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6袋 背中からこんにちわ(魔界と天界)

真夜中に突如マチの部屋に現れたシャーリーと言う超絶イケメン。

実は、彼は異世界から来たのであった。

◆天界と魔界

 シャリーは自分の住む世界について、その概要を話し始めた。そして、話はマチの住むこの世界との関係へと続いて行く。

 マチが興味が持てず聞き流した世界の概要と、時々挟んで来るつまらない話を省くと、シャーリーの話は大凡次の通りであった。

 1.マチの世界において、一般的に人々の精神の拠り所である宗教。その宗教に多大なる影響を与えている魔界と天界と言う存在は、実際に異世界に存在している。

 2.その二つの世界(魔界と天界)は、別個の世界くうかんに存在すると思われているが、実は一つの世界に存在している。

 3.両者(魔界と天界)は、共に国々の集まりであり、その名は実はそのカテゴリーの総称でしかない。

 4.実際に天界、魔界の存在する異世界は、実はマチ達の思っているような崇高や神秘的、恐怖等で表される世界とはほど遠く、多少魔術が使える人たちが住むだけの世界である。

 5.シャーリーは、その異世界の一つの国から来ている。

 6.そして、マチの世界の宗教とは、互いの世界(マチの世界とシャーリーの世界)のある思惑の元に存在している・・・。

 では、まず魔界と天界と言う、善と悪のような対照的な呼び名に何故なったのか?

 話が続くにつれてマチの素朴な疑問はそこに集約されて行く。気になってしまうと、短気な側面から、そこで思考が止まってしまい聞いていて気持ちが悪くなってくる。それまでは、口を挟むのをためらっていたマチであったが、しびれを切らして口を開きかけた。

 しかし、その時シャーリーはそれを察したように話は、マチの痒い所へと話は進んで行く。

 心を読まれている様に感じたマチは、別な意味で気持ち悪くなり、悪寒が走るのであった。


◆魔術エネルギー問題


「では、なぜ魔界と天界と呼ばれるようになったのか?

 それは、私たちの世界のエネルギー問題に帰するのです。

 私たちの世界は大きくは二つの民族に分かれるのですが、更にその中で複数の民族に分かれます。そして、歴史的な紆余曲折はありましたが、結局はその複数の民族がそまま国家と言う形を成すことに落ち着きました。

 では、なぜ国家が民族毎に分かれて行ったのかですが、理由はいくつかありますが、大きくは二つです。

 一つは生殖的に結びつきやすいこと、それと、二つ目はエネルギー採取の問題で、今、問題となっているのは二つ目にあげたエネルギー採取の問題の方になります」

 マチは一つ目の”生殖的結びつき”には思わず目を皿のようにして喰いつく様相を見せたのだが、それはあっさりとシャーリーにスルーされてしまう。しかも、核心は難しそうなエネルギー問題と聞き、あからさまに顔をしかめずにはいられない。それでも、シャーリーはマチからの目から視線を少し逸らし、額を見ながら話を続ける。


「我々は能力を使うことが出来ます。

 え~と、能力と言うのは、謂わばこの世界で言う魔術みたいなもので、この世界には実際には存在しない特技と思って下さい。

 取り敢えず信じ難いかもしれませんが、かなりの個人差はあれ、私たちの世界の大半の人々がその手の力を使うことを出来るのです」

 能力と言う言葉に胡散臭さを感じたマチは、口を開け放ってアホ面で疑って見せる。それに、シャーリーも慌てて魔術と言い換えたが、聞く側としては五十歩百歩である。

 しかし、何もマチも全く信用していない訳では無い。自信のマッチョンへの変身も普通でなければ、つい今しがたは偶然かもしれないが、マチの金縛りもシャーリーが解いてくれたのである。何よりシャーリーは、黒い霧の中から登場したのである。自身が寝ぼけていなければであるが。

 とは言っても、マチもJKである。大人の男性の話を迂闊に信じる訳にはいかない。なので、マチはアホ面でシャーリーをけん制したのである。

 そんなマチの意志を知ってか知らずか、シャーリーはマチの表情にめげずに真顔で続ける。視線はマチの額に固定したままで。


「ただ、それは無尽蔵に使える訳では無くて、それを使う為にはエネルギーが必要なのです。そのエネルギーは、魔術に特化したエネルギーなので、今は仮に魔術エネルギーと呼ぶことにします。

 そして、その魔術エネルギーなのですが・・・実は人の感情から生まれまるのです」

 マチの口が再びアホっぽく開き掛けたのを見て、シャーリーは慌てて補足を加える。

「この世界のアニメやラノベにありがちな設定なので、お疑いになるかもしれませんが、実際に私たちには重要なエネルギーとなるのです」

 マチの表情に敏感に反応するシャーリーは、信じて欲しいの一心から懇願の目付きに変わる。

「え~と、すみません、取り敢えずそう仮定して聞いて頂けませんでしょうか?」

 それを見て、呆けた顔を少しだけ戻して、一応頷いて見せたマチに、安心した様に一息吐いて続けるシャーリー。


「マチさんの世界の人々は私たちの世界と異なり、感情が豊かで且つ圧倒的に人口も多いので、私たちにとっては、大きな魔術エネルギーの供給源になるのです。

 我々は偶々この世界を発見し、私たちの世界との間を行き来する方法を見つけました。

 と言うよりも、もし本当に神的な存在があるのならば、何らかの意図を以って私たちにその機会をお与え下さったのか、或いは、既に最初から繋がりがあったのかもしれませんが・・・」

