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6袋 背中からこんにちわ(真夜中に現れた超絶イケメン)

恐怖に怯えて覗き?に行った亀之頭公園から帰宅したマチは、その夜、奇妙な体験をする。

◆マチ、勝手に返り討ちに遭う

 

 マチの受けたショックは大きかった。

 ちょっと刺激が欲かった。たった、その程度の動機であった。

 それなのに”正義の為”なんて大義名分を探し出して、自分を正当化させてまで覗きに行ってしまった。

 その結末がこのあり様である。

 正義のヒーローにも成り得る存在、マッチョンが誰でもない自分である事実。

 それで、何もかもが解決出来ると過信していた。

 でも結果は違っていた。何も出来なかったどころか、”また遭遇してしまったら?”、”自分に向けて迫ってきたら?”たった今も未知なる恐怖におびえている。

 亀之頭公園になんて行くんじゃなかった。

 噂なんて放っておけば良かった。

 正義の為なんて何を勘違いしていたのだろう。

 ただのヒーロー好きの趣味で充分だった。

 マチは、恐怖と後悔の納め先を探すことも出来ない。


 その日のマチは一人では家にも帰れず、ナチに家まで送って貰うこととなった。

 家まで送った後もマチのことが心配なナチは、暫くはマチに付き添ってくれた。彼氏であるマチの兄、一樹の部屋にも行かずに。

 でも、どうしても明日の大学の講義に出席が必要な為、ナチはマチが落ち着いた頃を見計らって帰路に着いた。もう、時刻は日付が変わる直前である。

 そんな状況なので公園で撮った写真やビデオ、音声録音を確認することは不可能であった。

 ナチが帰った後、マチは照明をフルに点灯させ、テレビにラジオまでも付けっ放しでベッドに就いていた。と言うよりも、実際はナチに寝かせて貰っていたに近い。


 自信もマッチョンと言う筋肉モリモリのマッチョンに変身すると言う、非現実的な事象を起こすに至ると言う経緯を踏んではいても、幽霊、魔物、怪物的なモノが、架空の恐怖的存在と言う認識は変えることは出来なかった。

 当然である。そんな得体の知れないものを直ぐに受け入れる訳がないのが普通の女子高生に決まっている。

 所詮、マッチョンと言う存在は肉体のみが変身した自分であり、変身後も思考は女子高生なのだ。

 それらとマチ自身の変身では、次元が違い過ぎている。

 人智を超えたパワーがあっても、どうしようも出来る訳が無い。 

 だから、怖くたってあたりまえだ。

 どうしようも出来る訳がないのだ。

 そんな恐怖と言い訳が脳裏を巡り、マチはなかなか眠りに就けなかった。

 それでも疲れていたのだろう、いつしか微睡まどろみの中へと落ちていった。


◆真夜中の訪問者

 

 気が付いたら、マチは手探りで歩いていた。

 自分の足元も見えない位に視界が悪い。

 肌にしっとりと、湿り気を感じる。

 何の光も届かない、深夜の深い霧の中のように思える。

 暗いのか黒いのか分からない闇の世界だ。

 同じところをぐるぐると彷徨っている感覚。

 どれだけ歩いたのだろう?

 霧は冷たさを増している。息苦しい。

 あれっ?!

 霧が水となっている。

 ただ、なぜか全く呼吸が出来ない訳では無い。

 でも息苦しい。

 逃げ出せない。

 助けて、助けて。

 呼べども呼べども誰の声も何の音も聞こえない。

 もうダメ。

 ・・・。


 マチが諦めかけたその時である。

 いつの間にか音もなく近づいた黒い影が、マチの頬に触れた。

 手のようでる。乾いた暖かい手である。

 マチはその手を掴もうとする。

 しかし、右の手も左の手も動かない。 

 どうしちゃったの?

