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5袋 君のパワーは10万N《ニュートン》(アル・リとチャル・バーの融合)

マッチョン危し、鏡子を救えないのか。

しかし、更なる力が・・・。

◆駄目だ!鋼鉄のキリンの首(大型クレーン)は全く持ち上がる気配が感じられない。


 集まった人たちは祈る様にマチ(マッチョン)に注目をしている。


(どうしたのマッチョ~ン、マッチョンの力ってそんなものなの~)

 マチは弱気になりそうになる。

 しかし、諦めない。


 心の絶叫を飲み込み、砕けそうな心に気合いを入れる。

 内股になりかけた大腿四頭筋を開き、再び風にさらす。

 乾いた風が湿った股間に気持ち良い。


 しかし、鋼鉄のキリンの首は横になったままである。


(このままじゃ、何のために出て来たのか分かんないじゃないか~、

 恥しいだけだ~)


 恥だ!恥だ!颯爽と登場して、何も出来ないなんて、ヒーローとして最も恥ずべきことだ!

 そうなのだ、マチに取って最大の屈辱。


 マチは次第に腹が立ってきた。

 力の足りない自分にではない。


 クレーンの重さにである。


(ちっくしょう。いい晒し者じゃないか~)


 重さと、恥ずかしさで顔が真っ赤かである。覆面の陰で見られることはないのであるが・・・。


 一瞬過った重さへの絶望が、怒りへと変わる。

 恥ずかしさへの怒りが爆発だ。


 そうだ、悪いのは一つ。クレーンの重さだ!


 重さへの怒りのパワーが筋肉に張りと艶を与えてくる。


 広背筋と腹筋には見たことがないボコボコなこぶが整然と並び、上腕二頭筋と大腿四頭筋には新幹線が走れそうな位の鋼鉄のような筋が浮かび上がる。


 背中の”マッチョン”の文字が”強調文字”に変わった。

 その時・・・。


「ギシ、ギシギシ・・・」


 マッチョンの筋肉の軋む音ではない。

 今度は、クレーンが軋む音だ。

 


 やったー、マチの短気が幸したのだ!

  

 巨体の鋼鉄のキリンが少しずづ首を持ち上げていく。


 町内の運動会以来の歓声が起こる。

「マッチョン、マッチョン」

 それは、野次馬たち一人が背中の「マッチョン」と浮き上がった強調文字を口にしたのが切っ掛けであった。


 続けて手拍子も起こる。

 町内の民謡大会以来だ。

 

「マッチョン、マッチョン」

 マチは調子に乗る。

 心の偽善的な部分が、次第に本心だったかの様に都合よく書き換えられていく。

 すると、パワーがさらにUPして行った!


「ベロンチョベロベロ~!」

 マチが叫ぶと、ついに重量上げの選手の様に高々と鋼鉄のキリンの首が持ち上がった。本体も横転する勢いでである。


「うぉー」

 凄い歓声が上がった。


 菜茅もうるうると感動した目付きで見ている。

 本当はマッチョンの力が見たかっただけで、人助けにそれ程思い入れは無かったのだが。しかし、それどころではない。マッチョンが非常に厳しい状況に陥ってしまっている。


「は・や・く」

 細々としたマッチョンの声に、野次馬達が一斉に車を押しにかかる。

 いつ現れたのか、マチの兄も押している。


 だが、車は動かない。

 つぶれた車は、シャーシとタイヤが擦れ合って微動だにしないのだ。

 それに反して、鋼鉄のキリンの首が持ち上がったことで、若干満足心に満ちたことで熱が薄れたことでマッチョンのパワーは次第に落ちて行った。

 マチの顔は、ようよう白くなりゆく。

 

「視界は少しあかりて、むらさきだちたる面が心細くたなびきたる」


 マチが、訳の分からない言葉を呟きだした。


 マッチョンは限界間近だ。


 危うしマッチョン。


「危機はマッチョ 力のいる時はさら也 潰れた車には猶マッチョの多く飛びちがひたる」


 マチがそう呟いた時だ。


 そこに助けがやって来た。

 力に自慢の近所のボディービルクラブの”マッチョ”の面々が飛んでやって来たのである。


「やあ~、それ~」

 彼らが上半身のシャツを脱ぎ捨てると、選手交代だ。

 全員が入れ替わると、彼らのパワーとチームワークは圧巻であった。


 掛け声に合わせて押しだすと、車が軋んだ音を立てながら少しずつ動き出した。

 鏡子の乗った車は次第に加速がつき、あっという間にクレーンの下から退避することが出来た。


 それを見て、マッチョンはクレーンを降ろし、荒い息のまま車の扉を引き剥がした。


 - まもなく -


 二人は救出された。

 その時鏡子は虚ろになりながらも、マッチョンのふんどし代わりのマフラーの隙間からパンティーを見た。

正油せいゆストアーの2枚で980円・・・)


 匂いフェチの彼女は、マッチョンに抱き上げられながら、こんな状況下でもしっかりとマッチョンの匂いも嗅ぎ取っていた。


(あれ、マチの香り?)