 シャーリーは一旦話を切って、ハンカチで額の汗を拭き始める。

 深夜のJKの部屋への不法侵入と言う犯罪下で信用を勝ち取らねばならないのだから緊張は半端ない。

 マチの方はと言うと、いつのまにか、「マチさん」と名前で呼ばれていることに気付き、多少不快感を覚えるくらいの余裕が既に存在している。取り敢えずそれは汗を拭く姿の誠実っぽさと、イケメンであることを再確認出来たことで、特別に許すことと決めた。しかし、信用するに至るまでには未だ程遠い。


「さて、大きな魔術エネルギー源が発見されたところまでお話しましたが、となると、その先に世界に何が起こるかです。

 恐らく、マチさんの住むこの世界でも起こっているはずです」

 シャーリーはもったえぶって、少し間を開けて続ける。


「そう、お気づきの通り。エネルギーを巡っての利権争いです」

 それに何も応えないないマチであったが、あたかも自分と同じ考えであったかのように続けるシャーリー。

 難しい話は分からないが、この世界にもあったような気もするマチは、取り敢えず半分だけ頷いて見せる。

「そう、必ずあるはずなのです。

 私たちの世界もご多分に漏れず、こちらの世界との関係が深まるにつれて、争いが頻繁に起こるようになって行きました。

 そして、遂には魔術と魔術具を使った世界を二分しての大戦に発展したのです。

 そうなると、その結末は必ず大なり小なり勝者と敗者が生まれてしまいます。

 残念ながら戦争は、正当性とは無関係に勝者が”善”となり、敗者が”悪”となります。それは、恐らくこちらの世界の戦争も一緒のことでしょう。

 もちろん、私たちの世界の戦争もご多分に漏れず勝者が善となり、そして、敗者は悪となりました。

 勝者には大義名分さえこじつければ、世間は納得し、あらゆることが許されます。

 そこで勝者は、大義名分の為、国際法に則り裁判を数度開きました。都合の良い時だけ交際法を守るのです。

 勝者は、まず勝者と敗者の総称を付けることから始めました。これについては、敗者は最初、たかがそれだけのこととしか思ってはいませんでした。

 しかし、勝者は策士でした。それが、未来永劫自分たちが「正義であった」と言う普遍の史実を作り上げるのです。

 勝者が自らに付けた総称は、天の使いと言う意味で”天使”です。そして、その勝者の各国には”天界”と言う名前が付けられたのです。

 一方敗者に付けたのは悪の総称と言う意味での”あくま”です。そして、その敗者の各国には”魔界”と言う名前が付けられたのです。

 現在では敗者の中の主要一国のみだけが、未だに”魔界”と言う名を引きずって使っている訳なのですが・・・これは話が長くなるので今は控えます。

 マチさんの世界で言う、あくまと天使、魔界と天界の正体の根源は実は私たちの世界のこの史実から来ているのです。

 この呼び方を勝者が付けたのは、私たちの世界の史実と言うよりも、むしろマチさんの世界に与える影響が重要だったのだと今の我々は思っています。

 その誤った情報がマチさんの世界に流れました。勝者が流すのです。宗教と言う心の拠り所を使って。

 敗者も遅れて次第にその拙さに気づいて行きます。しかし、敗者はそれに服するしかありません。

 勝者はさらに信憑性を挙げる為、敗者がこの世界に来る時に限りとしてですが、私が先ほどまで来ていたコスチュームをする付ける義務を裁判で負わせました。イメージ戦略です。

 それで、マチさんの世界では確固たる先入観が生まれます。

 不安を増長する”あくま”の住む悪の”魔界”と、それを信仰で助ける”天使”の住む善の”天界”です」


 なるほど、魔界と天界と呼ばれるようになった理由は分かった。でも、マチには分からないことが更に生まれてしまう。

 魔術エネルギーを巡っての争いと言うのは理解できるが、なぜエネルギーの採取方法の違いで二つの勢力に分かれたのか?そして、なぜ善悪の先入観が必要なのか?

