これでは、悪の科学者の人体実験と同じになってしまう。

 それでは、正義の味方にやっつけられてしまう。

 昨日DVDで観た、手のひらに毛の生えた怪人のように・・・。


 つまみ食いをすると口の中に毛が入ってしまう。

 手相占いが出来ない。

 盲パイが出来ない。

 手のひらを太陽にかざしても僕の血潮が見えない。

 それはまずい。


 正義と言う名の大義名分が絶対に必要だ。

(そうだ!大義名分があればいいんだ)

 大義名分があれば何をしても良いのかと言う疑問については、この際目を瞑ることにした。

 マチは両目を閉じる。

 よし、疑問が見えなくなった。

 そういうことにした。


(でも、大義名分はどうしようか?)

 マチは思案する。

「ん~」唸る。

 何か、取ってつけたようなものでも良いから、大義名分が無いものか・・・。

(いや、取って付けたものでは良くない。必要不可欠だと言う理由が必要だなんだ)

 それっぽいものを探す。


(よし、マンネリな午後3時のひとときに、妹からの刺激的なスパイスのプレゼントにしよう)


 ”刺激的なスパイスのプレゼント”と言うのが、大義名分になるかには、大いに疑問も残るのだが、それも目を瞑ることにした。

 これで、取り敢えず自分を正当化することに成功した。


(さて、次はどう飲ませるか。そして、どう熱くさせるか?か~・・・)

「ん~」唸る。

 マチは思案する。

 しばし・・・。そして、

「うん!」

 ポン。

 広げた左の掌を、右手の拳が気持ち良く叩いた。

 マチはワクワクしてきた。

 ちょっと別の意味のよこしまなワクワクである。


 ― そして翌日(土曜日)―


 一樹には、高校1年生の時から付き合っていた彼女がいる。

 彼女の名前は、菜茅なちと言う。

 マチは彼女のことを”なっちん”と呼び、彼女はマチのことを”マッチン”と呼んでおり、二人は本当の姉妹の様に仲が良い。

 菜茅は、毎週の様に土曜日の昼頃になると伊藤家(マチの家)にやって来ては、午後3時から夕食までの3時間を一樹と二人で、部屋に閉じこもる。

 マチとしては、昼食後から午後3時までにプロテインXを兄の一樹に服用させなければ治験を成功に収めることが出来ない。


 それにしても、最初は嫉妬心もあったマチではあるが、最近はこの毎週欠かさずのお勤めに、

(御苦労さま!)

 内心、呆れた様にエールを送る。

 ラジオ体操だって夏休みの終わり頃には飽きるのに・・・。

 最後の深呼吸何かは4回も行うのは面倒臭くてしょうがない。

(兄貴ってそんなにいい味してるんだろうか?あのブタ)

 今のマチは、太った兄に余り興味が無い。

 ビジュアル重視だ。


 そして、今日も菜茅は正午の鐘の音と共にやって来た。

 週末の伊藤家の食卓はいつも、母、マチ、一樹と菜茅の4人である

 一樹が大学に入学して依頼、変わらぬ顔ぶれだ。

 因みに伊藤家の父は土曜日も仕事である。

 

 昼食の後は、お茶とお菓子による談笑というコミュニケーションがいつものパターンである。

 通常は、母と菜茅で準備をするのであるが、今日はマチがバナナシェークを作ると言うことで、お茶係りに立候補した。

「珍しいこともあるもんだと」言う一樹の声と、母の嬉しそうな声援に送られ、見事にキッチンに立つことに当選した。


 マチのレシピは、まずミキサーにバナナと牛乳、それにアイスクリームも入れる。そして、スイッチON。

 3人分が完成した。

 そして、残りの1人。兄の分には、さらにプロテインXを1袋加えミキシング。

 袋をポケットから取り出すと、ドキドキしてきた。

 興奮で、お尻の筋肉がピックと持ち上がる。

 目付きは、悪人の様に細く鋭くなって来た気がする。

 マチは、慌てて瞬きをして、鏡を見つめる。

(大丈夫、真ん丸な大きな眼だ。可愛い)


 バナナシェーク4杯はあっという間に完成した。

 それにカステラを添える。これは市販のものだ。

 それっぽくなった。

 完成度に膝頭が内側に寄って力が入る。

(ダメだ、興奮する~)


 しかし、バナナシェークを運ぶ間際になって、マチの良心が問いただしてきた。

(正義を愛するものとして、兄を犠牲にすることが本当に正しい選択なのだろうか?)