 甘い良い香りが心地よく鼻をくすぐる。


(もしかして・・・マチ? 内股にホクロが・・・)

 

 鏡子は、気を失いかけた影響もあり独特な思考を発揮し、体臭とパンティーの一致からマッチョンがマチの親戚であると解釈してしまった。一族が同じパンティーを穿き、同じ体臭な訳がないのにだ。

 そして、気を失いかけながらも、正三角形を描く内股の3つのホクロがやけに目に焼きついたのだった。


 一方、休出に成功した男達は、いや、男達と女子高生1マッチョンは、打ち合わせもなく得意げに道路の中央に列を組んだ。


 マッチョとマッチョンのコラボのポージングだ。

 その中心は当然マッチョンである。


 菜茅がどこから持って来たのかCDプレーヤーから音楽を流す。

 曲目は、”舞子釈マイコー シャクさん”の”スイマー”である。


(ジャンラ~、ジャンジャジャン、~・・・)


 競泳用の様なビキニパンツ1枚になったマッチョ男達と、毛糸のふんどし姿のマッチョンが、慌てて音楽に合わせ、泳ぐようなポージングで舞を披露する。


 彼らが、鏡子と彼女の彼氏が緊急車両の中でいち早く駆け付けた救急車によって搬送されるのを舞で見送ると、見物人達から歓喜の叫びが飛び交った。


 町内会の盆踊り大会以来の盛り上がりだ。

 その盛り上がりも最高潮を迎えた時であった。


 水を差す影が盛大に近づいて来ていた。

 盛大にやって来ていたのだが、歓喜の陰に隠れていて近くにくるまで誰一人として気づかなかった。


 それは、マッチョンを狙う緊急車両軍団である。

 それに逸早く気づいたのは菜茅であった。


「警察よ、マッチョン逃げて!」

 菜茅の声がマチの耳に入ってきた。

 

 一瞬逃げようと思ったマチであったが、思いとどまった。


(ちょっと待って、何で?)


 そうなのだ、今日は疑われることすらしていないのだ。

 幾らなんでも、鋼鉄の大型キリン(大型クレーン車)を倒したとまで疑うとは、とっても思えない。


 しかし、警察は、マッチョン目掛けて突撃体制に入っているのが手に取る様に分る。

 自分の周りのマッチョ男達は、既にシャツを着ており、下着1枚なのは(実際は、2枚重ねだが)マッチョンだけであった。毛糸の覆面帽子まで被っている。


 やっぱり見た目に怪しいのは間違い無い。一目瞭然である。

 また、事件に関係した不審者と疑われている。


「冤罪だ~」

 マチは叫びながら逃げた。

 青いポリバケツは、しっかり持っている。


 マッチョ軍団は、それを整然と見送る。ただ、変に巻き込まれたくないので、マッチョンを助けようと盾になってくれる者は、今回は見物人を含めて誰一人としていなかった。


 みんなは、マッチョンが逃げ切れると楽観視して楽しんでいるのである。

 

「マッチョン、時間が無いのよ!きんかわ、くりとり、はしたない、あそこで、またけい 向左衛門むかいざえもん、行くの助よ~」


 菜茅が意味不明な言葉を叫んでいる。


 そうだ、変身が解けるまでに時間が無いのだ。しかし、全くを持って菜茅の言っていることの意味が分らん。


(はぁー?何なのよ~も~、それ)

 と一瞬思う。


 普段で有れば意味が分らないままであろう。

 だが、切羽詰まったことにより、火事場の馬鹿力ならぬ馬鹿頭が働くのであった。


(そうだ、暗号だ!)


 菜茅は他の人に知られない様に、マチだけに分るように暗号で叫んだのだ


(普通、わからないよ~)

 とマチは、思うが分ってしまっていた。

 火事場の馬鹿頭で。


 こう言う意味だ。

「マッチョン。近所の川の、栗取りをした木のある橋下は誰もいないから、あっ、そこで待ったら(自慢の)軽自動車で向かいに行くから」

 そう言う意味である。


 マチは、逃げた。

 川に向って。


「スタコラ サッサー」と・・・。


◆ - 3日後 -

 鏡子は、コルセットをして登校した。

 ろっ骨にひびが入った程度で済んだとのことであった。


 彼女は、胸に負担がかからない様に肘から先だけで、ご免ライダーの変身ポーズを取り、マチに

「Sorry」

 と誤った。助けてくれたマッチョンがマチの親戚だと誤解してのことである。


 それを知らないマチも、変身ポーズで応える。マチは下手にでる者には寛大だ。

 マチは多くの人に助けられたことと、学校をサボり怪我をしたことにより気が弱くなったのが原因だと解釈した。


 これで、鏡子は謝ることで悪をやっつける本物の”ご免ライダーSooryソーリー”になったのである・・・


 今、マッチョンによって、バーチャルとリアルが融合したのだ。

 マチと鏡子二人の共通の世界が出来上ったのである。

 

 鏡子はヒーローお宅では無い。本物のあからさまのヒーローファンになった。

 誰の目もはばからずバーチャルを愛した。

 ヒーローを馬鹿にする者は、マチに変わって成敗する。


 マチもリアルの世界で彼氏が出来る。

 流かと思ったのだが、それはずっと先になりそうである。


 この後、二人は長い友人となる。



 しかし、マチが気になるのは、鏡子はマチに誤った後にウインクをして来たことである。


(どう言う意味だろうか?まさか・・・)


 家に帰ると、

 兄もマッチョンの大ファンになり、筋トレを復活させた様だ。


 母と二人で家中にマッチョンの写真を貼りまくっている。

 提供元は主に菜茅であるのだが、そのことはマチには内緒である。


 <つづく>

 

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