 マチは、話が勝手に進む前に根本の部分を確認することにした。

「で、何で世界がエネルギーの採取方法の違いくらいで、天界と魔界の二つに別れたのさ?」

「二つに分かれたと言っても、全ての国が争った訳ではありませんが、それでも主要な国はその民族の結びつきにより参戦せざるを得ませんでした。

 では、なぜ採取方法で二つに分かれたのかご説明いたします。

 まず、採取方法の一つは、人々の”信じる力”を魔術エネルギーとして接種する方法です。特に宗教的な信仰心は大きなエネルギーとなり、今ではそれのみを採取しています。この採取方法を採用している民族の国々は、”エネルギー大連合”と言う締結の下に結ばれています。

 エネルギーとして大きく且つエネルギー変換効率も高く、先駆けて発展して行きました。その大連合が、戦勝後の”天界”なのです。

 そして、もう一つは負の感情、不安を魔術エネルギーとする民族の国々です。後に”諸国連合”として結束された、敗戦後の”魔界”です。

 戦前、この不安を魔術エネルギーとする方法は変換効率が悪く発展途上国ばかりでした。それでも、なぜこの方法を選択したかと言いますと、何も技術的に信じる力を魔術エネルギーに変換出来なかった訳ではありません。

 魔術エネルギーを取得する世界、つまりマチさんの世界に極力負の影響を与えないことを配慮してのことなのです。

 感情を魔術エネルギーとして取得してしまうと言うことは、その感情が変換効率が良い程、大幅にその感情が抜け去ることになります。エネルギー保存の法則です。

 例えば、私達魔界の魔術エネルギー採取方法では、エネルギーとして人から不安の心を奪うことになります。

 そうすると、その不安は無くなってしまいます。

 しかし、人の性質上、不安はつきものなのです。大きな不安は無くなったとしても、心の中では小さかった不安が今度は大きく思えていきます。不安の深さは事の大小ではありません、心の動きの大小です。

 それに、直ぐに次から次へと別の不安は訪れます。なので、こちらから強いて何かをする必要もなく新たなエネルギーは成長していきます。

 この方法も世界への影響が無い訳ではありませんが、比較的、否、大幅にマシだと考えておりました。

 対して、大連合側は信仰心を魔術エネルギーとしています。信仰と言うのは、生死や、死後と言う人類最大の不安を解決するのが、いわばそのウリです。

 この信仰と言う心は、先程申し上げた様にエネルギーとして大きく且つエネルギー変換効率も高いのですが、採取した後は、その人類最大の不安までが消失してしまいます。そうなると、新たにその人類最大の不安を育てなければなりません。

 魔界の不安エネルギーの採取のようにどんな不安でも良い訳ではないのです。信仰心を必要とする不安を作り育てなければならないのです。

 問題はその不安を故意に作ることと、その育て方です。

 どちらも根本は不安から魔術エネルギーを得ていると言っても良いのかもしれませんが、得るための手段が大きくことなるのです」

 ここまで聞いたマチは、右手の拳を左手の掌に打ち付けて目を輝かせた。

「ああ、なるほど~!天界と魔界の総称は、信仰心を作りあげる道具として使用する為に必要だった分けなんだ」

 マチもなぜ善悪の先入観が必要であったのか、シャーリーの話で理解が出来たのだ。


「流石ですマチさん。その通りです。

 まず、彼らはこの世界の依存心の強い人に対し、視覚、聴覚、場合によっては嗅覚や触覚までを使い、恐怖と安堵を与えます。そして、彼らは巧みに誘導し、その人たちをある一つの信奉者にするのです。

 故意に圧力を与え、それを取り去るのです。いわば自作自演です。

 彼らはその手法で新興宗教団体を設立して行くのです。


 この故意に不安を煽ることは、私たちの世界の国際法では違法なんですが、諸国連合の魔界側は確固たる証拠を掴めませんでした。証拠が無ければ、弱者の諸国連合には簡単に非難することはできません。いえ、もし証拠があり公にしても、強者の大連合の持つ権力によって殆どは打ち消され意味は無かったでしょう。

 当時は、今で言う天界と魔界、大連合と諸国連合では、埋められない力の差があったのです。悲しいことに更に天界と魔界では主従関係的なるものが自然と出来上がりつつあった時でもありました。

 シャリーは、悔しさを前面に出して続ける。

「弱小の諸国連合すなわち、今の魔界が、不安の段階でエネルギーを合法的に採取し、それを消してしまいます。すると、不安から信仰心を煽る側の大連合、今の天界にとってどんな存在となるでしょうか?

 公にならない様に非合法手段をとるしか無いでしょう。

 これでお分かりになると思います。

 片方は公にしても意味がない、そしてもう一方は公に出来ない。そうなると、両者は末端レベルで小競り合いが起こることになります。

 最初は当然のことながら、小競り合いの末、大連合側が圧倒的に優位な立場でした。

 しかし、不安を消す側の中にエネルギーの変換効率を飛躍的に上げることに成功したある国が現れました。そして、見る見るうちに天界の国々と比較してもトップクラスとと肩を並べるまでなり、形成が変わって来ます。更にその国は、密かに他の魔界諸国にも広め、現状の主従関係を打開しようと図ったのです。

 だが、それが何処からか大連合、即ち天界に漏れたのです。

 天界としては、この先、更にこれを他の諸国連合、即ち魔界の国々に広められると、彼らの支配的力は急速に衰えてしまいます。彼らにとっての優位性に亀裂が入ることになります。

 天界は、最初それを経済制裁で魔界に圧力を掛けました。しかし、魔界はそれに抗いました。特にそのエネルギー変換効率を飛躍的に上げた国はです。

 そして、経済制裁だけでは意味が薄れ”戦争”となったのです。そして、それは広がり世界の殆どの国を巻き込む大戦となって行ったと言うことなのです」


<つづく>


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