 ハッとして、バナナシェークとカステラを乗せたお盆を持ったまま暫し立ち止まる。


 そして、


(世界平和の為には、多少の犠牲はあるものなの。きっと兄貴達にも刺激があっていい経験に・・・)

 再び、目付きの悪い悪人の様になって来た気がして、慌てて瞬きをした。


 マチは、納得して再び正義の階段を一歩踏み出した。


 マチのバナナシェークはかなりの好評を得た。


 一樹は美味しそうにそれ(+プロテインX)を一気に飲み干した。


 ・・・穏やかな団欒が続く。

 

 陽の傾きが気になりだした頃、居間の時計が三回鐘を鳴らした。 

 二人は、さり気無く2階の一樹の部屋に向かう。

 2年半もの間積み重ねた二人の行為は、必然の流れに乗り、ラベンダーの香りまでが漂ってきそうである。

 5分後、マチもさり気無く隣の自分の部屋に移動を開始する。

 これも、何故か必然になってきている。

 興味は既に無くなっているのだが、ホントに興味はないのだが、ラベンダーの香りが大好きだ。

 と思う。

 誘われてしまう。

 特に今日は、プロテインXの香りが混在している。

 気がする。

 興奮の香りだ。

 きっと。


 自分の部屋に戻ったマチは、壁にメガフォンをあて耳を寄せる。

 必要もないのに息を潜める。


 ごそごそと音がして来た。

(いいぞ)

 始まった。

(そろそろ変身かナ?)

 マチは耳をメガホンに押し付けた。

「はー」

「ひー」

(いけ!変身だ)

「あー」

「いー」

 でも、いつもの音しか聞こえてこない。

 いつも聞いていることになるが。

 

 壁越しに伝わってくる何年経っても変わらぬ愛に、多少のイラつきを覚えながらも聞き耳を立てる。


(あれ、もしかすると、熱くなっていないのだろうか?)

 いや、そんなことはないはずだ。工場の始業時間じゃあるまいし、午後3時の鐘の音と同時に行動を開始している。

 熱いはずだ。

 なのに、なのにいつもと変わらない。

 マチには、とってもマッチョンとなっちんのタイトルマッチには思えない。

 どう考えても、兄の一樹と、なっちんの30分1本勝負だ。


 そんなことを考えているうちに、静かになり、会話が聞こえてきた。

 終わった様だ。

 余韻が伝わって来る。

 会話の内容までは聞こえないが、特に興奮をしている様ではない。


 『何も無かったのか?』


 マチは菜茅に率直に聞いてみることにした。


 ― そして夕食前 ―


「ねえ、なっちん。兄貴変わってかなった」

「えっ、変わってたって。どういう風に?」

 菜茅の顔は若干赤くなっている。

「その、何ていうか体がこう~、ほら昔の様にマッチョと言うか・・・」

「特に変わったことは・・・」


 昨日マッチョンになったのは、プロテインXのせいでは無かったのだろうか。

 それとも、熱ければ何でも言い訳でないのだろうか。

 これでは、プロテインXの力が不明のままである。

 それに、

「凄くなかったんだ」

 凄い行為を期待していたマチは残念な気持ちになる。


「あっ!そう言えば」

「えっ!何か違ってた?」

 菜茅の記憶が、一樹の頭の天辺から爪先に向けて、ゆっくりと体を舐める。


 そして、体の中央を若干過ぎたあたりで、菜茅がつぶやいた。

「そう言えば・・・いつもより、マッチョさんになっていたかも」


「ホント!!どんな風に?」

 マチが食いつく。


 そこに、

「どうした?」

 声を掛ける一樹の前には、キラキラと輝いた眼付きのマチと、顔を赤くして口を押さえる菜茅がいた。


(プロテインXの効果だろうか??)

 マチの謎は深まるばかりである。


 <つづく>

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