 いつからだろう、体が全く動かない。

 体の何処どこ彼処かしこもが動かない。

 怖い。貧血の様に体の血の気が引いて行く。

 水の中なのに、背中を伝う冷や汗が刺すように冷たい。

 寒い

 怖い

 助けて!

 

 マチは、自分の心の叫びの大きさにハッとして目を開けた。

 明るい。

 点けっ放しの照明の光が目に刺さる。

 呼吸も楽に出来る。

 そこで、マチは夢を見ていたのだと気づいた。

 ぼうっとしたまま上体を起こそうとする。

 あれっ?

 でも、夢の中のまま体は動かない。

 目だけは動く。

 照明の眩しさも感じる。

 無性に喉が渇く。

 テレビやラジオの音声も聞こえない訳では無い。でも、脳裏に言葉が届いては来ない。

 瞳を動かし部屋の中を見回すことは出来る。間違いなく自分の部屋だ。

 (これって、かなしばり?)

 マチはそう思った。

 初めての経験で、ホントに金縛りと言うものなのかどうか分からない。

 でも、体は動かせないし、怖い夢から覚めても恐怖は継続されたままである。

 漠然と押し寄せて来る恐怖が。

(そう言えば、金縛りと言うのは、そんな感じだと聞いた事がある)

 マチは思い出した。

 ただ、そんな状況下でも何故か冷静さを取り戻して行く自分がいる。


 マチは、暫くはそんな状況下に身を預けるだけであったが、少しずつ頭が働いて来るにつれて、色んな思考が頭をよぎるようになって行った。

(そうだ、数時間前に亀之頭公園で怖い経験をしたんだ)

 それを思い出した瞬間、その時の恐怖が更に覆いかぶさって来た。

 夢の中で体験した様に、急速に体内の血液が抜けて行くのを感じる。

 冷静さを取り戻しつつあったマチが、突如パニックにおちいる。

 叫びたい。

 隣の部屋の兄を呼びたい。

 階下の両親に気付いて欲しい。

 でも、声を出そうとするも声にならない。

(キャー、なに?)

 気付くと、いつからなのか、夢の中からずっとなのか、マチの頬に誰かの手が触れている。

 乾いた暖かい手だ。

 しかし、マチには”何かに襲われる”としか捕えられない。

 マチはパニック状態に陥る。

 心の中で叫びまくるだけである。

 そんな追い詰められたマチの耳に、今度は声が届いた。


「お、お困りですか、おじょ、お嬢さん?」

 どもってはいるが、爽やかな好青年を思わせる精悍で優しい声だ。

 マチは反射的に我に返る。しかし、頭ではただの奇怪な声としか捕えられない。

 視線だけで暴れまくる。


「だれっ?!」

 と叫びたいが、マチの意志は声には出来ない。

 きっと、喋れたとしても、恐怖のあまり震えて聞き取れる声ではないかもしれない。

 それなのに察知したかの様に、そのマチの心の声に応えが返って来た。


「だ、大丈夫です。ち、力を抜いて下さい」

 そう言うと明るいはずのマチの部屋が、何処からともなく湧き上がる黒い霧に包まれ始めた。先ほどの夢の中の様に。

 視界が無くなったのは一瞬だった。それは、直ぐに取り戻されて行く。

 そして、黒い霧が晴れて行くにつれて、その中から黒いタキシードに正装された、若い男の姿がマチの瞳に映り始めた。

 マチは大きく目を見開いて、それを息を止めて見つめる。

 霧が完全に晴れる。

 現れたのは超が付くほどのイケメンであった。別の意味でも震えるマチ。

 そのイケメンが、マチの頬を触れている。

 イケメンは、肌は透き通るように白く、若干長めの薄茶の髪が耳を覆い、柔らかなウエーブが掛かっている。顔はあっさり塩味系でいかにも優しそうに見える。さらに、長身で脚も長い。

