6袋 背中からこんにちわ(ムズムズ)
マチは、不本意にもナチと一緒に「亀之頭公園」に覗きに、いや、噂の真相を調査に行くことになった。
◆おひとりごともままならなず
そうと決まると、せっかちなマチは気が早い。
明日の覗き、いや調査に心も躍る。
心が踊れば、体内の循環系統は活発となる。
マチは、次第に自分の下の方、それも内股辺りで異変が起こっているのを感じ始めた。
何かミミズを飼っているかのように、ムズムズしてくる。
これはマジヤバい。収まりがつかない。マチはそう思った。
「これって武者震い?きっと、そう。武者震い
でも、決行は明日だから、今はなんとか沈めなきゃだね」
武者震いな訳がないことは分かりつつも、まだ初心なマチには、そのムズムズを解消する行動に至るには罪悪感があり過ぎる。
この罪悪感は、正義とは相反する行為。この高いハードルを超えるには、大いなる大義名分が必要なのだ。何せマチは正義に熱い。
だが、そうだ!今は正義のために明日に決行を決めた亀之頭公園の件が重要なのだ。
体調管理が必須条件!
マチは見つけたのだ。正当性を。
かなり強引ではあるが、勢いのまま初めて一線を超えることを決意。
「ゴクリっ」
生唾を飲む。
少し怖いが、状況打開には止むを得ない。
止むを得なく踏み出すのだ。明日の為に。
マチは、恐る恐る我が侭ななその指をそっと内股へと向ける。
震える指が返って、敏感な素肌を刺激する。
妙な違和感があるが武者震いを慰める為だ、仕方がない。いや、むしろ好ましく感じる。
まだ、解禁前のマチにとっては、たかが己の内股とは言え遠い道のり。
初めての兄の行為を盗み聞きする時のようにドキドキする。いやそれ以上に。
でも、確実に忍び寄る我が指は、その時を近づける。
もう直ぐ、もう少し、もう直にその指先が今まで禁じ手として来たその領域に届く。
落ち着け、落ち着けマチ。トイレで用を足したに、ペーパーを巻き取ったその後と寸分も変わらないではないか。
あと、恐らくは5センチ、5センチ足らず。
とは思いながらも実際、心は期待で膨らんでいる。
そんな肝心な時であった。
無情にもマチの部屋にノック音が響いたのである。
「起きてますですか~」
小さくお淑やかな声なのだが、意外とその声は良く通り耳に付く。
興ざめるマチ。
「あ~もう~、うるさ~い」
一時中断した右手で布団を掴み、聞こえない様に頭から被ってやる。
しばらくの間、気付かぬ振りを決め込みお茶を濁そうとするが、いつまでたっても止む気配がない。
終いには、鍵を掛けてない部屋ノブを握る音までする。
「寝てまーす」
しょうがないので、マチは寝ていることをアピールすることにした。が、それがまた裏目となる。
「あっ、やっぱり起きてますですね~」
「寝てるっていってるのに、もーちょっと待ってよ~」
扉の向こうからは、「えへっ」と言うハニカミ音が、アピールしているかのように鮮明に聞こえてくる。
それがイラつきを増幅させる。
「もう~」
マチは諦めて、面倒そうに布団から抜け出でる。
そして、兄の部屋と隔てている壁際まで行き、先程まで聞き耳を立てる為に用いていた秀具”メガホン”を慌てて机の一番下の大きい引き出しの中に隠した。
そして、部屋内を見回し問題のあるモノが無いことを確認して、部屋の扉を少しだけ開けた。
扉の隙間から覗くと、そこには黄色いくまのぬいぐるみを持って、可愛らしさをアピールする姿が立っている。背丈がマチの肩程しかないのがこれまた腹が立つ。
もちろんそこに立っているの人物は、開ける前から分かっている。
誰でもない、一戦を終えてスッキリ笑顔のナチである。そのスッキリくっきりさんが、モノ申す。
「牛さん見ーつけ」
扉を開ける前にマチが発した「もう~」と言う怒りの言葉への反応であるとことはマチにも直ぐに分かった。分かったのだが、そこは敢えて聞き流すことにする。
無邪気な子供のような声でそんなことを言うが、つい少し前まで大人の喘ぎ声を出していたことをマチは知っているのだ。
ちょっと苛つきながらも唇を嚙みしめ、マチは極力冷静に一言を告げる。
「おやすみなさい!(夢にうなされろ)」
