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1袋 運命の変身

このお話はフィクションです。全てを空想の世界のお話とお受け止め下さい。

くだらない話です。

◆ 少女は、一瞬の身体的な圧迫と微熱、そして、精神的な高揚と解放を感じていた。


 心の熱き正義感が血流に溶け込み、猛スピードで全身を駆け巡り始める。

 両肩、腕、胸が、そして、お尻とお腹に太腿、全身が心地よく締め付けられ、そして、ずしりとした重量感を感じる。

 しかし、何故か体は心地よく軽い。


 少女は体中に漲るパワーと、少々の熱苦しさを感じながら、緩やかに目を開いた。

 心身の気持ち良さとは裏腹に自分の姿への驚嘆が、頭の先から付き抜ける。


「ギャ~ァァァ!!」


 つい叫んでしまう。

 気が付けば、お気に入りのトレーナーは上腕二頭筋と三角筋により引き裂かれ、スカートは広背筋と腹筋に負け大腿四頭筋に引っ掛かり辛うじて、床に落ちることを免れている。そして、要のパンティーは可哀相な位に伸びきってパチンパチンであった。

 少女の身体は、あっと言う間に浅黒い筋肉の固まりへと変身していた。


「いやっ、うそ、何これ、どうしよう」

 それでもまだ、半信半疑だ。

 と言うよりは、信じられない。いや、信じたくない。


 自分の変わり果てた姿に目眩で倒れそうになるが、必死に正気を保ち自分の部屋にある等身大の鏡の前に立ってみる。


 瞬きを三回する。

 瞳をまん丸に見開く。


 もう一度気持ち良く叫ぶ。


「ぎえ~ぃ~~ゥォゥォ!!!」

 取り敢えず両目を瞑って叫んだ。


 叫んで、もう一度目を開けてみる。

(夢でありますように)

 が、姿は変わらない。

 驚きで涙も出て来ない。


「ドへ、五ボ、ちんカリ@:*じんぽ~+?=」


 頭が混乱してしまい、わけが分らないことを叫んでしまっていた。


 彼女は、一昔?いや、三昔前で言うムキムキマン。少し前で言うゴリマッチョになっていた。

 ただのマッチョではない。マッチョ好きな彼女が、かつて見た歴代のマッチョ達とは全く比較にならない人間離れをした筋肉の衣に包まれている。

 アニメの主人公にも負けそうにない抹茶。いや、マッチョになっていたのだった。

 

 私、”何とかハルク”や、”○パイ”になってしまったの?(※○=ポ)

 それなら、元に戻るけど、もしこのままの姿だったら・・・

 う、うそ、い、いや、ちょっと、どうしよう・・・


 不安と恐怖が覆いかぶさるように襲ってくる。

 襲って来るのだが、何かちょと違う。

 全てを否定していない自分がいる。


 それは、なぜか?


 美しい。美しいのだ。

 しかも、その体は浅黒く光輝いており抱きしめたい。と言うより抱きしめられたい位に美しい。

 でも、自分の体である以上、願いは叶わないのであるが。


 それだけではない。

 内心、変身願望の血が騒いでいる自分がいることに気付いてしまう。

(もしかすると、私、変身出来るのかも!)


 戻れなくなったらどうしようと言う気持ちと、変身出来るかもしれないと言う期待にワクワクする自分が攻防を繰り広げる。

 

そこに、彼女の叫び声を聞きつけた母親の呼び声が聞こえてきた。

 階段の下からだ。

「マチ、どうしたの?何かあったの~」

 彼女は、こんな体を、母親に見られたら、気絶されてしまうと思い取り敢えず返事をする。

「何でもな~い」

(良かった声は変わっていない) 

「あら、そうなの」

 母親は、居間に戻って行った。


 彼女は、再び鏡で身体を確認した。

 自分の姿に親しみを感じてきた彼女は、どうしてもフェチである三角筋を確認してみたくなってきた。

 早速、鏡に背中を向けて背筋を確認して見る。

 両手を腰の辺りから後ろに回しポーズをとって見る。ちょっと力を入れてもる。

 気持ちいい。その時。


「あれ?背中に何か書いてあるみたい」


 丁度リンゴに”寿”と言う文字を浮き出させる為に、リンゴがまだ、青いうちに”寿”シールを貼ると、シールの部分だけが青いままになり、”寿”の文字が浮き出てくるように、今、浅黒くなった彼女の背中には、同じように”マッチョン”と言う文字が白く地肌にくっきりと浮き出ているのだ。