 ただ、驚いたことに横目で見ると、手は人間の手だが、足は膝までが草食動物のそれのように見える。

 そして、なんと被ったシルクハットの両脇からは角が出ているのだ。

 一瞬、現れたのがイケメンで、反射的に心も落ち着きつつあったマチであったが、よく見ると目の前の男は人間のそれではないことに気付く。

 マチは再びパニックに陥る。


「大丈夫です。落ち着いて、落ち着いて。悪い者ではありません。どちらかと言うと、あなたと同じ正義側の者です。多分この世界でも」

 とは言われても、亀之頭公園で見た黒い濡れた”あれ”と似ている。

「あっ、そうそう。室内なのに失礼しました」

 と言いうとマチの頬から手を離し、敢えてマチに見えるように草食動物の脚を、ブーツを脱ぐかの様に外し始めた。

 中からは普通に靴下をはいた脚が現れる。

 脚の指を「ほら、普通に動くよ」とばかりに、2~3度マチに動かして見せる。

 一安心したマチは、次に頭の方に視線を移す。これも外れます様にと願いながら。すると、


「これ?」

 と言う顔で、角の付いた帽子を取って見せた。

 これでマチの思う、いぶかしい部分が全て外れたことになる。

 どうみても一般的な人間。いや、一般人のレベルを逸脱した二次元的超絶イケメン。

 取り敢えず、マチはそれなりに落ち着きを取り戻した。

 ただ、今、目の前の超絶イケメンがこの世のものとしても家宅侵入罪は免れられない。

 マチの思考は、この上、窃盗、まさか強姦なんてことに至るかも・・・そう移行してしまう。

 今はイケメンを楽しむ余裕など無いことにマチは気付いてしまった。

 ともかく、怪しいことは間違いないわけだ。

 今度は、この世の現実恐怖が襲って来る。

 目だけで怯えるマチ。

 マチは、再び叫ぼうとする。階下で就寝中の両親に助けを求めるのが一番早い。

 しかし、やはり只今、金縛り驀進中ばくしんちゅう

 こんな時にマッチョンに変身出来れば・・・と思ってみみても、身動きが出来なければ肝心の”プロテインX”を飲むことは出来ない。

 

(もうダメ、襲われる!)

 マチがそう思った時であった。

 瞳の動きだけがパニックなマチに向かって、超絶イケメンが再び優しく口を開いた。


「あの~、暗示が掛かっているようなのですが、良かったら、解いて差し上げましょうか?」

 超絶イケメンの言葉に目で叫ぶマチ。

 当然、言葉にならない。目で話せたらであるが。


「あの~、暗示と言っても、大したものではありませんから。し、心配しなくても大丈夫です。

 そうですね~、そう、催眠術みたいなものなのですから」

 自信過剰であっても良いだけの超絶イケメンが、オドオドとした言葉使いでマチに話しかけて来た。

 それは、マチの叫んでいる目の表情が彼の心に突き刺ささるのが原因なのだろう。が、元々お人《?》好しの側面があることも否めない。

 マチは、このオドオドした態度に多少気持ちを軟化させつつも、不安で一杯の状況を払拭するには至らない。そんな気持ちは、冷や汗と目だけで表現されている。


「そうですね、喋れなかったですね。あの~、直ぐに今の金縛りの状態を解いて差し上げます。ですけど、騒がないと約束して頂けますか、大きな声もそうですが、強い感情を外に出されますと非常にまずいことになりますもので・・・」

 マチは落ち着く様に自分に言い聞かせながら考えた。

 自分に対して何かするのであれば、もう既に幾らでも好き放題出来る大バーゲン状態にあるはずである。ここで、頷いても悪い方には転ばないはずだ。それに余りにも丁重で、悪いことが出来そうに無さそうにも見える、と。既に家宅侵入中ではあるが・・・。