そう言って、扉を閉めようとするが、ナチの脚が既に扉の間に挟まっていた。
「いたたたン」
上目遣いで、マチにいたずらな微笑を向ける。はっきり言って、痛いのか嬉しいのか分からない。しかし、扉を閉める力を緩めざるを得ないのが人情と言うもの。
「もう~」と言いかけたその言葉を、マチは飲み込み言い直す。
マチも同じ轍は踏むつもりは無い。
「な~に?ナッチン」
マチは面倒くささを全面的に表現してみせる。
普段はおっとりした喋りと行動だが、ポイントポイントで見せるナチの素早い行動は、こんな時ほどマチを苛立たせる。
「もしかして、やってましたですか?」
「何を?」
「何をってあれですよぅ」
「はぁっ?」
「あ~れ、おひとり様で♡」
ナチの意図するところにやっと気づき、顔を真っ赤にしてナチを睨み付けるマチ。
「うそです。なんでもないですぅ。もう、冗談ですよマッチン♡」
怒り心頭のマチにも、ナチには悪びれた様子は全く見られない。それが返ってむかつくマチ。
こんなことで本気になって怒るのも、返って性的な弱さを露呈する様で釈然としない。
そこでマチは喉まで出かかった怒りを飲み込み。さらっと流すことに全力を注ぐことに決めた。
「なんでもないなら、おやすみなさい」
そう言って再び扉を閉めようとするマチであったが、そんな圧力にもナチは柳の様に受け流す。
そして、ナチはまるで体中に油でも塗ったかのように、扉の隙間で巧みに体を滑らせて、マチの部屋へと侵入して来る。
ナチの体は少しずつ、しかし、確実に廊下からマチの部屋へと移行しつつある。
こうなったら、もうどうしようもない。相手が一枚上なのである。
「はい、どうぞ!」
マチには部屋に招き入れるしか術がない。
「いいんですかぁ♡、すみませ~ん。一樹が疲れて寝ちゃったんです~」
満面の笑みのナチを尻目に、兄の精力の弱さを恨めしく思うマチであった。
◆公園の噂
何を話すでもなく、マチはナチの一方的なお喋りに生返事を繰り返していたのであった。が、やがてナチは今マチにとって一番旬なあの亀之頭公園の噂について語り出したのである。
「マッチン、知ってますか?夜になると亀の頭公園に、ずぶ濡れの変態が出るらしいんですよ」
「ああ、あれね。知ってるよ」
今まで生返事をして、ナチが部屋を出て行くのを待っていマチであったが、迂闊にも興味を示してしまった。
それに、ナチは掛かったとばかりに俯いてほくそ笑む。
「そうなんですよ。私の学校でも見たって言う人がいるんですよ」
それには、心底マチも喰いついた。ナチの思惑通りに。
「へ~、ホント!ナッチン、話聞けないの?」
「ん~最近その人、大学に来てないみたいですから、直ぐには無理かもしれません」
低身長、幼顔で、マッチョンの正体がマチだと知ってから年下のマチに対して丁寧な言葉使いをするナチ。それでも、そこは5年の歳の差が出てしまう。ナチは話の持って行き方が非常に上手い。
まんまとナチの話に喰いついてしまったマチは、結局なし崩し的に明日の亀之頭公園への覗き、いや、調査に一緒に出掛けることを認めたのであった。
◆そして、翌、日曜の夜覗く
いつもは土曜の昼にマチの家(兄の一樹)を訪ねて、日曜の昼前後には帰路に就く。そして、翌週の土曜までは顔を合わせないナチであったが、今日は一旦帰った後の午後8時に、マチは再度ナチと亀の頭公園前で合流することになっていた。
几帳面なマチは、5分前に待ち合わせ場所に行った。おっとりしたナチは、恐らくまだ来ていないだろうと。
だが、既にそこには迷彩服に、何が入っているのがオリーブ色の大きなミリタリーバッグを背負い、手にはこれまたオリーブ色のトートバッグまで持ち、更にライト付の黄色いヘルメットと、隠れたいのか目立ちたいのか分からない格好のナチが、几帳面にも既に街灯の下で姿勢良く立っていた。
ちょっと気が重くなったマチが話掛ける前に、マチの姿を見つけたナチが話しかけて来た。空いた手を大きく振りながら
「マッチン、見て下さい。バッチリ準備して来ました♡どうですか?」
「あっ、はあ、いいんじゃないかと・・・」