「へっ?!マンチョンって書いてるの?」


 ウソ~、ちょっと、やらしくない?そう思いながら、後ろ髪をかき上げ、文字の部分に光が当たる様に角度を変えて再度見直してみる。見間違いであります様に・・・と祈りながら。すると、


「あっ、マッチョンって書いてる。って、マッチョンって何?」


 鏡に映った姿を見ながら、こんな状況で何故か”そこ”に気持ちが惹きつけられてしまうのであった・・・。

 

◆伊藤真知16歳。

 友達からは”マッチン”と呼ばれている。

 女子高に通う1年生である。

 運動も、勉強も性格に関しても特に可もなければ不可もない。

 ちょっと背が高めなことを抜かせば極々一般的な女の子だ。


 そんな彼女にも、絶対に譲れないものがある。

 それは正義に対する忠誠心だ。

 彼女は幼い頃から、アニメや特撮系、時代劇等の正義ものをこよなく愛して観てきた。

 その御蔭で、すっかり登場するヒーローに感化されてしまったのである。


 彼女は、”かつてヒーローものを観ていた人間が、悪いことをする”と言うのが全く信じられないでいる。

 そんな奴らは、ヒーロー達に対する裏切り者であるとさえ思っている。

 いつか自分もヒーローになって、裏切り者達をバッタバッタとやっつけてやる。

 と、そんな空想を描いているのである。

 

 当然、彼女の趣味もアニメや特撮系、時代劇等の正義ものの鑑賞や、ものまねだ。

 自分の部屋の中で、好きなヒーローの台詞や、動きを忠実に真似をしては一人で感動している。

 特に、正義のヒーローが、最終回に自分の身分をあかすシーンに憧れており、暇があれば部屋の中で一人芝居にに酔いしれるのである。

 一言で言えば、ただのヒーローお宅であると言える。


 さらに彼女には、もう一つ全く現実離れしたヒーロー意外にも興味を持っているものがある。

 それは、”筋肉”である。

 それも、ゴリゴリのゴリマッチョが大好きなのである。

 毎月発行される”ザ・月刊マッチョ”は写真が多いため若干高いのではあるが3年前から欠かさず購入しているのである。


 ヒーローお宅であることは、世間の女の子にも結構存在するので特に隠そうとはせず、周知の事実ではあったが、マッチョ好きに関しては、誰にも言うことが出来ずひた隠しにしている。

 マチは、変わっているだけではなく、一応世間体も考える。

 そんな女の子である・・・。

 