 マチは超絶イケメンの言葉に頷こうとするも、当然頷けない。それを見て。


「そうですね、お返事が出来なかったですね。OKであれば、白目を出していただけますか?」

 超絶イケメンは、そんな提案をしてくる。

 マチは了解したとばかりに、命一杯黒目を瞼の裏に隠す。

 彼女には確認する術は無く上手くできたか心配であったが、金縛りの中で綺麗な白目は完成したようだ。

 それを見て、超絶イケメンは優しく頷くと、マチの顔の前に右手を持って行き、指パッチンを一回行った。

 指が乾燥していたのか、かすれたヘボい音がマチの耳に届く。

 何やってんの?とマチは思ったが、

「これで、大丈夫です。動いて見て下さい」

 超絶イケメンは、自信満々である。

 取り敢えずマチは彼の言葉を不審に思いながらも、最初に思いを声帯で表してみた。


「こわっー!!」

 ついさっきまで声が出なかったせいで、つい力が入り過ぎ思った以上の大声が出てしまった。

 超絶イケメンは慌てて、マチの口を手で抑える。


「し~っ」

 それにはマチも何度も頷き、済まなそうな顔を返す。

 超絶イケメンは、マチの落ち着き具合を確認してから、そっと彼女の口に当てた手を外した。そして、その叫び声で家族が起きなかったことを確認すると、おもむろにマチに自己紹介を始めた。


「私は、”マラスキ・シャリー”と言います。この状況下でこんなことを言うのも変ですが、決して怪しいものではありません」

 マチの好きな米国の歌手に似た名で好感を感じる。それに、やはり見れば見る程に美しいイケメン。エメラルドグリーンの瞳に惹き込まれそうだ。

 だが、簡単に他人ひとを信じてはイケない。それは、子供の頃から祖父に言い聞かされて来たことでもある。


「・・・実は、あの公園、亀之頭公園と呼ばれているのでしょうか。そこで、あなた達の一部始終を拝見させて頂いておりました。そこで、あなたの適応能力を知ったのです。

 大変強縮なのですが、あなたにお願いしたことがあるのです」


「適応能力?

 お願い??」

 思ってもみない言葉にマチは首を傾げる。


「私も少し前から、あなた達同様、あの公園をマークしてたのです。

 それで今日も偵察していたところ、あなた達を目撃しました。

 恐縮ですが、あなたにはこの世界の一般人には無い能力ちからが備わっていると確信しました。

 その能力を是非活かして欲しいのです。

 是非、私の話をお聞きください。

 もちろん任意です。あなたがお断りになれば、無理強いをするつもりはありません」


 それだけでは、マチには何を言ってるのか意味が分からない。確かに特殊能力は持っている。何しろマッチョンに変身できるのだから。

 ただ、公園では変身はしていない。変身している所は見ていないはずなのである。


「取り敢えず、簡単に話してもらえますか?

 それから、詳しく聞くか考えます」

 まず、マッチョンの話を明かす前に話を少しだけ聞いてみることにした。


「有難うございます。

 では、まずは私の世界とこの世界の関係についてから・・・」


「はっ??」

 いかにも、異世界から来たような言葉である。

 それを聞いて頭が痛くなりそうであったが、一度してしまった約束は守るのがマチの矜持きょうじである。マチは口を閉ざして頷いた。


「信じて頂けるかどうか分かりませんが、私はこの世界と別世界から来ています。異世界と言った方が分かり易いでしょうか」

 マチは(やっぱりそう来たかー)頭が痛くなる思いであったが、茶々を入れずに黙って聞くことにした。


「実は、私の世界とこちらの世界には深いつながりがあるのです。

 あることを介してですが」


「つながり・・・って?」

 恐る恐る愛の手を入れるマチ。


「はい、そのつながりには良い面も悪い面あります。

 ただ、今回は私達は、非常に問題のある行為だと考えております。

 この世界に少なからずの危害が及ぶからです。

 正直言うと、私の世界と言うよりも、私の民族にもなのですが・・・。

 それを私達と一緒に防いでいただきたいのです。

 話は多少長くなりますが、お聞きいただけないでしょうか・・・」


 シャリーの話を要約すると次の通りである。

 ・・・・

<つづく>


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