多少ヘルメットの色は目立つが(まあ、特に問題ないか)と判断したマチは、適当に受け流す。
「そうですか、良かった。マチさんも目立たない服装で良いと思いますよ」
「あっ、ああ、そ~。ありがと」
一応、マチも覗き、いや、偵察なので黒尽くめにまとめている。念のために手に持つトートバッグには、いつでもマッチョンに変身出来るように、”プロテイン X”と愛飲の”才色兼備茶300mLのペットボトル”も忘れてはいない。
しかし、それにしても目立たない格好と分かっていながら黄色いヘルメットを着用しているナチに対し、マチはナチの底知れない奥の深さに心を惑わすのであった。
二人はさっそく公園内に入る。
楽しそうに手を大きく振って真っ直ぐ前を見て歩くナチに対して、夜の亀の頭公園が初めてのマチの目は踊る。
噂には聞いていたが実際に目にしてみると周囲の様相に驚きを隠せない。
思ってた以上の光景に言葉を無くし、心臓はドキドキ。顔も暖房器具のように火照ってくる。
そんなマチを心配してなのか、ワザとなのか
「マッチン、風邪ですか?」
心配そうな顔を向ける。
「な、なんで?」
「顔、赤いです。熱あるかもですね?」
熱は多分ある。きっと、上がってるはずだ。16の微熱が。
今まで、薄壁を通して耳でしか得ていなかった行為が、視覚としてくつも入って来ている。
別次元に飛び込んだマチにとって、即時に新しい環境へ順応するのは難しい。体の保護機能は、過剰に機能してしまうのだ。
切望していた光景とは言え、やはり状況をエネルギーとして吸収するまでには時間がかかる。
マチはナチからの質問には敢えて答えず、話を逸らして落ち着くことに専念することに心掛ける。視野はなるべく狭くすることにする。
「ねえ、ナッチンは、兄貴と来たことある?」
「いや、えへ、あはっ」
逸らしたとはいえ、核心をついたナチの質問に苛ついていたマチは、はっきりしないナチにちょっと苛つく。
「来てないのね?」
声を荒げるマチ。
「来ましたですう♡。最近は、マッチンのお家にお伺いしているので来てないですけれど」
なんだ、やっぱり来ているじゃないかよと思いながらも、余計なことを言うと面倒になるので、マチは端的に質問事項を述べることにする。
「じゃあ、どこら辺で偵察したらよいか教えて?」
「はい。そうですね、噂の場所を隠れながら様子を窺うには、池を一周する遊歩道と、橋に向かうこの道とが交差してるところにベンチがあるのですけど、その後ろに大きなナラの木があって、その更に後ろに古いベンチがあるんですけど、そこがお勧めかと思います」
「詳しいね」
呆れながらそう言うマチ。
「それ程でも~、最近は新たな植樹や芝刈りも入っためいたいだから、全部は分からないかも・・・」
ナチの頭にはベンチ木々、草の一本一本までほぼ地図になって存在しているようである。
「じゃあ、そこに行こうか」
面倒な会話に発展することを恐れ、突っ込みたい心を抑えるマチ。
二人は、要最小限の会話で前に進む。
公園の奥は、行く程に心なしか温度が高く感じられ、カップル達の絡みも多様さを増して行った。
最初は視線が釘付けになっていたマチも、だんだん周囲の状況にも目も心も慣れていく。周囲に気を取られる過ぎることも無く目的地に向かっていると、それまで周囲の様々な行動に目もくれなかったナチが真剣な顔でマチに話しかけて来た。
「あっ、マッチン、あそこ見て下さい」
「どうしたの?」
なんだろうと思いながら、ナチが指さす方を向くマチ。
「ここは一樹と初めて××××した場所なんですよ」
「あっ、そう」
思わず握り締めかけた右手の拳に、左手で持っていたバッグを持たせ、心を落ち着かせるように池の方を見ると、マチの視界に池を巡る遊歩道を進む一組のカップルが目に入った。その女性は制服を着ている様にマチには見える。それもマチの高校の制服に。
マチは二人から目を離さない様に見つめていると、をどうやら池の中央の橋に向かっている様に見える。
マチはナチと相談の上、偵察予定の場所でカップル達を監視するのを止め、カップルとは反対側から橋を渡ることに決めた。
丁度、橋の中間辺りですれ違うように。
<つづく>