◆今日、マチは学校帰りに、道を聞かれた。

 腰の曲がった80歳過ぎのお婆ちゃんである。

 お婆ちゃんは、ウォーキングバッグを杖替わりに、マチの半分にも満たない位のスピードで、きょろきょろと、探し物をするかの様に歩いていた。


 ヒーローものをこよなく愛し、正義感の強いマチは、困っている人を放っておくことが出来ない。

 お婆さんが寒い中、道に迷っているのではないかと思うと、このまま通り過ぎてしまうことに罪悪感を感じてしまうのだ。


 マチは、いつもの様にごく自然に、お婆さんに話掛けてみた。

 すると、お婆さんは駅に行く為のバス停を探しているとのことだった。

 マチにとっては、道案内をすることなどは、何の苦痛でもない。

 むしろ、色々な人と知り合えることが楽しいことなのである。

 マチは、お婆さんをバス停まで連れて行き、バスに乗せてあげることに決めた。


 マチは、お婆さんと停留所に着くまでの間や、バスが来るまでの間に、色々な会話をした。

 と言うよりも、マチが一方的に自分のことをお婆さんに聞いてもらっていた。


 自分が筋肉モリモリのマッチョが大好きで、誰にも内緒なこと。

 小さい頃から、ヒーローものの特撮が好きで、ヒーローに憧れていること。

 マチは、身振り手振りを駆使しながらずっと話続けた。


 お婆さんにとっては迷惑かもしれないようなことではあるのだが、お婆さんは、とっても聞き上手で楽しそうに聞いてくれる。

 マチも学校の友人にヒーローのことを話すと笑われてばかりなので、嬉しくなってしまい、ついつい話が止まらなかくなってしまう。

 そして、最後にヒーローものの最終回で自分の身分を明かすシーンに憧れていると言うことを話そうとしたその時、残念ながらにバスが来てしまった。


「ありがとうね。助かりました。楽しかったわよ」

 お婆さんはにこやかな顔でお辞儀をする。

 そして、ウォーキングバッグの中から、漢方薬が入っていそうな小箱を取り出してマチに手渡した。


 箱には”プロテイン X(ヒーローペプチドコラーゲン配合)”と書かれている。


「この中には、20袋入っているんだけどね。1袋だけ、赤色の帯が印刷されているのがあるから、それは飲まない様にね」


 そう言ってお婆さんはバスに乗ってしまった。


「ありがとう・・・・」


 余りに急で、お礼を言うのが精いっぱいであった。


◆マチは夕食の後で直ぐに自分の部屋に戻り、お婆さんから貰ったプロテインXの外箱を手に取った。


「プロテイン X(ヒーローペプチドコラーゲン配合)か~」


 裏側を見ると、説明書きがあったので、読んで見ることにした。


「”用法容量”か~、何々。

 ”1日1回1袋まで”。ハイハイ。

 ”熱くなったら1袋を水によく溶かしてお飲み下さい”。 

 熱くなったら?熱くってどういう意味何だろう?”暑く”じゃないんだ」


 マチには意味が分らなかった。

 が、首を傾げながらも次を読むことにした。


「それで、

 ”効能効果”は、え~と

 ”漲るパワーと、溢れる闘志で、悪党どもはバッタバタ。効果は5秒で現れ、気持ちが続けば15分間持続します”

 ???

 なん、なんじゃこの説明書きは。意~味が分んない」


 マチは、プロテインXの箱を机の上に無造作に置き、テレビのスイッチを入れた。

 マチの大好きな”見て肛門”の時間だ。


 ”見て肛門”は勧善懲悪の時代劇で、番組の終盤で肛門様の家来である”透けさん”と”隠さん”が悪党共をバッタバッタとなぎ倒すと言う番組である。

 マチは、いつ観ても興奮の余りテレビの前で暴れてしまう。その為、この番組だけは必ず部屋で一人で見るのだ。


 今日も番組の終盤、丁度”透けさん”が最後の締めの印籠を見せ、悪役に印籠を渡しているところであった。

 いつもであれば、ここで全てが解決するのだが、今は19時42分。今日はいつもより3分早い。

 何と悪党共が、肛門様にいやらしい手を出そうとしたのだ。

 マチの怒りは絶頂に達した。

 頭に血は昇るは、体は熱くなるは。


 やり場のない怒りが込み上げてくる。


 マチはすっかり熱くなった!


 熱くなった瞬間にプロテインXの説明書きのことが、ふと記憶の引き出しを開けて頭を横切った。

 (熱くなったら・・・悪党バッタバタだ~。飲んじゃえー、ってか。)


 熱くなっているマチはあまり深く考えず、プロテインXを一袋取り出した。

 そして、机の上にある半分位残っているペットボトルのお茶に、それを入れると、よく振って一気に飲み干した。


 その結果が、背中に”マッチョン”と言う文字を白く浮き出した、浅黒い筋肉の塊である。


◆(マッチョンって何だろう?

 マッチョのことだろうか?)


 背中の文字は気になるが、筋肉の塊となり、鏡の前に立ってしまうと、取りあえずポーズを取らずにはいられない。


 筋肉マニアの性でる。


 ボディービルダーの様に色々なポーズを楽しむ。

 すっかり、自分の今の状況を忘れてしまっている。


 マチの一番お気に入りのポーズは、片足の膝を地面に付け、もう一方の足は膝を立てる。両手で力瘤を作り45度腰を回して、鏡を覗く。

 三角筋から、僧帽筋から、上腕二頭筋三頭筋にかけてがたまらなく美しい。

 下腿三頭筋と、大腿筋の盛り上がりを確認して「ニッ」と笑ってみる。

「思わず、抱かれたい」と呟いたその瞬間から・・・・。

 

 見る見ると筋肉が落ち始めた。

 

 微熱からは目覚め、気持ちは平静を取り戻し、血流は穏やかになる。

 身体から重量感は消えるが、返って体は重く感じる。

 オイルを塗った様なテカリは消え、浅黒かった色はすっかり褪め、白くなる。


 そこには色白のほっそりとしたAカップダッシュの女の子が、ぶかぶかになったパンティー一枚で片膝を付いている姿が鏡に映しだされている。


 いつもの自分だ。


(寝ぼけてたのかナ?)


 しかし、引き裂かれたトレーナーと、ずり落ちたスカートが事実を物語っていた。


 あと、ぶかぶかになったパンティーと・・・。


 <つづく>

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